プロローグ
――もう、ダメだ……。
そんな疲れきった絶望の色が男たちの顔に見え始めていた。
特に誰が言い出したわけでもない。恐らくそこに居る誰もがそう肌で感じてしまっているのだろう。
彼らは、すでにその多くが彼らの陣取る塹壕内に力なくへたり込んでいるところであった。
ふと、目に映った空の彼方が、すでに明るさを完全に失い、吸い込まれそうなほどの漆黒の闇へと変わっていることにボーと目が奪われてしまう。
――もう、あんなにも暗くなってしまったのか……。
しかし、辺りに飛び交う閃光の筋のせいで、見渡す限りモヤモヤと嫌に明るく、その真っ暗との境界がはっきりとしない。
「うがっ」
また、一筋の閃光に一人の男が霧散して空中に消えた。
だが、無数の蛍が飛び散るようなそんな儚い光には、もう他の誰も見向きもしなかった。
変わり映えもせずに一様に俯いて地面を見つめている。心身ともに疲労困憊の彼らが思うところはもう何もないのだろう。
その時。
「頭を下げろ!」
誰かが叫んだことに、反射的にみなが一斉に塹壕内へと頭を沈み込ませた。
と。
頭上に一際凄まじく勢いのある一筋の青白い光が右から左へと放射状に打ち抜かれ、刹那、五十メートル程先の地面で電流が走ったかのような火花が木々の高さほど横一列一斉に噴き出していた。その周りに散らばる無数の儚い光。同時に地震が起きたかのような揺れが起こり、次の瞬間、ズゴーンと重々しい轟音が響き渡った。
土がこの塹壕にまでパラパラと降りかかってくる。かの光の道筋では残像のごとく未だなお儚い光が飛び散っていた。
自然と全身が震えた。
――もうダメだ。
ひたすらに目を閉じ、銃を抱え、ただただ震え、祈るしかない。
「お、おい、あんなのがあるなんて、聞いてないぞ!」
「もうダメだ……」
「何言ってる!? 大丈夫だ! まだやれる!」
「もう少しの辛抱だ!」
そんな辺りのざわつきに耳を貸さずに。
「頭を下げろ!」
またもや聞こえる声に反応するものはもういない。もはやその声を聞かずとも、誰もがすでに塹壕内で寝転ぶなり地面に這い蹲るなり、果ては頭を抱えて縮こまるなりして避難しているのだ。
もう、体を強張らせ、ただただあれに巻き込まれないことを祈りつつ、今はただただ次の死線が過ぎ去るのを待つしかない――
だが、いくら待ってもかの光が頭上を通過した気配も通過する気配もまるでなく――
一人、また一人と塹壕から顔を出して様子を伺い始めていた。
「だ、誰だ!? あの男は!?」
一人の甲高い声が響き渡り、また一人、一人とその様子を伺いだす。
「うおおおおおおおおおお!」
次第に叫び声が大きくなり、湧き上がり、それと共に士気を取り戻す男たち。みな目を大きく見開き、銃を掲げ、見つめる先の男に歓喜を露わにする。
まるで、あの男の正面に見えない壁でも果てしなくできているかのように――
その壁に青白い光、だけじゃなく他の閃光までもが突き刺さり、その度にそこから壁伝いに光の波紋が広がっていく。そして、波紋はそこら中から無数の儚い光が湧き出しつつ衰退していき――
一言で表現すると、それは『素晴らしい』呆気に取られる光景でしかなかった。




