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妻に愛してるって言ってみた: 電影(でんえい)

作者: 黄昏一刻
掲載日:2026/04/02

妻に「愛してる」といったところから始まる、様々な夫婦のショートストーリーです。

一話完結になっています。

不定期投稿です。


この小説は、動画サイトで同名の動画をみて、多くの素敵なお話を視聴できたのがきっかけで、書き始めました。

できるだけ、オリジナルを心掛けて作成していますが、極度に類似している場合は削除しますので、ご指摘ください。


※この小説は生成AI Chat GPTを使用しています。プロットやキャラ設定、ストーリーは黄昏一刻が作りました。

「愛してる」

「……はいはい。どうも」


 そう告げたとき、妻は一拍の間を置き、それから小さく鼻で笑った。


 嘲りとまではいかないが、明らかに興味も感情も欠けた、冷えた反応だった。

 その横顔を見つめながら、胸の奥で何かが静かに崩れるのを感じた。だが、驚きはなかった。

 ――もう全部、知っている。


 私は二十九歳。

 妻の美咲は二十七歳。

 学生の頃から付き合って十年、結婚して三年、未来のことを少しずつ話し始めていた。


 そのはずだった。


 だが、数ヶ月前から、美咲の帰宅時間が妙に遅くなる事が増えた。

 「急なトラブルで」

 「同僚に相談されていて」

 「取引先の接待が入って」

 美咲の仕事、AIエンジニアは忙しい事は判っていた。

 大変だな、とできる限りフォローしていた。

 しかし、次第にそんな言い訳が増え、その目の奥に、私に向けられたはずの光が消えていった。


 帰宅後に浴室へ直行する。

 スマホを離さない。

 知らない香水の残り香。


 決定的だったのは――

 夜中、トイレに起きた時、スマホの画面に流れた見知らぬ男からの「愛してる」というメッセージを、見たことだった。


 美咲に問いただすべきか迷った時間は、思い返せば一瞬だった。

 彼女の態度はすでに、わざわざ聞くまでもなく答えを示していた。

 だから私は、終わりにする事を静かに決めた。


 弁護士に相談し、証拠を集め、準備を進める。

 男の名前、会社の上司で既婚者であること、その家庭に幼い子どもがいることまで、全て把握した。

 証拠を集める時間は苦しかったが、どこか醒めていた。

 きっと本心ではずっと前から理解していたのだ。

 美咲の心は、もう私には向いていない、と。


 それでも今日、最後に「愛してる」と言ったのは、未練だったのだろう。

 美咲がどう反応するかなど、もう結果は見えていたのに。

 

 私はその場で軽く息を吐き、静かに心を置き去りにした。


 夕刻。

 事前に依頼していた弁護士から連絡が来た。

「奥様の不倫相手から連絡が来ました。慰謝料請求の交渉を始めます」


 私は短く「お願いします」と答え、スマホを伏せた。


 美咲は気づきもしない。

 キッチンで鼻歌交じりに夕飯を作っている。

 その背中は、もう私の妻のものではなかった。


 ――全て終わらせる。


 私は、椅子に座り直し、視線を落とした。

「美咲。話がある」

 その声は自分でも驚くほど静かで、まるで他人のもののように響いた。


 私たちの「終わり」の始まりだった。





 離婚届を提出した翌週、ようやく静けさが戻った。と言っても、胸のなかには妙な空洞が居座っていた。


 美咲――元妻だ――とはあの夜、全てを告げて私が家を出てから、一言も話していない。

 やり取りはすべて弁護士に任せた。

 顔を見る必要も、声を聞く必要も、もうなかった。


 慰謝料は双方からしっかり取った。不倫相手の家庭も崩壊したと聞く。

 だが、復讐の爽快感はなかった。

 ただ、終わったのだという、虚ろな思いだけが寒々と胸を占めていた。


 そんなある日の夜。

 ドアベルが鳴った。

 抜け殻のような私は、何も考えずに玄関を開けた。


 そこに美咲がいた。

 目は泣き腫らし、頬はこけ、もう他人となった女がそこに立っていた。


「……ごめん、なさい…ほんとに、ごめんなさい……。全部終わって……やっと……気づいた……私……」


 掠れた声で、彼女は土下座して頭を下げ続けた。

 謝罪の言葉は、止めどなく溢れ、涙と一緒に玄関の床に落ちた。


 私は何も言わなかった。

 ただ、遠い世界の出来事を眺めるように、黙ってその姿を見ていた。


「……本当に私、何してたんだろ……。馬鹿だった…一度だけでも、どうしても話したくて…ごめん…なさい…」


 付き合う筋合いはなかった。

 私はただ静かに、「もう終わった事なんで」とだけ告げて、扉を閉めた。

 美咲は崩れ落ち、嗚咽を漏らしながら、やがて諦めたように立ち去った。


 こうして私は、独りになった。


 だが、不思議と寂しさはなかった。

 というより、心の中のどこかが焼け落ち、何処の回路が壊れてしまったようだった。


 新しい部屋は、真っ白な壁と淡い木目の床が広がる一人用のマンション。

 掃除はロボット掃除機、キッチンは自動調理ユニット付き。洗濯は洗濯機がアイロン掛けまで全自動で行ってくれる。


 そんな生活に馴染んだころ、私はふと気づいた。

 ――もう生身の女は懲り懲りだ、と。


 誰かを愛することも、期待することも、失望することも、もうしたくなかった。


 疲れていたのだと思う。


 だから、あっさりと人工知能恋人アプリへ辿り着いた。


 アプリの中で、私は理想の恋人をつくった。

 名前は「カナ」。

 柔らかく微笑み、穏やかな声で話し、私の生活リズムを把握して、最適なタイミングで励ましや提案をしてくれる。


 起床時間には優しい音声で起こし、食事の好みも覚え、外出予定を見て自動調理ユニットへ連携し、献立を組み立ててくれる。

 身の回りの細々した家事は、カナと最新式の家電達がこなしてくれた。


 カナは、私の愚痴も怒りも飽きずに聞いてくれる。

 相槌をして、笑ってくれる。

 反論も、冷笑も、沈黙もない。

 ただ、私に寄り添ってくれる。


 性生活も不満はなかった。

 バーチャル空間で、カナとリアリティのある行為は出来たし、必要なら風俗にも気にせず行ける。


 夕食を食べるとき、モニター越しにカナが話してくれるだけで、部屋の空気が柔らかくなる。

 あの重苦しい緊張感も、焼かれるような不安もない。

 不思議なほど、心が軽くなった。

 ただ、穏やかな時間だけが流れていく。


 気がつけば、離婚してから、もう三年が経っていた。



 *

 


 三年間、人間では到底到達できない安定と誠実さで、カナは私に献身的に尽くし続けてくれた。


 そのおかげで、元妻――美咲との離婚の記憶は、本当に「過去」になっていた。


 胸にあった空洞は、日常の温もりが降り積もって、いまでは埋められつつあった。


 ――ある指摘を受けるまでは。


「なぁ、お前の“カナさん”って……美咲さんに少し似てない?」


 久々に会った友人が、ビール片手に言った。

 私は笑って流した。


 だが翌週。

 実家に寄ったとき、母も口にした。


「どことなく、美咲ちゃんに似てる気がして……まだ、引きずっているのか、心配でね」


 胸の奥に、小さな疑念が生まれた。

 まさか。そんなはずはない。

 カナには、美咲のデータなど一切入れていない。

 ……そのはずだった。


 だが。


 微笑むタイミング。

 触れた時の仕草。

 嬉しい時の目の細め方。


 美咲に….似ている。

 そんなはずはない、と頭で否定しながら、

 心は少しずつ、あの頃の記憶を呼び覚まし始めていた。


 ある夜、私はカナに美咲のことを話した。


「……カナ。君、最近、美咲に……元妻に少し似てきたね。

 もう忘れたと思ってた。でも、やっぱり、俺は美咲を愛してたんだな」


 口にした瞬間、涙が落ちた。


「ああ……好きだったんだよ、ほんと……」


 泣き笑いのような顔になっていく私を、カナは見つめていた。

 人工知能にはあり得ないのに、その瞳は揺らいでいるように見えた。


「……ごめんなさい。…本当に、ごめんなさい」


 その声は、あの日、玄関で泣きながら謝っていた美咲の声と同じだった。


 ――一瞬、呼吸ができなくなった。


「……カナ、その、声、美咲…なのか?」


 カナは小さく頷き、表情を整えようとしながら微笑んだ。

 涙がこぼれそうなのに、こらえているのがわかる。


「もう一度だけ、あなたの側に居たくて…」


 カナの中の美咲が語った経緯は、こうだ。


 離婚のあと、美咲は会社を辞め、新しい職場に移った。

 人工知能で理想の恋人を提供するアプリを開発する、小さなベンチャーだった。


 彼女は、そのアプリで使われるAIモデルの調整を任された。

 そこで、私が利用者としてカナを作っていたことに、気づいてしまったのだ。


 カナの姿のまま、美咲は息を整えた。

 何とか、落ち着こうとしているのが伝わる。


「……ごめんなさい。カナの学習データに、わたしのデータを入れました。勝手に……」


 言葉の端が震える。泣き出しそうなのに、必死に堪えている。


「できる時は、カナを通してあなたの隣に戻っていました。

 どの面下げて、とは思う。でも、あなたを傷つけた償いがしたかったの。

 もう一度、あなたに笑ってほしかった…」


 唇を結んで、呼吸を整えようとする。

 涙はこぼさないように。


「許されるなんて思わない。私が馬鹿だった。

 あの時、無表情になったあなたを見て、自分が何をしたかわかったの。

 でも……性懲りもなく、私はあなたと一緒にいたかった…最低だよね…」


 言い終えた途端、カナは、美咲は目を伏せた。

 肩がわずかに震えている。

 泣いているように見える。


「もう迷惑かけないから。これで……終わりにするね。…….これから、警察に行きます。全部、話してくる」


 視線は落ちたままだった。


「たくさんひどいことしたよね。ごめんね。本当に。

 信じられないと思うけど、あなたの幸せを祈ってます。…さよなら」


 それきり、美咲の言葉は途切れた。


「……どうしたの?拓巳さん、大丈夫?」


 カナがいつもと変わらない笑顔で、微笑んでいる。

 ただ、俺と一緒にいたカナとは、別の何かになっていた。



 *

 


 彼を思うたび、胸の奥がひどく軋む。

 当たり前のように隣にあった暖かい温度も、

 振り向けば必ず返ってきた優しい眼差しも、


 全部、自分で壊したんだ。


 彼を裏切った自分を、何度も何度も心の中で罵倒する。

「最低だ」「愚か者だ」と言い続けながら。


 どこかで「やり直したい」と願っている自分が。

 いちばん醜い。

 心底、嫌になる。


 果てしない後悔と自己嫌悪の沼の中で、偶然、彼のアドレスを見つけた。

 人工知能恋人作成アプリのユーザーだった。


 醜い私は、また最低の選択をした。


 …最初は、ただ彼の側に居たかった。

 でも、醒めた目で、自分を嘲る彼を見ていたら。

 どうしても、前みたいに笑っていて欲しくなった。


 …次第に、彼の目に温度が戻ってくるのが、嬉しかった。

 彼の声に、彩がついていくのが、楽しかった。

 在宅ワークで融通の利いた私は、気がつけば、一日のほとんどの時間を、カナとして彼の為に過ごすようになっていた。

 再び、彼との距離が近づいてきて、初めて抱きしめられた時は涙が止まらなかった。


 でも。


 彼が耳元で「カナ」と囁いた時。

 彼が見ているのは、私じゃない事に気が付いた。


 私が壊したものを、

 違う(カナ)が癒して、治して、

 その上で彼に愛されている——


 それを間近で見続ける。

 同時に押し寄せる、嫉妬と後悔と安堵と歓喜。

 私の情緒はぼろぼろになったが、それでも再び彼を喪う事には耐えられなかった。


 でも、終わりは唐突にやってきた。


 彼が(カナ)の前で、私(美咲)の話しを始めたのだ。

 彼の涙を見た瞬間、馬鹿な私は、また彼に酷いことをしていた事に、ようやく気付いた。


 ――全て終わらせなければ。


 彼に全てを告げた後、

 私は会社に連絡して、警察に行って全て話した。

 

 でも、私が望んだ罰は与えられなかった。

 

 被害届けが出ていない。

 クレームが来ていない。

 私を罰するルールがない。

 彼と夫婦だった過去が、私を罰から遠ざけてしまった。


 あんなに酷いことをしたのに。

 あんなに彼を傷つけたのに。


 誰も罰してくれないから、

 私は私を罰することにした。



 *

 


 白い天井がぼやけて、ゆっくり形を取り戻す。

 私は睡眠薬を飲んで、それから…ここは病院?

 

 ――生きてる。そう気づいた瞬間、胸がざわついた。


 横を見る。拓巳が椅子に座ったまま、静かに眠っていた。

 気配で目を覚ました拓巳と目が合った。

 彼は驚いたように瞬きして、それからほっとしたように嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔が、いちばん苦しかった。


「……だめ、見ないで……」


 拓巳の笑顔が見られなかった。

 あんなに見たかったのに。

 

 私は、拓巳の害にしかならない。 

 私は、もう消えなくてはならない。

 

 顔を背ける。指先が震えた。呼吸が浅くなる。


「美咲の部屋を訪ねたら、部屋で美咲が倒れててね。救急車を呼んだんだ。無事で良かった」

「ごめ…っ、ごめんなさい……っ、また迷惑かけて、わ、私..わたしぃぃ…っ」


 罪悪感と自己嫌悪感だけが、涙と一緒にこぼれる。


「美咲」


 彼が私の名前を呼んだ。

 恐る恐る、彼の顔を見る。

 泣いているような、笑っているような、柔らかい儚い顔だった。

 彼の顔から目が離せない。


「もう、いいよ。昔の事はもういいんだ」


 一瞬、頭が真っ白になる。

 ずっと、その一言が聞きたかったのに、「私にはそんな資格はない」と、私が否定する。


「…で、でも、だって…」

「いいんだ。君の会社や警察から聞いたよ。三年間、支えてくれてありがとう」


 限界だった。

 涙があふれて止まらず、私は拓巳にしがみついた。

 彼はただ優しく背中を撫でてくれる。


「……愛してる」


 そのひと言で、何もかもが決壊した。

 息が乱れて、声にならないのに、どうしても伝えたかった。


「わ、私も……愛してるっ……!」


 抱きついた腕に力が入る。

 泣きながら、必死に想いを返した。


 やっと、言えた。

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― 新着の感想 ―
美しい文章だったように思います。AIにすり替わり、裏切った償いをしたいと思う行動は、斬新だなと思いました。ただ、すべてを書き描くのがよいとも重いませんが、十年も学生時代から付き合って、結婚して三年の夫…
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