でも喚ばれたのは、勇者じゃない。
ノリと楽しんでかいてたら、なんか阿呆な話に……
魔王。それは魔を統べる王様。
勇者。それは勇む者。
年開けたばかりの冬の日、世界は震えた。
――魔王、誕生の報で。
報じたのは、かつて勇者が倒した魔王城が近くにある国で。今回の魔王生誕も、その城で。
「そういうわけだから、ばっぱと喚んじゃって、勇者」
その国の王様は、召喚師に向かって一言いった。かつて魔王を倒した勇者を召喚せよと、すごく軽いノリで。
「ン百年も前に死んじまってるよ、老衰で!」
かつての勇者、アレイド・ゲイルフォード。ン百年前にダランカスという国に生まれた勇者。その人は魔王を倒したあと、平和になった故郷にて老衰で死去。
「何でもいいから倒せるの喚んでよ」
やはり王は軽いノリで。
「あぁ、もう〜!何が出ても知らないからね!あたしゃ責任持たないよ、わかっかい王様!!」
召喚師でもある魔女は、やけっぱちになった。
「うん、余が持つから。さっさと喚んで、はやくはやく」
あくびをしながら軽くせかす王様に魔女は切れそうになるのを頑張って耐えた。相手は一応こんなでも一国の王様だ。腹が立った勢いで呪ったらどうなるか。こんなに耐えるのはン百年ぶりだろうかと魔女は思う。
――そして、やけっぱちになった魔女がやけっぱちな術を行使して喚んだのは。
召喚の光に包まれ、現れたのは黒い髪を短く刈り上げた赤い瞳の猛々しい雰囲気の青年。顔色は青白く、がたいのよい長身を包むのは髪より黒い闇色のローブ。
「我が名はアウレリウス・アウグストゥス・アントニウス・アンセリウス・アドリアウス・アレクシウス・アルフォンセウス・アークラウス・アメリアウス・アンゲリウス・アーロンティウス・ロメンダイン、魔王である。勇者ゲイルフォードとの決戦間際にいきなり光に包まれ、ここにいた。――我と勇者の決戦を邪魔したのは、誰だ」
自称魔王は、よくとおるバリトンで名乗りをあげた。
そして、最後の言葉に王様以外のこの場にいたものは、一斉に王様を指差した。
「ほぉ……人間ごときが、我の邪魔をしたと」
「うん、余が喚んだんだよ。新しい魔王が生まれるから。君は魔王、強いんだよね?」
――王様はびくともしなかった。少しも臆さなかった。いつものアホな軽い王様だった。
「………………阿呆か、貴様」
魔王の方が、いたってまともだった。
「魔王アウス」
魔女が発言した。その言葉に、魔王が何故かぎこちなく振りかえる。
「アーシナ……?アーシナ?!」
「あたしだよ、アーシナだよ、あんた!!あんたがン百年前に勇者との決戦に敵前逃亡したあと、探しまくったんだ!ン百年も見つからずやさぐれてたら、そこの王様が魔王を倒せるやつを喚べっていったんだ。だからなかばやけっぱちであんたを喚んだんだ……まさか、あの時の敵前逃亡の裏がこれだったとは!」
「会いたかったぞ、我が嫁!」
「あたしもだよ!あんた!」
――召喚師は、魔王の嫁だった。
感動?の再会のなか、皆はおろおろするばかり。
――ただ、王様だけが余も嫁ほしい〜とほざいていたとかなかったとか。
――そのあと、突如現れた謎の英雄により、魔王はあっけなく倒される。魔王を倒した英雄は、自分を喚んだ魔女とともに姿を消したと言う。
後の世で謎に包まれし英雄などとうたわれる英雄がまさか、魔王だとは誰も知りたくはないだろう。
なんでアウスか。
最初の一字と最後の二字が共通してたから(アとウス)
名前は、ローマの皇帝の名前の長さにテストで苦しめられたなってふと思い出して、なんとなくああなったんです。