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お陰様でくーぴーたん  作者: 稲村正輝
第1章 「黎明」
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第48話 「みなぎる自信」

自分がトイレの件で犯人としてマークされていることを知った俺ではあるが、今のところ俺であると特定されたわけではない。あくまで事件の犯人は全身真っ黒全裸の男だ。真っ黒男が俺であるという証拠がない以上、俺は捕まらない。俺はそのことに気づくと、突然勝ち誇った気分になっていた。

「なんだ、俺としたことが早とちりしてしまった。俺が捕まるわけがない!」

俺は高笑いしながら、壁に貼られた犯人追跡のポスターを眺めていた。目先の恐怖にとらわれることなく生きることは実に素晴らしい。今の俺のようにだ。何事にも順序というものがあり、その順序に従えばおのずと良い結果が得られる。恐怖なんていうものは只のまやかしなのである。結果から先に考えてはいけない。大事なのは、その結果を得るための過程であるからだ。この順序を大切にするということを考えていると、若林君のことを思い出した。


若林君は、順序を非常に大切に考える人物として有名であった。漢字の書き順なんかにもすこぶる敏感で、国語の教師が黒板に筆記している時も、若林君は常に目を光らせていた。教師が書き順を間違えようものなら、若林君は待ってましたと言わんばかりに奇声をあげた挙句に、

「順序!」

と叫び散らし、その後は教室の後ろの方で出来ない側転を何度もしたり、 教室のベランダまで出てヘチマの観察をしたりと教師側から見れば校内問題にまで発展するほどの問題児であった。それ故に教師の間からは、ベランダの風雲児と呼ばれ怖れられていた。


ある時、俺と友人の三澤君が教室で女体について談義していた。三澤君が、

「おい、おまえは何カップくらいが良いと思う?あへあへ、ほへほへ、むふふふふ」

と問い掛けてきたので、

「そうだなあ…。俺は胸に関しては特に拘りはないが、Fカップくらいあれば良い」

と答えた。

「おい、Fカップって…、それ大きすぎやしないかい」

三澤君はとても驚いてそのように言ってきたので、

「そうか?だって、A、B、C、Dだろ。その次くらいの大きさだから特に大きすぎるってわけでもないぜ」

説明してみたところ、

「Dカップの次はEカップだ」

と三澤君が冷静に指摘してきた。その時である。俺の後方約五メートル付近から、

「順序!」

という大きな声が聞こえた。振り返ってみると、制服ズボンのチャックからイチモツを出そうとして失敗している若林君がそこにいた。


朝、登校時の下足場でのことである。俺が上履きに履き替えようと、靴を脱ごうとした時である。

またしても俺の後方から、

「順序!」

という声が聞こえた。振り返ってみると、今度は誰もいない。はて、この声は確か若林君のものであるはずなのだがと思い、下足場付近を探してみたのだが、若林君の姿を発見することはできなかった。後日、それを一部始終目撃していた体育教師の目黒先生の証言によると、若林君は「順序!」と叫んだ後、俺から死角にあたる下足棚の陰に隠れていたらしい。今思えば、何故若林君は隠れていたのかは謎のままである。


これは最近の話なのだが、ある休日にコンビニへ買い物に行くと、たまたま若林君がレジで会計中であった。レシートを暗黙に渡さない店員に対して若林君は、

「レシートいるかどうかくらい聞け!」

とわめき散らしたため、店員が、

「どうも申し訳ございませんでした!レシートはいりますでしょうか」

と聞くと、若林君は、

「いらんわ!」

と言って帰っていった。何だ、普通に会話のキャッチボールが出来るのかと、俺はこの時大変驚いて、しばらく雑誌置き場の前で呆然としていた。

とりえあず若林君の話をしだすとキリがないということは理解してもらえたかと思うが、俺は若林君が大嫌いである。

兎に角、俺は捕まらんのだ。誰も俺が犯人であると思っていない。あの日、ここのトイレにいたのは俺ではなく、全身真っ黒の男だ。だから俺は捕まらない。今の俺と、あの時の俺とでは比べ物にならないくらいに姿形が違っている。マルヤマ塗装のじじいは、真っ黒の男しか目撃していない。俺は有頂天であった。事実ここ最近、俺に疑いがかかっている様子はまるでない。警察や自衛隊やFBIは、一生黒い男を捜索する他ないのだ。俺は捕まることはない。この自信は、俺を最高点にまで興奮させた。


しかし、ひとつその自信に陰がよぎることとなる。それはもう読者諸君はお気づきであろう、学長の存在である。

ああ、この後主人公はどうなるのでしょうか。学長は主人公が黒い男であるということに気づいているのではないでしょうか。このままでは、主人公は本当に捕まってしまいますまいか。

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