癒しウサギ=魔王?
軽いノリで読んで下さい。
がさがさ。
ごそごそごそ。
むぐむぐ。
「・・・・えっと・・・」
ここがどこであるか考える。
自分の部屋、だ。
1DKの自分だけの城。
疲れて帰ってきて寝るだけの城。
しかし自分の領土、と言う意味とても大事な場所だ。
生活基盤。
そこを。
黒いウサギがコンビニで買いだめしておいた某バランス栄養食を漁って食べている。
大事な夜食である。
営業職としてとても忙しい為、残業も接待飲み会も当たり前、バランスの取れた食事?なにそれ嫁と一緒で夢じゃないの?な生活を送って10年弱。
30代半ばにして嫁なんていない状態で侘びしい食生活で栄養失調にならないよう、野菜ジュースとこのブロック状の栄養食だけは高くても買い溜めているのだが。
1リットルのジュースのペットボトルは蓋が開いたまま空っぽで転がり、空き箱は散乱している。
その真ん中でまん丸い黒いウサギが未だガツガツと器用に両手でブロック栄養食をガリガリ囓っている。
「・・・・何してくれてんだ、このウサギが・・・・」
惨状を見ている間に沸々と怒りがわいてくる。
ただでさえ今日は忙しく、帰宅出来たのは終電という惨状。
飯も食えず、ひたすら企画書とモニタをにらめっこで目が痛い、しぱしぱするこの身体を引きずり、我が家へ帰ってきたというのに。
腹が立った。
怒っても良いはずだ。
「・・・・・ゑ?!」
ウサギはようやっと気が付いたらしく、慌てて逃げようとする。
しかし、逃がすはずがない。
「オイコラてめえ。俺の大事な夜食どうしてくれやがる」
「つ、つい空腹で・・・・」
「つい、でお前は人んちの食い物食い漁るのか、ええ?しかもウサギの癖に人間と同じ言葉喋りやがって。お前は何様ですか、アァ?」
「ま、魔王そのいち・・・です・・・・」
「あああ?!ふざけんなよ!何で魔王がウサギなんだよ!どこのファンタジーだそれ!謝れ!ファンタジーファンに謝れ!」
「で、でも本当だから仕方無いんですうううう!」
「魔王だって証拠見せてみやがれ!ウサギが魔王とかマジありえねえしっつーかそう言うのはファンタジーだけにしてもらえませんかね!」
ウサギの癖にひぐひぐと泣く様はとてもではないが魔王とは言い難い。
そもそも魔王とは超絶美形(例外あり)の人型か見るも耐えない醜悪で巨大な物体なのがお約束な筈だ。
それが何故にウサギ。
確かに黒いけど。
「えっと・・・・えっと・・・・め、目からビームダシマス・・・・・」
言うなりウサギの目から放たれたビーム。
しかし、それは威力がなく、レーザーポインター程度の光しかない。
「・・・・・あぁ?」
「す、すいませんすいません!ここ魔力の元になるものが極端に少ないんです!元の世界に戻ったらちゃんと山だって海だって割れますぅぅぅ!!」
「ふざけんなよテメェ・・・・・俺はなあ、ただでさえ仕事が忙しくってここ最近まともに寝てねぇんだよ・・・」
「お・・・お疲れ様です・・・・」
「そんな俺がだ、なーんでこんな茶番劇みたいな真似しなきゃならねえんだよ、おい言ってみろ!!」
「すいませんすいません!腹減ってるわ魔力不足だわで私も何も出来ないんですうううっ!出来るのはこのナリで魔王の癖に人を癒すぐらいしか出来ないんですううう!」
「魔王が人癒すな!!!」
「ごめんなさいいいいいい!!!」
「もういい!俺は寝る!その方がきっと良いんだ!!お前、散らかしたものちゃんと片付けておけ!!」
余りにも腹立たしいのでウサギをぺちっと床に下ろす。
ころんと転がるウサギ。
まるっと尻から生えている短い尻尾は確かに愛らしいのだろうけれども荒みきった心には何も響かない。
これ以上話をしてもどうしようもないし疲れている。
なので寝るのは間違いではなかったはずである。
ウサギはえぐえぐ泣きながらも食べた空き箱などを袋に纏めているのを見、スーツを脱ぎ散らかして布団に入った。
疲れが溜まっていたのですぐにまぶたの裏側が見え、そこからの記憶はなくなった。
朝だと目覚まし時計が鳴る。
「んー・・・・・・」
もふ。
むにゅ。
目覚まし時計だと思って掴んだ感触はいつもと違うものだった。
「・・・・・なんだこれ」
真っ黒い何かが自分の頭と目覚ましの間にある。
何度か触ると、暖かくもふもふしたそれが動いた。
「起きられましたか・・・・」
「・・・・・あ?」
「朝です。お時間ですよ」
「ああ・・・・・・」
顔を覗き込んできたのは黒いウサギ。
「・・・・・うわあああああああ!!!」
黒いウサギが喋っているのを見て、思いっきり後ずさる。
勢いが余ってベッドから落ちた。
痛いのでどうやら現実らしい。
「あの、大丈夫ですか・・・」
「い、いたい・・・・」
「大丈夫ですか・・・。あ、言われた通りにゴミは片付けておきました。本当に申し訳ない」
ぺこりとウサギがおじぎをしてきた。
「あ・・・・・え?」
「昨日、あなた様の非常食を私が食べてしまったのです・・・・」
「・・・・あああああ!!夢じゃないのか!」
「残念ながら・・・」
しゅん、とする黒ウサギ。
ファンシー系代表選手である。
「いや・・・・・て言うか何で俺の家に・・・?」
「はぁ・・・・稀にではあるんですが、召喚に巻き込まれるんですね・・・・事故です」
「・・・・はあ」
「で、本当は人型なんですが・・・・こちらの世界に来る時、身体の組成が変化します。その世界に合うように」
「・・・その結果がウサギ・・・?」
「お恥ずかしながら。魔王としての威厳は人型の時のみなのです。しかも人型を維持しようにも昨日の時点では魔力が枯渇しておりまして」
しょんぼりと耳を伏せる魔王ウサギ。
これはどこのファンシーですか?状態である。
「そ、そうなのか・・・・」
「しかし、あの菓子のような食べ物は良いですね。お陰で魔力が半分戻って参りました。本当に重ね重ねありがとうございます」
ぴくぴくと動く耳と髭。
魔王の概念をことごとく打ち砕く存在だった。
「そ、それは良かった・・・・な・・・」
「恐らく部下が気が付いてくれておりますので引き上げに来てくれると思うのですが・・・・」
「まさか部下も動物・・・?」
「なろうと思えばなると思いますがそうなると戻れなくなるのでおそらく人型で。ただ、それがいつになるのかはこちらからは窺い知れません」
ふう、とため息をつく魔王ウサギ。
「それでは、お世話になりました。あちらに戻ってから改めて礼をさせてください」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀する様は魔王のイメージから離れすぎている。
傍若無人に振る舞うのが魔王なのではないのか。
うっかり口からついて出てしまった言葉に、ウサギは耳をぷるぷる震わせながらこちらを見てくる。
「確かに・・・・人様に迷惑を掛けるような存在もおりますが、私の世界の魔王とは一種族の王でしかありませんので・・・・おそらく皆の考える魔族の王ではないかと思います」
「はあ・・・・・」
「私の国は基本人族や獣族と共存しておりますよ。大陸でもそこそこの繁栄をしております」
「・・・・その割りに食い意地が・・・」
「あ・・・・あれは余りの空腹で・・・・・普段の私はこのような事は・・・・・」
「ほー・・・・・」
「と言いますか・・・お時間は宜しいのですか?」
「今日は休みだ」
「ああ、土曜日という奴ですね」
何故嬉しそうなんだ、黒ウサギ。
これが魔王?これが魔王??これが魔王???
そんな疑問符しか出ない。
しかしはっきりと言おう。
ウサギは可愛い。悲しいかなこのウサギは可愛い。
しかもふかふかふわふわである。
男でも女でも愛玩動物には弱いものである。
あれほどの怒りも睡眠を取ればあっさりと消えてしまえるぐらいに。
「・・・おい、お前」
「はい?」
「部下?とやらが迎えに来るまではうちにいて良いぞ」
「・・・・・え?」
「その代わり、留守番しろ。ここは幸いペット可のマンションだからばれても怒られないし、ウサギなら外へ出入りとかいらんだろ」
ふわぁ、とあくびをかみ殺せずに伸びをしながら通じたか通じないか判らないがウサギに言う。
「あ・・・ありがとうございますっ!留守番でも何でもさせていただきます」
嬉しそうに動く耳と髭。
うん、可愛い。
「そう言えば、お前名前は?」
「玉兎です」
「へー・・・・よろしく」
それから魔王『玉兎』との共同生活が始まった。
続きは未定です。
ノリだけで書きました。
そして何気に前作とかと世界観が繋がってます。
そう言えばサラリーマンの名前出てねえや・・・。