ゆりか
見きり発車です。
あたし、倉持 ゆりかには好きな人がいる。
その人は2つ年上の、19歳大学生。
名前は立川 稔さん。
どこが好きって聞かれても、困る。いっぱいありすぎて。
しいて言うなら、いつも卑屈でネガティブで、うじうじしててすぐ泣く弱いとこ。
年上なんて一切感じさせないような、頼りにならない姿。
あたしを憎々しげに睨む瞳。
全部きゅんきゅんする。
笑顔なんて数えるほどしか見たことがない。
優しい言葉なんて一度もかけられたことはない。
それでも好き。もう存在が好き。
ほかの人間なんてどうでもいい。どんなに誰かを傷つけてでも稔さんが欲しい。
でも、彼には好きな人がいる。
相手はあたしじゃない。それだけでも嫌なのに、その相手は男。
そいつの名前は橘 一樹。
あたしの大嫌いな男。
あたしの4つ上の21歳。大学生。
嫌い嫌い大嫌い。
特徴をあげるとすると、顔がよくて頭がよくて人あたりがいい。家は代々続く名家でお金持ち。しかも長男。ついでに運動神経もよくて背も高い。
いまどき三高なんてはやらないのに、それをまさに具現化したような男。
これで腹黒とかならまだ可愛らしいけど、全然裏表のない性格。
上にはかわいがられて、下には頼りにされる感じ。
絵に描いたような完璧な男。
嫌味がないのが逆に嫌味だ。
こんなおもしろみのない人間に、あたしの好きな人は惚れたらしい。
どこがいいのか全くわかんない。
しかもこいつのせいで、あたしは稔さんに嫌われた。
たかが、あたしと一樹が幼なじみで親同士が決めた許婚ってだけで。
稔さんの繊細な心はおおいに傷ついた。
嫌いだ。本当に大嫌い。
あたしが欲しいものをこいつは簡単に手に入れられるのに、それに気づかずこの完璧男は、あたしに愛を囁く。
こんな男いらない。
欲しいのはたったひとつだけ。