舞姫との闘い
「何してんの?カイル」
目の前で笑顔を浮かべる青年に話しかける。
「いやぁ、舞姫に立会人を頼まれてよ」
青年‥‥カイルは俺の問いに笑いながら答える。
「いやまぁ、それはわかるけどさ。だけどなんでカイルなんだ?」
「こうみえても俺は顔が広くてな。こういった試合とか決闘の立会人としてよく頼まれてんだよ。で、舞姫が決闘するっていうんで呼ばれたわけだ」
「なるほどじゃあ、よろしく頼むわ」
「おう、任せといてくれ。にしてもまさかマサルがあの舞姫と決闘とはねぇ」
カイルは腕を組むと感慨深そうに言い、しきりに頷いている。
「あのさ、さっきから言ってる舞姫って?」
先ほどから気になっている単語について聞く。
「ん、マサルは知らねぇのか?舞姫ってのはお前がこれから戦うCランク冒険者フィオナの異名だ。結構、有名だから知ってるもんだと思ってたぞ」
「俺は最近ここに来たばかりだから、初めて知ったよ」
「そういや、そうだったな。そういうことだからやるなら本気でやれよ?下手に手加減なんかしたらこっちが怪我するからな」
「それについては大丈夫。最初から本気でいくからさ」
「余計な心配だったか。なら頑張れよ貧弱剣士殿」
俺が笑顔でそう言うと真顔になってフィオナと俺の間に立つ。
「これより、Cランク冒険者フィオナとDランク冒険者のマサルとの決闘を開始する!ルールは相手の武器を落とすか気絶させれば勝ち。死に至る可能性がある攻撃は控えること。両者共いいな?」
「大丈夫」
「ああ、わかった」
フィオナ、俺の順に答えるとフィオナはレイピアを俺は刀を構える。
「よし。では、始め!」
カイルが高らかに始まりを宣言し戦いの幕が切って落とされた。
カイルの宣言と同時に俺は刀を鞘に戻し腰を低くする。
(先手必勝ってことで)
「クエリア流 無の型 【孤月】」
居合いの構えから孤月状の斬撃放った。
「っ!」
フィオナは驚きの表情をするが、それも一瞬。すぐさま切り替えるとレイピアを構える。
フィオナは素早くレイピアの剣先で斬撃を逸らす。
斬撃は明後日の方向へと飛んでいった。
「マジかよ‥‥」
「凄かった。これが剣聖の剣術‥‥」
フィオナは剣聖の技に感動しながらレイピアを構えた。
そして次の瞬間、俺に向けて走り出し突きを放つ。
俺はなんとかその刀で防御する。
「っ!」
「‥‥今度はこっちから。アゼラム流 【ティアレイト】」
フィオナが初めて技を繰り出す。
連続で突きが六回。
俺は防御は不可だと判断すると回避に専念することにした。
「無の型 【夕霧】!」
相手の呼吸に合わせて体を動かし、突きと突きの微妙な間を使って避け後ろへと下り距離を取る。
「あっぶねぇ‥今のは結構ヤバかったな」
なんとか躱した俺は冷や汗をかきながら安堵の声を出す。
「今のがフィオナの家に伝わる剣術か。凄い速さだな」
「‥‥うん。私の家、アゼラム家に伝わる剣術の一つ【ティアレイト】。‥‥今のマサルの動きはクエリア流?」
「ああ。無の型【夕霧】っていう回避技だ」
「さすが剣聖の技。躱せるなんて思わなかった」
「ああ。俺も躱せるなんて思わなかったからな」
お互い話つつも気を抜かず間合いを図る。
「‥‥またこっちから」
フィオナはそう言うと再び走り俺に肉薄しレイピアで突く。
あらかじめそれを読んでいた俺は危なげなく躱しこちらも刀を振るうが向こうにも読まれていたようで躱され足払いをかけられる。
「うおっ」
「‥‥甘いよ」
「ぐっ!」
俺はそれを飛んで避けるが追撃の突きを刀で防御するが吹き飛ばされる。
(やっぱり向こうの方が技量が上か。予想してたけど、さすがCランクってところか)
俺は吹き飛ばされ距離を取りながらそんなことを思いながら改めてフィオナの実力を感じる。
(やっぱり勝つには"あれ"しかないか)
俺は"あれ"を使うことを決めると刀を鞘に戻し居合の構えを取る。
俺のその様子を見てフィオナも防御の姿勢をとる。
「『諸刃の剣』発動」
『諸刃の剣』を発動させMPを0に、その分を速さに加算させ、いっきに加速しフィオナのレイピアを狙って刀を抜く。
金属のぶつかり合う音がし、場が静寂に包まれた。
「無の型【桜花】」
俺は技名を呟きながら納刀する。
フィオナの手にはレイピアはなく、はるか後ろに刺さっている。
「‥‥そこまで!勝者マサル!」
決闘もとい試合は俺の勝ちで幕引きとなった。