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二話目:響子ちゃんお寺に案内される

※前回までのあらすじ

響子ちゃん、憧れの命蓮寺に入門させてもらえることに。(一話目参照)


 少しだけ昔の話になるが、響子が初めて命蓮寺の事を知ったのは天狗の新聞でのことであった。

 その時既に響子は、廃れゆく山彦業界の煽りを受け路頭に迷っていた。

 そんなある日、偶然拾った1枚の号外新聞。

 くしゃくしゃに丸められ地面に落ちていたところを見ると、誰かが読んで捨てた物だというのは自明であった。

 何気なくそれを拾い上げ目を通した響子であったが、その記事に大きな衝撃を受けた。

 その記事こそ、命蓮寺設立の一報だったのである。

 具体的には『千年も昔の平安の世、彷徨える妖怪のために尽力した英雄が法界に封印された』ことから始まり、

 『かつての部下であった入道使いと船幽霊が法力で動く船を走らせ、毘沙門天の弟子が封印を解き放ち、千年の時を越えて妖怪の英雄が幻想郷に復活した』と聖復活の経緯を説明した部分が中心であった。

 この『彷徨える妖怪のために尽力した英雄』という部分が、路頭に迷う身であった響子を深く引きつけた。

 もしかしたら、この御方であれば私が行くべき道を示してくれるかもしれない。

 そう思うと憧れは膨らみ、いつしかこの英雄を復活させた3人の仲間を含め、彼女の尊敬の対象へとなっていった。

 余談だが、見る人が見れば分かるはずだが、この記事、大分現実とは異なった部分が多かった。

 まず、宝船騒動に変な勘違いを起こして乗りこんできた人間にまつわる事が、微塵も書かれていない。

 次に、騒動の裏側で事態を掻きまわしていた鵺妖怪のことも、全く書かれていない。

 最後に、この毘沙門天の弟子の一番部下である鼠妖怪のことも、やっぱり書かれていない。

 記者が脚色を加える過程で省かれたのか、本人に口止めされたのかは定かではないが、現実を伝える新聞としてはあまりに杜撰であるものであったことは否めなかった。

 しかし山奥暮らしで世間知らずの響子に、こうした現実とのズレが見破れるはずもなかったのである。



  ※  ※  ※  ※  ※



 今に戻る。

 そんな憧れを抱いて寺に飛びこんだ響子であったが、一輪に連れられ門をくぐり、現在玄関まで来て過呼吸に陥る寸前であった。

 先述の通りあの杜撰な新聞の影響で『白蓮と、彼女を救った3人の仲間』に強い憧れを抱いていた響子は、その1人である一輪に話しかけてもらえたというだけで幸せいっぱいなのだ。

 だというのに寺の中に案内してもらえるだなんて、幸福のオーバーキルもいいところである。

 いや、その前に緊張しすぎて死にそうである。憧れと緊張は表裏一体、距離が狭まるほど心的負担が重くのしかかるのだ。

(どうせ死んでも此処は寺だから墓地はすぐそこにあるよ、というブラックジョークは言わないでおこう)

 その上、外から見た寺も大きかったが、中に入ってみるとより一層大きく思えた。

 質素な中にも威厳のある立派で厳格な作りに目を凝らしていると、


「靴、そこの下駄箱の中に入れておいて。開いてる場所ならどこでもいいから」

「えっ、あ、は、はい!」


 不意を突く形で一輪に言葉を投げかけられ、現実に引き戻された。

 とりあえず靴を脱ぎ、幸い一番下の棚に開きスペースがあったのでそこに置いた。(あまり高いところだと背伸びしないといけないのだ)

 それから響子はひんやりする寺の床を踏みしめながら一輪の後をついていった。


「広い建物ですね」

「そう? 長らくこの建物に住んでいるからかもれいれないけど、別に私にとっては普通に思えるわ」

「凄いですね、迷子になったりしないんですか?」

「自宅で迷子って、洒落にならないわね」

「私はなりそうで怖いです」


 一輪は流石にそれはないと思ったが、実際響子は結構方向音痴であった。

 山奥で山彦に囲まれて暮らす分にはそれでも何ら問題がなかったからだ。

 帰り道が分からなくなっても、近くの山頂に立って大きな声で叫べば、同族がそれを返してくれるので、その方向に帰れば良いだけであった。

 なので、実は最初の頃は命蓮寺に来るだけで道に迷ったこともあったし、それ以前に大きな建物に入ったこともない。

 幸いだったのはここが平屋建てだったことだろう。少なくとも城や洋風建築の家にはとても響子は住めそうもない。


「そう言えば、今はどちらに向かっているんです?」

「応接室よ。そこの角を曲がった所。貴方もまず一通り話を聞きたいでしょう?」

「わぁ、ありがとうございます!」


 途端に響子の顔色がぱぁっと明るくなった。

 ここまで分かりやすい子を、一輪は覚えている限り見たことがなかったが、分かりやすい子は嫌いではない。

 むしろこの寺に居座るあの"捻くれた問題児の居候"に比べたら、よっぽど好感が持てるというものだ。


(この子の爪の垢を煎じて呑ませたらよくなるかしら)


 内心でそう思いながら、一輪は廊下の曲がり角にさしかかった。

 ちょうどその時、


「おぉっと」


 曲がり角の向こう側から突如人が現れたかと思うと、反射的に回避行動にでる2人。

 その、曲がり角の向こうからやってきた人物を見た途端、響子にはすぐにそれが誰か、初見とは言えなんとなく分かった。

 身の丈ほどある重そうな錨を背負い、緑をあしらった白のセーラー服という一見寺とは縁のなさそうな格好。

 この、どこから見ても『私、海出身妖怪ですよー』オーラを漂わせる彼女を、響子がかつて新聞で読んだ憧れの船幽霊と帰結させるのも無理はない事であった。

 実際その通り、寺の一員にして聖輦船の船長、村紗 水蜜その人である。

 この時、当然のように、収まりかけていた響子の心拍数はものすごい勢いで急上昇した。


「あれ? 一輪、その子どうしたの?」

「新入りよ。これからうちについてちょっと話するところだったの」

「ふーん」


 新入り響子にとっては一世一代の大イベントであったが、寺の住人である一輪や水蜜にとってはこれは決して珍しいことではなかった。

 そのためそれを聞いた水蜜が、いつものことか、と思うのも無理はない話なのである。

 一方、そんな冷静な対応を響子にまで求めるのは無理があった。

 あれこれ思考が巡る前に、響子はほぼ反射的に頭を下げつつ声を張り上げた。


「や、山彦の幽谷 響子と言います! よろしくお願いしますッ」


 びしっと90度垂直お辞儀を決めながら挨拶を果たした響子。

 だが正常な判断ができない状態で響子が発する大声は至近距離範囲内で十分な破壊力を持つのは先ほど確認した通りである。

 幸い寺の作りが強固だから建物が損傷を受けることはなかったが、近くにいた一輪と水蜜がダメージを受けたことは言うまでもないだろう。

 まして一輪の場合、先ほどの一撃からさほど時間を開けずにもう一撃である。

 このような悪意の無い一撃ほど対応に困るものはない。


「ず、随分威勢がいいわね。元気が良い子は好きだけど、もうちょっと控え目でもいいよ」


 のけぞった際に落とした帽子を拾いながら水蜜は苦笑を浮かべて言ったが、その後ふとあることに気づいた。


「もしかして、ここのところ門前で般若心経唱えながら掃除してくれる子がいるって噂になってたけど、もしや貴方?」

「はい、少しばかり御手伝いさせてもらってました!」

「なるほどねぇ」


 この時、村紗は少しずつこの山彦に興味を抱きつつあった。

 そもそも山彦自体見るのが初めてであったし、それを除いてもなかなか面白そうな子である。


「一輪、この子の面倒、私に見させてよ」

「……大丈夫なの? 村紗に任せると、少し大事な部分が抜けそうで怖いのよね」

「平気平気、いざって時はフィーリングで何とかするから」


 言うが早いか、水蜜は響子の手を握り、


「さあ、行くわよ!」

「えっ、えっ?」


 一輪の不安もいざ知らず、響子を引っ張る形で水蜜は応接室へ向かい駆けだした。

 響子は響子で、憧れの人に会ったかと思ったら次の瞬間には手を握られて引っ張られ、もう頭がまともに回らない状態でされるがまま状態。

 残された一輪だけが耳なりと頭痛に苛まれるのであった。

 

※幼女誘拐、ダメ絶対



はい、どうも。作者の兎です。

少々今回の話は短めかもしれませんが、話的には区切りが良いと判断したためここまで。

とうとう船長さん登場です。登場直後に掻っ攫いです。流石船長、やることが違う。

さて、次の話には新たに2人ほど出したいところです。

(一応、予定は決まっています)

まあ、次回ものんびり書いていきたいと思います。

たぶん。

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