真奈と志保 Ⅲ
完結しました~~!!(≧∇≦*)
そしてこの深夜tension
どうしよう?はよ寝ろですね
お楽しみ頂けたらと思います。
誤字・脱字等見つけ次第駆逐していきます
真奈が覚めると外はすでに夕暮れで窓から広がる夕日で朱く染められていた。
身体を起こすと態勢が悪かったせいかピキッと背中が鳴る。
掛けられたブランケットは院長のものだろう
時計に目をやれば短いのが5と6の間に留まっていた。
「あら、真奈起きたのね。ご飯にしましょう」
キッチンから美味しそうな香りを漂わせた院長が顔を出した。
久しぶりの院長の夕食は、真奈の好きなホッケのムニエルであった。けれどその芳ばしい匂いやホカホカと湯気を立ち上らせるご飯も今の真奈にとっては遠い画面越しのように見えていた。
「……美味しそうだね。いただきます」
出来る限り普段のような笑みを作り、夕食に箸をつけた。
それを見てホッと一息ついた院長に罪悪感を感じながらも、真奈はその後も味の判らない好物を胃に流し込んだ。
「ねぇ、真奈。志保の部屋の事だけどね。遺品整理に行かないといけないの。……真奈、手伝ってくれる?」
「うんいいよ…早く立ち退かなくちゃいけないもんね」
--行きたくないんだ
あそこはここ以上に面影が多すぎる--
その言葉は呑み込んで曖昧に微笑む。
「ごちそうさま。志保の件の予定組んでくるね」
呑み込んだ言葉が吐き出されないうちに部屋へと戻った。
---これは、夢だ。あの不思議な夢---
またこの一本道を真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ歩く。
ひらり、と薄紅の欠片が落ちてきて
仰ぎ見るとあの枯木が静かに妖しく色づいていた。
散り際の美しさに魅入ってしまって足が、体が言うことを聞いてくれない
「美しかろう、この桜は。動けぬほどに」
とん、と肩を触れられて漸くあの金縛りが解け、声の方へ振り向いた。
黒の着物姿の若い青年、その顔はお面をしていて見えない。
「名は“真奈”であるな?」
「…どうして……」
名前を知っているの とその問い掛けは何故か音に成らなかった。
発した四文字でさえ異様な雰囲気の青年を目の前に弱々しく震えていた。
「珍しくも届いたからの、儂のもとに」
見た目に反した老成した口調の青年は真奈の脇を通り過ぎ桜木に腕を入れ探ると何かを掴んで腕を戻した。
掴まれていたのは一通の便箋、紅葉柄の見覚えある便箋だった。
「緋の落篩…今は“ぽすと”なんぞと呼ばれているが、あれは儂へと文届けるか否かを想いの重みで振り分けるもの。昔、術師の女が造った代物だ。桜木まで辿り着いた文を黄泉へ届けるのが儂らの仕事」
「…仕事……便箋を入れた時の声は貴方だったのね」
真奈の言葉に青年が頷く。
「手紙が届けば自然と儂の声も姿も聞こえ見えるようになるからの。久方振りの客につい言葉を発してしまった。そなたの願いは“会いたい”じゃったかの…骨が折れたわい」
「本当に、会わせてくれるの?…志保に」
途切れ途切れの頼り無くも渇望する声それに応えたのは
「真奈」
右側に流れる川の音と共に聞こえた声で
見開いた目に映るのは指先で矢印をつくる青年。
「特例じゃ…その想いに免じて」
その矢印の先に
「志保!」
真奈の会いたかった人が居た。
川に浮かぶ小舟から志保が下りるとその足元に尾だけが黄金色の白狐が佇んだ。
「灯ご苦労さん」
狐に青年が労りの言葉をかけて抱え上げる。
「桜木の花弁が散るまで、良い時を」
と青年はカラコロと先程までは出さなかった下駄音をたて歩き去っていった。
「行っちゃった…気を利かせてくれたのかな」
志保が呟いて微笑んだ。
「志保、話したいって言ってたのはなんなの?」
「真奈は直球だよね、いつも」
「志保ははぐらかすでしょ、いつも」
志保が苦笑いしたのに小さく笑う。
「ねえ、話してよ…この時間無駄にしたくないの」
そう真奈にじっと見つめられ伏せ目がちになった志保の口が閉じたり開いたりを繰り返す。
「仕事場にあたしの両親だっていう人達が来たの」
診断もしたの……私の親だった
完全に下を向いていて志保の顔は見えない。
「真奈にとっての家族は、あたし達?それとも亡くなった両親?」
小さく頼りない声音で真奈の鼓膜を揺らす。
「私は……」
「ごめん。こんな事訊いて」
家族ってなんだろうね。
そう続いた言葉は重く、幾重にも織り込まれ隠されていた志保の心が滲んでいた。
「私の家族はね、
私を背負った大きな背中を持つ人、私を抱きしめる柔らかな腕を持つ人。私に安眠をもたらす優しい魔法を持つ人、私へと伸ばし、繋いだ手を持つ人
増えることがあっても減ることなんて無いの、きっと、ずっと」
志保の俯いた頭に乗る花弁を払いながら真奈はその頭を撫でる。
辺りは一面に薄紅色をしていた
時間切れまで僅かばかり
不意に撫でていた手を志保が掴み祈るように胸元に抱き込んだ。
真奈の手に心臓の刻む鼓動は伝わらない
「-------してほしいの。お願い出来る?」
「うん。任せて」
二対の瞳に映り込んだのは舞い落ちる薄紅と互いの笑顔だった。
「これ貰っていって良い?」
志保の部屋の整理が終わり孤児院にてお茶を啜っていた院長に真奈が訊ねる。
「良いけど、同じもの持ってるでしょう?」
「渡すの。志保の家族に」
近日、訪れた夫婦へそれを差し出す真奈がいた。
「知ってほしいんです。志保が、貴方たちの娘がどんな日々を送っていたのか」
渡されたそれーーアルバムを開き驚く夫婦に真奈は微笑んむ。
家族の話をしましょう
END




