表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

いじめ 〈後編〉

 “いじめ”といっても、昨今のニュースでとりあげられたり、テレビドラマであるようなひどいものではありませんでした。主に無視をしたり、私に聞こえるように悪口を言ったり、教室でわざと私に当たるようにキャッチボールをしたり、とそのくらいでした。

 特にMさんは私のことを嫌っているようでした。そんなMさんの態度に周りの子も左右されているようで、Mさんが休みの日は、私も教室全体もどこかホッとしているような感じでした。

 それでも私はMさんを恨む気にはなりませんでした。いや、「なりませんでした」と言ったらうそになるかもしれません。でも嫌がらせをされたりしたらその時は腹が立つけれど、それでも「Mさんは今辛いんだ」と思うと、何も言えませんでした。

 

 どうしてMさんが私のことを嫌っていたのか。その理由に思い当たったのは、中学も高校も卒業してずいぶん経ってからでした。

 中学2年当時、私はまだ大学病院に二週間ごとに通院していて、それは水曜日の午後でした。大学病院までは車で30分ほどかかります。母は免許を持っていなくて運転ができないので、父が車で昼休みに迎えに来てくれていました。

 父と母とそして私。3人でいつも病院に行きました。その光景を彼女は見ていたのではないか。そう思ったのです。

 その時Mさんが失くしそうなものを、私は持っていた。

 本当にそれが理由なのか、ただ単に私が気に入らなかっただけなのかはわかりませんが、そんなことを思うと、やっぱり私は彼女を恨む気にはなれないのでした。

 

 中学2年から3年になる時にはクラス替えはなかったので、そんな状態は卒業するまで続きました。

 私はいじめにあっていることを両親に言えませんでした。私が病気になったことでとても心配をかけているのに、このうえいじめにあっているなんて、とても言えませんでした。

 特に母は、明るくふるまってはいたけれど、病気になった私本人よりもショックを受けているように感じました。

 担任のY先生は、そんなクラスの状態に気付いているのかいないのか、Mさんをはじめクラスのヤンキーたちをまとめるのに精一杯で、私たちのことは何もしてくれませんでした。

 最も恨むべきは、Y先生です。

 なぜあの時、放送室のドアに鍵をかけておいてくれなかったのか。

 そしてこれは自分が仕事をするようになってからますます思うようになったことですが、あんな一生徒の個人的な情報を同じクラスの子に話すなんて、教育のプロとしてやってはいけないことだと思います。

 そしてもう1人。事情もわからずにペラペラと私たちのことをクラスに知らせたTさんです。

 この2人は今でも許せないし、許すつもりもありません。

 まあ、長い人生、許せない人の1人や2人や3人や4人、いてもいいんじゃないかと思います。

 

 ここまで、なんだか暗い話を長々と書いてきました。ちょっと読むのが嫌になった方もいるんじゃないかと思います。

 でも、ここから聞いてほしい。

 私はいじめられている二年の間、それは辛かったけど、死のうと思ったことはありません。

 私には、あの小児科病棟の子どもたちがいました。

 あの病棟で、学校に行きたくても行けない子たちがいる。生きたくても生きられない子たちがいる。

 その思いがあったから、二年間過ごせました。

 高校に入って環境が変わったら、いじめもなくなって、私も前のように明るい私になりました。

 だから今、いじめで自殺したというニュースを見るたびに思います。

 今いじめにあっている人に、あなたの今いる世界はせいぜい学校と家だけで、とても狭いよ、と言いたい。

 あなたの世界はそこだけじゃない。そこを出たら、もっといろんな場所があるし、あなたを受け入れてくれる人も、あなたの居場所もきっと見つかる。

 だから、そんなに簡単に命を落とさないで、と。

 そして、今誰かをいじめている人にも言いたい。

 私は中学の時いじめられていたということを、長い間言えませんでした。

 その後大学生になり、そんな過去のことも関係ないほどに楽しい毎日を送っていてもです。

 それは、「いじめにあっていた」と言うと、なんだか「この人、人付き合いに問題があるんじゃないかしら」と思われそうで怖かったからです。

 それほど“いじめ”の体験は、その人に深い傷を残すということです。

 

 世の中いろんな人がいるし、いろんな人間関係があるでしょう。いじめもなくすことはたぶん難しいと思います。それなら、いじめにあっている人がどう生きるか、いじめている人が自分の行為をどう考えるか、そんな対処法を考えることが必要で、一番の解決法なんじゃないかと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ