第2話 「痛恨の極み」
走り出してどのくらいたっただろうか。走ることだけに夢中になっていた俺は、自分が全裸であるということにまったく気づいていなかった。妙に股のあたり(陰茎から睾丸を経て蟻の門渡り付近、更に個人差によっては肛門付近までに範囲は及ぶ)がスースーするなあと思っていたら、このザマだ。
俺は立ち止まり、呆然となった。周囲の歩行者からの冷たい視線を感じながら、
「ハハハ、見てくれ。俺は裸だ」
と気力のない声で呟いた。
そうしていると、歩行者の一人である老婆が何やらこちらを見ながら携帯電話で話をしている。これはどうやら警察か、または警察に近い存在の者に俺のことを報告しているに違いない。そう悟った俺の頭の中では、つい先ほど実行した自分の卑劣な行為の数々が自動的にプレイバックしていた。
パンツなどの衣類を便器に不法投棄…、これはまだ可愛いものだ。だが、しかし、壁にけつをなすりつけたのは流石にヤバい。トイレの中は暗くてよくわからなかったが、確かだいぶ壁にうんこが付いたはずだ。どれくらいの量が付いたかは分からないが、まあ普通に怒られるレベル以上のうんこは付けてしまったと思う。別に趣味とかではないが、最近何気なく一人でダンスをよく踊っていたから、うんこを壁に付けた時もなかなかキレの良い腰の動かし方ができたので、結構自分なりに
「よし、決まった」
と思っていたのだが、別にそんな所で決めたりしなくても良かったと今更ながら思う。
あのババアが警察に報告したことで、俺は全裸で外を走っていたことにより猥褻物陳列罪で逮捕され、きつい取調べを受けることになるだろう。そうすれば、便器への不法投棄や壁にけつをなすりつけたことも全てバレてしまう。まあ、便器への不法投棄はまだ良いが、けつを壁になすりつけたことはかなり怒られそうだ。
俺は身体の底から不安になり、携帯電話で話すババアを見ながら全速力で、来た道を戻りだした。
「ちくしょう」
俺は走っている途中、この言葉を何度も呟いた。
トイレからこちらへ走っている時は無我夢中だったため全くわからなかったが、どうやら結構人通りの多い道なのか、田舎のクセに歩行者がまばらに見える。そして、すれ違う歩行者は絶対に俺を見てくる。
絶対にだ。
俺はイライラを抑えきれず、
「バス使え、死ね!」
と走りながら叫び散らした。
やはり結構な距離を走ってきたみたいだ。引き返し始めて30分はたってるはずだが、まだ例のトイレには着かない。走りすぎた疲労のせいか、かなり喉が渇いている。丁度良く自動販売機があったので、俺は何か飲み物を買うことにした。
うーん、どれにしようか。コーラが飲みたいが、炭酸飲料を飲んだ後に走ると腹が痛くなる。ここは安全策を取って爽健美茶にしようか・・・。いや、どうせ目的地はトイレなんだ。別に腹が痛くなっても怖くない。むしろ好都合だ。よし、コーラにしよう。
俺はコーラを飲むことに決めたのだが、肝心の財布をパンツなどと一緒に便器に捨ててきたみたいだ。
「くっそーーー!!!!」
俺は自動販売機を殴りつけたため手首の骨が折れたが、再びトイレを目指して走り出した。