六話目:ぬえちゃん大逃走なう
※前回のあらすじ
響子をいじめるべくお寺を油まみれにしてしまったぬえ。(五話目参照)
そしてナズーリンが動き出す。(五話目参照)
「お、いい感じいい感じ」
油まみれになってしまった服の代わりに、響子が貸してもらった服は、よりにもよって水蜜のセーラー服であった。
何故セーラー服になったのか、それは単純に水蜜が一番最初に服を貸すと名乗り出たからである。
名乗り出た理由は、今寺にいる者の中で自分が一番響子と体格差が少ないのと、
(響子に服を貸す? あ、でも、この子ならセーラー服似合うかも)
なんて思ってしまったからである。
そんなわけで、多少ぶかぶかとは言えセーラー服を貸してもらえた響子。
何気に御揃いだが、それより響子が驚いたのは水蜜の部屋に入れてもらい、その箪笥の中を見てしまった時。
そこにバーっと揃うセーラー服の群れ。それも、パッと見て違いが分からない。
「あの、なんでおんなじ服たくさん持ってるんですか?」
と聞いてみたら、
「同じじゃないわよ。細かいけど色、生地の厚さ、動きやすさ、保水力、緩衝度、丈の長さ(ミリ単位の違い)、それから……」
その他いろいろな項目が微妙に違うらしい。
正直なところ、結局あまり大差ないように思えてしまうのだが、それでも熱弁する先輩を見ると
(すごい、なんかよく分からないけど、でも、すごくかっこいい)
妙な感心をしてしまうのであった。
※ ※ ※
「ちっ、これからって時に帰ってきやがって」
一方こちらは、寺から少し離れた、妖怪の山一合目。
一目散にここまで飛んできたぬえは、息を落ち着かせながら木に寄りかかるように降り立った。
星はぬえの最も苦手とする相手である。あれに比べれば一輪や水蜜、それどころか山に居座る天狗や地底に住まう鬼すら可愛いもんだ。
なぜそこまで恐れるのか、まずこれは白蓮にも言えることだが、底知れぬ実力の持ち主だということがあげられる。
一輪や水蜜とは付き合いが長いだけに、彼女らのできることとできないことが大体分かるようになってきた。
だがさらにハイスペックを持つ星や白蓮は、本当に不可能などないのだろうかと思えるほど実力未知数なのだ。
その上で妖怪としての力のみならず、ぬえと相性が悪い法力までもを軽々と扱えるから性質が悪い。
(本当は相性が悪いとぬえが思い込んでいるだけなのだが、思いこみによりそれが現実となるのが妖怪の悪い点)
その上で白蓮と星を分ける決定的な違いは地雷の場所。
あくまで勘だが、白蓮は殺生など取り返しのつかぬことをしない限り苦笑しながら許してくれるという確信がある。
その地雷ポイントさえ踏まずに歩けば、例え相手が悪くても怖くはない。
だが星の場合、その地雷ポイントがどこにあるのかとんと見当がつかない。
性格は穏やかなのだが、中々感情を表に出さないので素性がいまいちつかみにくい。
しかも星は軍神代理。実は好戦的でした、なんてことが無いとも言い切れない。
よって、この地雷に関してはピンポイント避けではなく、保険の意味をこめて大きく迂回せねばいけないのである。
そしてもう1つ、星を敵にまわすには厄介な点がある。
「……ここまでくれば、そう簡単には分かるまい」
「悪いね、もういるよ」
背後から予期せぬ返事が届き、ぬえは心臓が縮みあがる思いがした。
もしやと思い木の裏側に回りこむと、その声の主、ナズーリンが木によりかかるように立っていた。
これがもう1つの厄介な点、忠臣ナズーリンの存在である。
小生意気で口が悪くしつこい、と悪い点だけで原稿用紙1枚埋められるほど嫌な奴だとぬえはつくづく思っている。
(実はナズーリンも、態度がでかい割に頭が悪く役に立たない、とぬえの悪い点を挙げるだけで原稿用紙1枚埋められるほど嫌な奴だと思っているのだが)
「な、何の用よ」
「この後において白を切るとは呆れた根性の持ち主だね。ま、それはいつものことだから何とも思わんが」
ナズーリンはそう言うと、腕を組んでぬえの方に向き直った。
「君が寺中を油まみれにした下手人だと言うことは子鼠から聞いている。それも、明日になれば大勢の門下生が来るというのに、だ。
無論、ご主人様があの程度のトラップに躓くとは思ってもいないし、他の誰が転ぼうと私の知ったことではない。
だがね、もし明日になり門下生が滑って転び、こんなつまらぬことで求心力が失われていくなんて馬鹿げた話があって良いと思うかい?」
「ふん、お前が困るならお前が掃除すればいいだけじゃんか」
「ゴメンだね。なぜ君の尻ぬぐいを私がしなけりゃならない。君が汚したんだ、君が掃除するのが筋って物だと思うのだけどね」
「言わせておけば、この子鼠風情が!」
頭にきたぬえ。
まず弾幕用を暗雲を展開、ナズーリンの視界を一気に奪う。
同時にナズーリンの足を踏み、逃げ道を閉ざした上で、親指に人差し指をひっかけ
「……不意打ちとは感心しないね」
「このぬえ様を怒らせたお前が悪いのさ」
ナズーリンの額めがけ、渾身のでこピン。
人間のでこピンは「痛い」で済むが、身体能力が出鱈目な妖怪の場合、それで済まないことも多々。
まして何もかも出鱈目なぬえの場合、その時の気分がおおよそ身体能力と言ってもいいくらい精神状態が体に反映される。
結果、後ろの木にまでめりこむ程度の衝撃を受けたナズーリンのKO負け。
もっとも、不意打ちに近いこの戦いを"勝負"と言って良いかどうかは別として。
「私に御説教なんて、千年早いわよ」
そう言い捨てると、ぬえは宛てもなく飛び立った。
※ ※ ※
妖怪の山、三合目。
沢沿いに飛んでいたぬえであったが、滝壺に河童が営む茶屋を見つけた。
「ん、そろそろ小腹もすいてきたし、甘味でも頂こうかな」
こう見えて(どう見えているというのだ)、甘味好きである。
そうと決まれば即実行。すぐさま急降下、茶屋の前に降り立つと適当に椅子に座り、店主に向かって言った。
「みたらしだんご2本とお茶1杯ちょうだい」
「それとヨモギだんご3本も。勘定は一緒でいいよ」
はいよーっと、中から店主の声。
一方、『誰だよ今ヨモギだんご頼んだ奴』と隣を見てみれば、いつの間にか座っていたナズーリン。
「げっ、いつのまに!?」
「勘違いしないでくれよ。私の奢りじゃない、君の奢りだ」
「だ、誰がお前なんかに奢るもんか!」
予想外のことに戸惑いながら、ぬえは店を飛びだすと全速力で山を飛び下りた。
自身の所業がしつこいことは別として、しつこい奴は大嫌いである。
おそらくナズーリンは自分が山を登ると予想しているから、降りてやれば、そう、霧の湖にでも隠れてやれば分からないだろう。
あまり速く飛ぶのは得意ではないが、それでも出来うる限りの速さで霧の湖に向かったぬえ。
「あー、疲れた、でも、ここまで、くれば……」
正直、だんごを食べそびれたことは残念だったが仕方ない。
あのうるさいのに目をつけられるよりよほどマシである。
霧の湖は、その名が示す通り今日も霧が溢れ、前もぼんやりとしか見えなかった。
何もない面白くないところではあるが、そんな中ぬえは霧の向こうで誰かが釣りをしていたことに気づいた。
霧のせいでよく分からないが、まあ驚かした挙句、湖の中に突き落としてやれば少しは腹いせになるだろう。
そう思い、慎重に近付いていく。
釣り人は蓑を被っていてよく分からないが、大きさから見るにまだ子供のようだ。
これは楽勝ね、そう思ったぬえは正体不明の種を身にまとい(これで相手には恐ろしい化け物に見えるはず)、肩を叩いて話しかけた。
「ちょっとあんた、その竿私に貸してよ」
振り向いた子がどんなに驚くかと期待してみれば、振り向いてみればなんとナズーリンであった。
これにはぬえが驚きである。
「君に貸せるのはこの雑巾だよ。せいぜい頑張って掃除してくれ」
正体がばれている以上、種は効かない。
ぬえはぽんと渡された雑巾をナズーリンの顔に投げつけ、同時に飛び立った。
(今度は、どこだ? どこなら気づかれない?)
悪知恵ならいくらでも働くぬえだが、追いつめられると弱い。
必死に知恵を絞り、ひらめいたのが『人の家の中』であった。
ならば、目立たぬ所にある家が良い。そうだ、魔法の森だ。霧雨魔法店だ。
もういい加減、全力で飛ぶのも疲れてきたが、仕方ないことである。
そうだ、もし主がいなければベッドを貸してもらうとしよう。いても脅せば同じ事だ。
そう思いながら飛び続け、ようやく着いた霧雨魔法店。
店の表には『不在御免』の掛札。
しめた、即座にぬえは侵入口を探す。
魔法使いの家ともなれば鍵は全て魔法、力ずくで開けるのは難しい。
だが幸いな事に、裏口のドアノブに手をかけると、何の抵抗もなく開いた。
主、魔理沙が鍵をかけ忘れていたのだ。
「よーし、邪魔するわよ」
入ってまずあったのがキッチン、それから廊下を進んでダイニング、階段を上がって物置、その向かいに見つけたベッドルーム。
和風派を自称する割にはベッドは実にふかふかで寝心地良さそうに思えた。
「人間の癖に、こんな上等な所に寝るなんて生意気ね」
寺に入り浸るようになったぬえだが、基本的に寺は布団で寝るのがセオリーなので、ベッドなんて久しぶりだ。
起きたらこのベッドを持ちかえってやろうか、なんて思いながら布団をめくると
「君もそう思うかい? 奇遇だね、私もだよ」
既にナズーリンが寝ていたものだから、もうぬえは頭が痛くて痛くて仕方がない。
「ところで掃除の件なのだが──」
「うるさいうるさいっ、お前はそこで永眠していろ!」
布団をかぶせ、反対側の部屋の物置を開ける。
そこにあったガラクタの中、何か良い物はないかと探して見れば錆びた鎖が目についた。
しめたと言わんばかりに、ベッドルームに戻って布団をめくる。
「改心したかい?」
まだナズーリンがそこにいるのを確かめ、
「誰がするもんですか!」
布団をかぶせるとベッドごと鎖でぐるぐる巻きにした。
「これでついてこれまい」
これで魔理沙が帰ってくれば、まずナズーリンも無事で脱出はできないだろう。
だが自身もへとへとである。できればどこかで休みたい。
他に安心できる場所、と言われても中々出てこないものだが、兎に角飛びながら考えようと裏口を開けると、
「やあ、階段を下りるだけなのにえらく遅かったね」
仁王立ちして待っていたナズーリン。
もう驚き疲れて、もしくは呆れて物が言えないぬえ。
そんなぬえの様子を見て、ナズーリンはニヤッと笑いながら言った。
「なんだ、もう息があがってるのかい? 情けないものだね。まあ、いいさ。まだ逃げるかい? それともまだ私を倒すかい? 私としてはどちらでも良いんだよ。
そうやって君が無駄なあがきを見せれば見せるほど、連れて帰る時に暴れなくて済むというものだ。さあ、思う存分逃げてくれ。どこだって構わないよ、君を探すなんて造作もない事さ。
そうだ、君を追っていたら小腹がすいた。また茶屋に逃げてくれよ。君を追うという名目なら経費で落とせるしね。今は抹茶パフェが食べたい気分なんだ、さあ早く」
※ ※ ※
昼下がり、ぬえは自分から寺に帰ってきたかと思うと、誰に言われるまでもなく雑巾片手に無言で掃除を始めた。
「ちょっと、あれどうしたのよ。ぬえが自分から掃除してるじゃない」
「ひょっとすると新たなる異変の前触れかもしれない」
そんなぬえを傍目に一輪と水蜜がこそこそ話をしているが、ぬえはそれに気づかず黙々と作業している。
作業こそしているものの、今、ぬえの頭の中では、あの憎たらしいことこの上ない鼠をいかに合理的かつ自分の手を汚さずに排除するか、それだけを考えているのである。
※適当な英単語の前に「ナズーリン」と付けると必殺技のように聞こえる。
※「ナズーリンペンデュラム」
※「ナズーリンロッド」
※「ナズーリンストーカー」
※「ナズーリン抹茶パフェ」
はい、どうも。作者の兎です。
今回は宿命のライバル、ナズーリンに登場してもらいました。
誰にとって宿命のライバルかと聞かれれば、その相手はボクです(ぉぃ
と言うのも、過去の作品を友人に見せた所
「おまえのナズは軸がぶれている」
と(もっと言葉を柔らかく)言われたことがあるので、言わば今回はリターンマッチとなりました。
イメージとしては、鉄拳制裁より精神的ダメージの大きい口撃がメイン?
原作での初対面巫女相手に「馬鹿みたいだね」と言いのけたあの感じを元にキャラ付けしてみました。
うまく表現できたかな。
さて、今回のお二人。
命蓮寺の「犬猿の仲」な感じを前面に出そうということで書きました。
全員仲良しというのもメリハリがないかな、と思って。
(勿論その方が平和なのですけどね)
いよいよ星蓮船キャラも残り1人と言いたいところですが、
見て分かる通りまだナズと響子が未対面なのですよね。
次回はどちらかと言えばKTさんではなくそちらを書いていきたいです。
たぶん。




