稔
同性愛の表現があります。性描写などは一切ありませんが、嫌悪感を受ける方はご注意ください。
俺は、立川 稔。19歳。
いきなりだけど、好き、というか、えっと。憧れてる人がいる。
橘 一樹先輩。たしか今21歳。
俺の2つ上。
強くて、頭がよくて、すごく優しい人。
俺が理想とする姿そのもの。
一緒にいれたのは中学のときの1年間だけ。
生徒会長だった先輩は誰よりもまっすぐで凛々しかった。
教師達も、不良の集団だって先輩には一目置いていた。
あの人に少しでも近づきたくて、興味のない生徒会に入った。
笑顔を見れたら、1日中幸せだった。
話した日なんか、興奮して夜眠れなかった。
一緒の空間(生徒会室)で、橘先輩、と呼ぶと、ん?と振り返ってくれた。それだけで幸せだった。
これを恋だというなら、この恋は始まった瞬間に終わっているようなものだ。
だって、俺は男。先輩も男。
告白なんてできなかった。嫌われたくなかった。
それでも好きなんだ。姿を思い出したら涙がでるほど大好きなんだ。
この想いは一生隠しておこう。
そう決めたのに。
気づかれてしまった。
俺より2つ下の女子に。
名前は、たしか倉持 ゆりか。
端正な可愛らしい顔立ちで、俺もこんな容姿の女の子だったら橘先輩の隣にいれたかな。
なんてけして口には出さなかったが少し羨ましく思った。
俺が中3のときから、なぜか俺の周りをにこにこ笑いながらちょろちょろする子。
生徒会役員でもないくせに、毎日のように生徒会室に居座った。
ある日、いつものように彼女は生徒会室のソファに座った。
その日はたまたま俺しか部屋にいなかった。
そんなに会話が上手くない俺は、彼女が何か喋っても曖昧な返事くらいしかできない。
会話に困った倉持は、鞄の中から手帳を取り出し、写真を見せてきた。
「この人卒業生ですよね?あたしの幼なじみなんです。」
とか言うので見てみると、そこには橘先輩との2ショットが写っていた。
先輩の卒業以来、写真とはいえ初めて見る姿。
驚きが隠せなくて、動揺して、赤面したのを覚えてる。
俺の反応を見て、倉持の顔から笑みが消えた。
「…一樹が、好きなんですか」
俺は必死になって首を横に振った。でも、顔は多分半泣きになっていた。
ばれるわけにはいかない。こんな汚い感情閉じ込めておかなくちゃ。
否定したかった。でも、声は言葉にならず、その反応こそがもう肯定を示しているようなものだった。
「ふーん…」
目の前の女子からの、冷たい声。
怖かった。
否定されるんじゃないか。馬鹿にされるんじゃないか。罵倒されるんじゃないか。気持ち悪いと思われるんじゃないか。
先輩に、ばらされるんじゃないか。
言わないでくれ、と言いたくても、喉からはヒューヒューと音がするだけ。
すると彼女は、いきなり顔を俺の顔の前にぐいっと近づけ、にこりと笑った。
今までの可愛らしい笑みではなく、どこか計算しているような笑み。
「無駄ですよ。一樹、あたしの許婚なんで」
そう高い声で言った。
彼女のことは嫌いじゃない。でもどこか怖いんだ。
そして憎いんだ。理不尽だとはわかっているけれど。
彼女は、俺がなりたい姿そのものだ。
綺麗でかわいくて、なにより女。そして俺なんかよりずっとずっと強くて、自分を持ってる。
先輩の横に立っても違和感がない人。
生まれ変わるなら、彼女になりたい。
でもこれは、憧れじゃない。ただの嫉妬だ。
俺はただの普通の男子。
いや、俺なんかを普通なんて言ったら、普通の人に怒られるかもしれない。
顔は普通。頭は中の上。背は平均より少し低くて、運動もできるわけじゃない。
性格は卑屈で、人に嫌われない程度に優しい。
違う、優しいんじゃない。人に嫌われたくないから、親切にしてるだけだ。
中身もないし、やりたいこともない。他人の顔色ばかりうかがう日々。
先輩とは正反対の、つまらない男。
そして、男が好き。
もう、いいとこなんて全然ない。ひとつも見当たらない。
でも、この想いだけは消したくないんだ。
こんなみっともない俺の中にある、数少ない確かなもの。
好きなんだ。
一生伝えることはない想いではあるけれど。
稔は、自分が思ってるよりかは普通の子。むしろ他の2人が強すぎる。笑
ゆりかは、恋を知るまではだいたい普通の子。