王都に着いて
商隊の馬車の荷台に便乗して王都へ向かって進んで何時間になるだろうか。空は赤らみ肌寒い風が吹く。
「あとどれくらいで着くでしょうか?」
俺は悴んだ手を擦りながら商人に尋ねる。ちなみにこの商人はバーグ、護衛はカイルという名前らしい。王都で冒険者を対象にした消耗品を扱ってる人で、そこそこ名が知られてるらしい。
「もうすぐそこですよ。寒いですか?すみませんね。盗賊たちのせいで毛布などの防寒具が壊れてしまって」
「そうですか。大丈夫です。さっきから魔物もあまり出てきませんし」
あれから何度か魔物の襲撃があったが俺が全て返り討ちにした。
「王都が近い証拠です。周辺の魔物は冒険者たちが狩ってくれるので」
「なるほど」
そうこうしていると壁らしき物体が見えてきた。
「見ろよマサル!城壁が見えたぞ!」
外でカイルが俺に伝える。
「おぉ!やっとか!」
荷台から身をのりだしカイルの指差す方へ向く。すると入口らしき門が見えてきた。そこにはうっすらと人の列が見える。
「ん?バーグさん。あの人の列は検問ですか?俺、身分を証明できるものがないんですが…」
「大丈夫です。冒険者になるために来たと言えば通してもらえます。それに私が証人になりますから」
「そうなんですか?ありがとうございます」
しばらく待っていると俺たちの検問の順番が来た。
「これはバーグさん。お久しぶりです。ずいぶんと長い間王都を留守にしていましたね。何かあったのですか?」
「はい。道中盗賊に遭遇してしまいましてね。護衛の方もいたのですが、少々分が悪く、ピンチになった所をこちらの少年に助けて頂きました」
「ハハッ!こちらの少年がですか?なかなか冗談が上手くなったようですな!」
(よしギルティ。即刻死刑)
俺の脳内裁判でこいつの未来は無くなった。その禍々しい気配に気付いたのかカイルが慌ててフォローする。
「い…いやいや!見た目に騙されていると足元をすくわれるぞ?なにせDランク冒険者の俺で敵わなかった盗賊をたった1人で倒したんだよ」
フォローをしているようだが少し本音が出てしまうカイルであった。
(…見た目が貧弱だって遠回しにいっているじゃねぇか!…やっぱ殴っとくか?)
物騒なことを考えながら俺は早く中に入れてもらうように商人に言う。
「そうですか。そこの少年は冒険者になるんだったな。なら通っていいぞ。冒険者ギルドは門を入って道を真っ直ぐ行った所にあるからな」
こうして俺はエカルト王国に着いた。
俺は辺りを見渡して日が暮れて暗くなってきていることに気付く。
(今日はもう遅いし、明日にでもギルドに行こうかな)
なんて思っていると
「マサルはこの後どうするつもりなんだ?」
とカイルに聞かれる。
「今日はもう遅いので今日はどこかの宿で泊まって、冒険者ギルドに行くのは明日にでもしようかと思ってます。ここら辺でそれなりの値段で泊まれるいい宿なんてありますか?」
するとバーグさんがしばらく考える様子をし
「なるほど。でしたらここから少し西に歩いた金の鶏亭などいかがですか?あそこならば冒険者向け、一泊食事付きで銀貨1枚ですし。それにあそこの料理はなかなか素晴らしい」
と言った。
どうやら、金の鶏亭という宿がいいらしい。商人が言うんだからそれなりのものなんだろう。
ちなみにこの世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類があり、銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で金貨一枚分。
普通の人の平均収入は銀貨五枚程度だそうだ。
ちなみに俺は師匠から金貨を二枚貰っているので銀貨一枚ならば妥当といった所だろう
俺はとりあえず礼を言う。
「ありがとうございます。今日はそこに泊まろうかと思います」
「いえいえ、お気に召されるとよいのですが。それに私は命を救って貰ったわけですから、礼を言うのはこちらの方です。私の商会は反対の東にありますので、何か御用やアイテムが欲しい場合はいつでも訪ねに来てください」
「(ちゃっかり宣伝すんのか‥‥)わかりました。何かありましたら訪ねてみようと思います。色々ありがとうございました」
「冒険者になるならまた会えるしな!またな!」
俺はそう言うとバーグさんとカイルに別れて金の鶏亭に向けて歩き出した。
しばらく歩くと金の鶏亭と書かれた看板が目に入る。
赤いレンガでできていてなかなか立派そうな作りだった。
「これなら期待できそうだな」
俺は誰になく一人呟くと扉を開ける。すると受付にいたいかにも女将さんといった感じの人に話かけられる。
「いらっしゃい」
「すいません。一泊お願いしたいのですが」
「あいよ。一泊なら食事付きで銀貨一枚だよ」
「わかりました」
俺は女将さんに銀貨を一枚渡す。
「毎度あり。風呂なら目の前に浴場があるからそこを、食事は一階の厨房に自由に言っておくれ。そうすれば部屋に持って行くから」
「わかりました」
俺は説明を受けると女将さんから鍵を貰う。
(とりあえず荷物を置いてそれから浴場に行くとするか)
そう決めた俺は二階にある部屋へと向かうため階段を登ろうとした時、考えごとをしていたせいか降りてくる人に気付かずにぶつかってしまう。
「あっ‥‥すいません」
ぶつかってしまった人が謝ってくる。
「いえ、こちらこそすいません」
俺もすかさず謝り、再び階段を登る。
そしてふと気になって振り返ると青い髪を伸ばし剣を腰に差した細身の女の子が下へ向かうのが見えた。
(凄い綺麗な子だったな。剣を持ってたってことは冒険者か騎士かな。ま、冒険者なら明日にでもまた会えるし、騎士なら関係ないか。さて風呂入って飯だ)
俺はすぐに気持ちを飯と風呂に切り替え部屋へと向かう。
(結局、今日中にはギルドに行けなかったけど明日には行くのか。楽しみだ)
俺は風呂に入って夕飯を食べ、布団に入りながらそんなことを思う。
そして俺は目を瞑る。
果たして明日は何が待っているのだろうか。
そんな期待を胸に抱いて。
ついでに金の鶏亭の飯はとても美味かったです。
ついにヒロイン?登場