表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

真奈と志保 Ⅱ

部屋を飛び出してからもうどのくらい歩いただろう

すでに11月の風が濡れた頬を冷たく乾かしていた。

ふと、顔を上げると雑貨店があった。そこはよく志保と一緒に小物を買った場所。私は吸い寄せられるように店の中に入っていった。


内装はさほど変わっておらず、無意識に私の足は便箋コーナーに向かっていた。

そこには様々な便箋が所狭しと並んでいた。

その中の一つ、紅葉柄の便箋が目に留まる

今頃は志保と共に温泉に浸かり、本物の紅葉を眺めていただろうに

そう考えてしまうから便箋から目を逸らしたいのに視線を動かすことが出来ないでいた。


『亡くなった人に手紙が届くなんて素敵じゃない』

また、声が聞こえた

もう聞こえる筈のない、もう一度聞きたいあの子の声が

おもむろに、ズボンのポケットを探る。

指先に当たるのは硬質な物、取り出したそれは500円玉。

これなら十分に買える。

私は右手に500円玉、左手に便箋を持ってレジに向かった。



11月23日 14:00

雑貨店から出て孤児院へ戻った。

誰もいないあの部屋に戻るのが嫌でダイニングに居座る

紅葉柄の便箋に志保の名前を、

生年月日と今日の日付を書いて最後に郵便番号の枠を黒く塗りつぶして溜め息をつく

「何やってるんだろ、私」

そう呟いてテーブルに突っ伏す。

「おかえり。真奈」

ふわり、言葉と共に頭に温かいものが乗る。顔を上げると微かに悲しみをのせた微笑みの院長が頭を撫でている。

「院長…私、私ね…」

「なあに、真奈?」

……志保に会いたい

そう言葉を零せば目を見開く顔があって、自分がどれだけ無理難題を言ってるのかを気づく

「…ほら、勝手に死んじゃった事説教しないといけないしね」

努めて明るく言うと院長は一瞬悲しい顔をして、でもすぐにそうね。と頷いてくれた

「私よりも早く死ぬなんて、志保は親不幸者ね。…それに妹の真奈泣かせるなんてひどい姉さんだわ」

「…私志保と同い年よ?」

?が浮かんでいるのが見えたのか、院長は真奈の隣に座り頭に置いていた手を今度は手の上に重ねた。

「真奈が来る前に志保はもう此処に居たでしょう。だから貴女は志保の妹なのよ」

まあ、しっかり者だったのは貴女の方だったけれどね

茶目っ気たっぷりに院長は言った。

そしてまた真奈の頭に手を乗せて撫でている。


此処に来て間もない頃の眠れない夜

この優しい手が同じように撫でてくれていた

撫でられているとまるで魔法にかかったかのように瞼が重くなるのだ。そして今現在もこの魔法は効果抜群らしい

……おやすみ……優しい声を最後に私は夢へと旅立った



私が目を開けるそこは長い一本道、脇には宙に浮いた提灯が並ぶ

「夢…だよね」

どうやら覚醒夢らしい

とりあえず、歩いてみることにした

歩き続けると一本道は別れ道になっていた。

しかし前方の道は枯れ木で塞がれ、右側は川が流れていた。

左側の道は何もなかったので、そっちに歩き進む。


「何これ…!」

目の前にひろがるのは無数のポスト

そのポストを見て無意識にズボンのポケットに触れる。

サカリ、紙の感触がした

取り出してみるとやはりそれは紅葉柄の便箋だった。

「うそ…じゃあこれって」

無数にひろがるポストに目を走らせる

赤、赤、赤と並ぶポストの群の中その色はあった。

なぜそれが緋色だとわかったのか私にもわからない

けれど、それが緋色なのだと脳が認識した

赤、ではなく緋、異様な存在感を放つそのポストに恐る恐る触れてみる。

ヒンヤリとした木の感触が掌から伝わってくる

ポストの開いた口に便箋を入れる。

 ストン

便箋が底についた音がして息を吐く。

どうやらその一連の動きに息を止めていたらしい

「久方振りの仕事だのぅ」

不意に背後から声が聞こえた。

振り返ろうとしたその時、視界が揺れた。

「また逢おう」

ぐにゃりと歪んだ視界の端で人影が笑った気がして


私は目が覚めた。


   ----to be continued----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ