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書いたことが本当になる?

 小学校のころから文章を書くのが好きだったので、高校に入って文芸部に入りました。

 文芸部の活動は、春・夏・秋・冬の季刊誌と、秋にある文化祭で販売する(300円くらいで売っていました)「雑木林」という冊子を出す、というもので、なんだか年中しめ切りに追われていたような気がしますが、毎日書くことばかりを考えていて、とても楽しかった記憶があります。

 部員は十人くらいだったので、詩でも短編でも、一人3つくらいは作品を書かないと誌面を埋められません。書いた原稿は、顧問の先生ともう一人厳しい国語の先生に見せ、二人のOKが出ないと載せられませんでした。なので、「またボツった~」と言いながらも、楽しく書いていました。


 高1の2月くらいに、最後におじいさんが死んでしまう、という話を書きました。

 それと同じくらいに、こんな詩を書きました。

 

 「出発」

 桜が散って

 ビーズがこぼれた

 写真の中で

 「さよなら」って笑う人

 ――なんて寂しい日だろう


 これは「さびしさ」と一行ずつ書いて、それぞれの文字の下に何か言葉を続けて「さびしさ」を表現できないかなと思って書いたものでした。題名は後から考えたもので、何にしようか散々迷って、こんな新たな出発があってもいいだろうと思って決めました。顧問の先生に見せた時、「寂しい出発ね」と言われたのがなんだか印象に残っていました。

 

 それから4月になり桜が咲いて、散ったころ、祖父が亡くなりました。

 亡くなる直前まで元気で、土曜にはゴルフに日曜には選挙に行き、月曜の明け方には亡くなっていました。

 祖父のお葬式がすんでみんなで食事をしている時に、祖母の妹が誰に言うともなくつぶやきました。

 「これからまた、新しい出発ね」

 それを聞いて、あっと思いました。

 そのおばに、私はあの詩を見せたことはないし、話したこともありません。

 単なる偶然かもしれませんが、小さいころから祖父母と一緒に暮らしていて、おじいちゃんっ子だった私は“ビーズ”のような涙を流し…と言うとできすぎですね、でもそれ以来、「人が死ぬ話は書かないようにしよう」と思っています。

 また、高校時代くらいから、毎日ではないけれど書きたい時に書くという“気まぐれ日記”をつけていました。その日記は社会人になっても、もちろん今でも続いています。その日記を読み返してみると、「自分はこうなりたい」とか「こうしたい」という夢や目標が書いてあって、なんとなくその通りになっているなあと思います。

 そして、今から5年前、私は自分の運命を大きく変える作品を書きました。


 大学時代に合唱団に入っていた私は、社会人になってからその時の指揮者に誘われて、社会人の合唱団に入りました。

 35歳の冬、その合唱団の次の定期演奏会のステージでやる劇のシナリオを書いてほしいと頼まれました。その合唱団の演奏会では、4ステージのうちの1ステージは歌と合わせて劇をするのが定番となっていました。

 どんな話を書こうかと考えました。その合唱団や演奏会の歌の雰囲気から、明るい話にしようと思いました。そう考えてみて、ふと気づきました。

 私、今までハッピーエンドの話って書いたことないかも。

 高校時代から考えてみても、思い当たりません。

 ようし、それならこれでもかっていうくらいコテコテのハッピーエンドの話を書こう。

 そう思ったら、すぐに書き上がりました。

 次の練習に持って行って見せたら、「じゃあ配役も決めて」と言われました。

 主人公は男の子だったので、最近入った大学3年生の子に決めました。誠実そうで役のイメージに合っていたし、社会人よりも大学生の方が練習する時間があるだろうと思ったからでした。彼と結ばれる相手役の女の子にも同じ大学3年生を選びました。

 配役を一通り決めると、今度は「演出もお願い」と言われました。

 え、演出も?そんなに一人で何役もやらないといけないの?と思い、演出は誰か他の人に、とお願いしましたが、なかなか決まりませんでした。どうしよう…と思っていると、その主役の男の子が「僕がやります」と言ってくれました。

 自分が困っている時に助けてくれた人は、すぐ好きになってしまう私です。「なんていい人なんだろう」と年の差も顧みず、一人盛り上がっていました。

 演出家の彼と脚本家の私。初めての打ち合わせの日、彼は右手の薬指に指輪をしてきました。

 か、彼女がいるんだ…。

 「好き」といっても15歳も年下の彼をまさか本気で好きなわけがない、またいつものミーハーだと思っていたのに、なぜか、自分でも驚くくらいショックを受けました。そりゃそうだよね、大学生なんだもん、彼女くらいいるよねと、心の中で自分に言いきかせていました。

 友達に話すと、「でもこの年でそんなに好きな人ってなかなかできないから、その気持ちは大事にした方がいいよ」と言われ、そうだよね、彼女がいても、別に付き合うとかそんなことは抜きにしてただ好きでいよう、そう思っていました。

 演奏会は無事終わり、劇はアンケートでも好評でした。彼とは劇の打ち合わせ以外でも、日ごろメールをやりとりするくらいになっていて、「演奏会の打ち上げでいろいろ話しましょうね」というメールに私はすっかり満足していました。

 一次会で彼と劇の苦労話を一通り語り満足していると、二次会でも彼が隣に座ってくれました。

 不意に、彼の前に座っていたSさんが、彼に彼女がいるのか尋ねました。私は聞きたくないなあと思い(それまではっきり聞いたことがありませんでした)、彼に背を向けて隣のテーブルの会話に加わろうとした時、彼が「今いないんですよ」と言うのを聞いて、ええっ?!と振り返りました。

 そう尋ねたSさんは、その答えを聞いたのかどうか、なぜか尋ねっぱなしで隣のテーブルの話題に加わってしまい、私と彼とが二人で話す格好になりました。

 「彼女いないの?」

 「はい、だから今心に穴が開いたような感じなんですよ」と彼。

 「じゃあ、そこに私が入るってのはどう?」

 さすがに無理だろうなと思い、それでもこの合唱団でこれからも一緒に歌っていく以上気まずくなりたくないしと思って、冗談ぽく言ってみました。

 すると彼は「え?いいんですか?」と喜んだ。えええ~!?びっくり。

 

 というわけで、どなたももうお気づきと思いますが、その彼が今の旦那です。後で聞いた話によると、あの薬指の指輪の彼女は、あの初めての打ち合わせの日の夜になぜか別れてしまったのだそうです。

 かくして私は自分の書いたシナリオ通り、ハッピーエンドになったわけです。これはどんな婚活をやるよりももっとも有効な手段だったと思われます。今婚活されている方、保証はできませんがやってみる価値ありです。もしかしたら素敵なドラマが、現実になるかもしれませんよ。

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