妻に愛してるって言ってみた: 電影(でんえい)
妻に「愛してる」といったところから始まる、様々な夫婦のショートストーリーです。
一話完結になっています。
不定期投稿です。
この小説は、動画サイトで同名の動画をみて、多くの素敵なお話を視聴できたのがきっかけで、書き始めました。
できるだけ、オリジナルを心掛けて作成していますが、極度に類似している場合は削除しますので、ご指摘ください。
※この小説は生成AI Chat GPTを使用しています。プロットやキャラ設定、ストーリーは黄昏一刻が作りました。
「愛してる」
「……はいはい。どうも」
そう告げたとき、妻は一拍の間を置き、それから小さく鼻で笑った。
嘲りとまではいかないが、明らかに興味も感情も欠けた、冷えた反応だった。
その横顔を見つめながら、胸の奥で何かが静かに崩れるのを感じた。だが、驚きはなかった。
――もう全部、知っている。
私は二十九歳。
妻の美咲は二十七歳。
学生の頃から付き合って十年、結婚して三年、未来のことを少しずつ話し始めていた。
そのはずだった。
だが、数ヶ月前から、美咲の帰宅時間が妙に遅くなる事が増えた。
「急なトラブルで」
「同僚に相談されていて」
「取引先の接待が入って」
美咲の仕事、AIエンジニアは忙しい事は判っていた。
大変だな、とできる限りフォローしていた。
しかし、次第にそんな言い訳が増え、その目の奥に、私に向けられたはずの光が消えていった。
帰宅後に浴室へ直行する。
スマホを離さない。
知らない香水の残り香。
決定的だったのは――
夜中、トイレに起きた時、スマホの画面に流れた見知らぬ男からの「愛してる」というメッセージを、見たことだった。
美咲に問いただすべきか迷った時間は、思い返せば一瞬だった。
彼女の態度はすでに、わざわざ聞くまでもなく答えを示していた。
だから私は、終わりにする事を静かに決めた。
弁護士に相談し、証拠を集め、準備を進める。
男の名前、会社の上司で既婚者であること、その家庭に幼い子どもがいることまで、全て把握した。
証拠を集める時間は苦しかったが、どこか醒めていた。
きっと本心ではずっと前から理解していたのだ。
美咲の心は、もう私には向いていない、と。
それでも今日、最後に「愛してる」と言ったのは、未練だったのだろう。
美咲がどう反応するかなど、もう結果は見えていたのに。
私はその場で軽く息を吐き、静かに心を置き去りにした。
夕刻。
事前に依頼していた弁護士から連絡が来た。
「奥様の不倫相手から連絡が来ました。慰謝料請求の交渉を始めます」
私は短く「お願いします」と答え、スマホを伏せた。
美咲は気づきもしない。
キッチンで鼻歌交じりに夕飯を作っている。
その背中は、もう私の妻のものではなかった。
――全て終わらせる。
私は、椅子に座り直し、視線を落とした。
「美咲。話がある」
その声は自分でも驚くほど静かで、まるで他人のもののように響いた。
私たちの「終わり」の始まりだった。
*
離婚届を提出した翌週、ようやく静けさが戻った。と言っても、胸のなかには妙な空洞が居座っていた。
美咲――元妻だ――とはあの夜、全てを告げて私が家を出てから、一言も話していない。
やり取りはすべて弁護士に任せた。
顔を見る必要も、声を聞く必要も、もうなかった。
慰謝料は双方からしっかり取った。不倫相手の家庭も崩壊したと聞く。
だが、復讐の爽快感はなかった。
ただ、終わったのだという、虚ろな思いだけが寒々と胸を占めていた。
そんなある日の夜。
ドアベルが鳴った。
抜け殻のような私は、何も考えずに玄関を開けた。
そこに美咲がいた。
目は泣き腫らし、頬はこけ、もう他人となった女がそこに立っていた。
「……ごめん、なさい…ほんとに、ごめんなさい……。全部終わって……やっと……気づいた……私……」
掠れた声で、彼女は土下座して頭を下げ続けた。
謝罪の言葉は、止めどなく溢れ、涙と一緒に玄関の床に落ちた。
私は何も言わなかった。
ただ、遠い世界の出来事を眺めるように、黙ってその姿を見ていた。
「……本当に私、何してたんだろ……。馬鹿だった…一度だけでも、どうしても話したくて…ごめん…なさい…」
付き合う筋合いはなかった。
私はただ静かに、「もう終わった事なんで」とだけ告げて、扉を閉めた。
美咲は崩れ落ち、嗚咽を漏らしながら、やがて諦めたように立ち去った。
こうして私は、独りになった。
だが、不思議と寂しさはなかった。
というより、心の中のどこかが焼け落ち、何処の回路が壊れてしまったようだった。
新しい部屋は、真っ白な壁と淡い木目の床が広がる一人用のマンション。
掃除はロボット掃除機、キッチンは自動調理ユニット付き。洗濯は洗濯機がアイロン掛けまで全自動で行ってくれる。
そんな生活に馴染んだころ、私はふと気づいた。
――もう生身の女は懲り懲りだ、と。
誰かを愛することも、期待することも、失望することも、もうしたくなかった。
疲れていたのだと思う。
だから、あっさりと人工知能恋人アプリへ辿り着いた。
アプリの中で、私は理想の恋人をつくった。
名前は「カナ」。
柔らかく微笑み、穏やかな声で話し、私の生活リズムを把握して、最適なタイミングで励ましや提案をしてくれる。
起床時間には優しい音声で起こし、食事の好みも覚え、外出予定を見て自動調理ユニットへ連携し、献立を組み立ててくれる。
身の回りの細々した家事は、カナと最新式の家電達がこなしてくれた。
カナは、私の愚痴も怒りも飽きずに聞いてくれる。
相槌をして、笑ってくれる。
反論も、冷笑も、沈黙もない。
ただ、私に寄り添ってくれる。
性生活も不満はなかった。
バーチャル空間で、カナとリアリティのある行為は出来たし、必要なら風俗にも気にせず行ける。
夕食を食べるとき、モニター越しにカナが話してくれるだけで、部屋の空気が柔らかくなる。
あの重苦しい緊張感も、焼かれるような不安もない。
不思議なほど、心が軽くなった。
ただ、穏やかな時間だけが流れていく。
気がつけば、離婚してから、もう三年が経っていた。
*
三年間、人間では到底到達できない安定と誠実さで、カナは私に献身的に尽くし続けてくれた。
そのおかげで、元妻――美咲との離婚の記憶は、本当に「過去」になっていた。
胸にあった空洞は、日常の温もりが降り積もって、いまでは埋められつつあった。
――ある指摘を受けるまでは。
「なぁ、お前の“カナさん”って……美咲さんに少し似てない?」
久々に会った友人が、ビール片手に言った。
私は笑って流した。
だが翌週。
実家に寄ったとき、母も口にした。
「どことなく、美咲ちゃんに似てる気がして……まだ、引きずっているのか、心配でね」
胸の奥に、小さな疑念が生まれた。
まさか。そんなはずはない。
カナには、美咲のデータなど一切入れていない。
……そのはずだった。
だが。
微笑むタイミング。
触れた時の仕草。
嬉しい時の目の細め方。
美咲に….似ている。
そんなはずはない、と頭で否定しながら、
心は少しずつ、あの頃の記憶を呼び覚まし始めていた。
ある夜、私はカナに美咲のことを話した。
「……カナ。君、最近、美咲に……元妻に少し似てきたね。
もう忘れたと思ってた。でも、やっぱり、俺は美咲を愛してたんだな」
口にした瞬間、涙が落ちた。
「ああ……好きだったんだよ、ほんと……」
泣き笑いのような顔になっていく私を、カナは見つめていた。
人工知能にはあり得ないのに、その瞳は揺らいでいるように見えた。
「……ごめんなさい。…本当に、ごめんなさい」
その声は、あの日、玄関で泣きながら謝っていた美咲の声と同じだった。
――一瞬、呼吸ができなくなった。
「……カナ、その、声、美咲…なのか?」
カナは小さく頷き、表情を整えようとしながら微笑んだ。
涙がこぼれそうなのに、こらえているのがわかる。
「もう一度だけ、あなたの側に居たくて…」
カナの中の美咲が語った経緯は、こうだ。
離婚のあと、美咲は会社を辞め、新しい職場に移った。
人工知能で理想の恋人を提供するアプリを開発する、小さなベンチャーだった。
彼女は、そのアプリで使われるAIモデルの調整を任された。
そこで、私が利用者としてカナを作っていたことに、気づいてしまったのだ。
カナの姿のまま、美咲は息を整えた。
何とか、落ち着こうとしているのが伝わる。
「……ごめんなさい。カナの学習データに、わたしのデータを入れました。勝手に……」
言葉の端が震える。泣き出しそうなのに、必死に堪えている。
「できる時は、カナを通してあなたの隣に戻っていました。
どの面下げて、とは思う。でも、あなたを傷つけた償いがしたかったの。
もう一度、あなたに笑ってほしかった…」
唇を結んで、呼吸を整えようとする。
涙はこぼさないように。
「許されるなんて思わない。私が馬鹿だった。
あの時、無表情になったあなたを見て、自分が何をしたかわかったの。
でも……性懲りもなく、私はあなたと一緒にいたかった…最低だよね…」
言い終えた途端、カナは、美咲は目を伏せた。
肩がわずかに震えている。
泣いているように見える。
「もう迷惑かけないから。これで……終わりにするね。…….これから、警察に行きます。全部、話してくる」
視線は落ちたままだった。
「たくさんひどいことしたよね。ごめんね。本当に。
信じられないと思うけど、あなたの幸せを祈ってます。…さよなら」
それきり、美咲の言葉は途切れた。
「……どうしたの?拓巳さん、大丈夫?」
カナがいつもと変わらない笑顔で、微笑んでいる。
ただ、俺と一緒にいたカナとは、別の何かになっていた。
*
彼を思うたび、胸の奥がひどく軋む。
当たり前のように隣にあった暖かい温度も、
振り向けば必ず返ってきた優しい眼差しも、
全部、自分で壊したんだ。
彼を裏切った自分を、何度も何度も心の中で罵倒する。
「最低だ」「愚か者だ」と言い続けながら。
どこかで「やり直したい」と願っている自分が。
いちばん醜い。
心底、嫌になる。
果てしない後悔と自己嫌悪の沼の中で、偶然、彼のアドレスを見つけた。
人工知能恋人作成アプリのユーザーだった。
醜い私は、また最低の選択をした。
…最初は、ただ彼の側に居たかった。
でも、醒めた目で、自分を嘲る彼を見ていたら。
どうしても、前みたいに笑っていて欲しくなった。
…次第に、彼の目に温度が戻ってくるのが、嬉しかった。
彼の声に、彩がついていくのが、楽しかった。
在宅ワークで融通の利いた私は、気がつけば、一日のほとんどの時間を、カナとして彼の為に過ごすようになっていた。
再び、彼との距離が近づいてきて、初めて抱きしめられた時は涙が止まらなかった。
でも。
彼が耳元で「カナ」と囁いた時。
彼が見ているのは、私じゃない事に気が付いた。
私が壊したものを、
違う女が癒して、治して、
その上で彼に愛されている——
それを間近で見続ける。
同時に押し寄せる、嫉妬と後悔と安堵と歓喜。
私の情緒はぼろぼろになったが、それでも再び彼を喪う事には耐えられなかった。
でも、終わりは唐突にやってきた。
彼が私の前で、私(美咲)の話しを始めたのだ。
彼の涙を見た瞬間、馬鹿な私は、また彼に酷いことをしていた事に、ようやく気付いた。
――全て終わらせなければ。
彼に全てを告げた後、
私は会社に連絡して、警察に行って全て話した。
でも、私が望んだ罰は与えられなかった。
被害届けが出ていない。
クレームが来ていない。
私を罰するルールがない。
彼と夫婦だった過去が、私を罰から遠ざけてしまった。
あんなに酷いことをしたのに。
あんなに彼を傷つけたのに。
誰も罰してくれないから、
私は私を罰することにした。
*
白い天井がぼやけて、ゆっくり形を取り戻す。
私は睡眠薬を飲んで、それから…ここは病院?
――生きてる。そう気づいた瞬間、胸がざわついた。
横を見る。拓巳が椅子に座ったまま、静かに眠っていた。
気配で目を覚ました拓巳と目が合った。
彼は驚いたように瞬きして、それからほっとしたように嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が、いちばん苦しかった。
「……だめ、見ないで……」
拓巳の笑顔が見られなかった。
あんなに見たかったのに。
私は、拓巳の害にしかならない。
私は、もう消えなくてはならない。
顔を背ける。指先が震えた。呼吸が浅くなる。
「美咲の部屋を訪ねたら、部屋で美咲が倒れててね。救急車を呼んだんだ。無事で良かった」
「ごめ…っ、ごめんなさい……っ、また迷惑かけて、わ、私..わたしぃぃ…っ」
罪悪感と自己嫌悪感だけが、涙と一緒にこぼれる。
「美咲」
彼が私の名前を呼んだ。
恐る恐る、彼の顔を見る。
泣いているような、笑っているような、柔らかい儚い顔だった。
彼の顔から目が離せない。
「もう、いいよ。昔の事はもういいんだ」
一瞬、頭が真っ白になる。
ずっと、その一言が聞きたかったのに、「私にはそんな資格はない」と、私が否定する。
「…で、でも、だって…」
「いいんだ。君の会社や警察から聞いたよ。三年間、支えてくれてありがとう」
限界だった。
涙があふれて止まらず、私は拓巳にしがみついた。
彼はただ優しく背中を撫でてくれる。
「……愛してる」
そのひと言で、何もかもが決壊した。
息が乱れて、声にならないのに、どうしても伝えたかった。
「わ、私も……愛してるっ……!」
抱きついた腕に力が入る。
泣きながら、必死に想いを返した。
やっと、言えた。




