ダンジョン観光
マリーとリン太、杉原は魔塔都市にある防具屋を訪れている。
「我々はどの様な冒険者としてダンジョン探索に向かうのですか」
杉原はどこでも真面目だ。上司を信頼し、その期待に応えようとしている。
「聞いたことはあるだろ。前衛に防御のタンクを置き、中衛に攻撃力の大きい剣士や戦士、後衛に遠距離型攻撃や支援系の魔法を使える魔女、魔術師を据える」
「「・・・」」
どこにタンクや剣士、戦士がいるのだ。ここに居るのは手癖の悪い小鬼と、事務系の中年の鬼人がいるだけだ。
「マリー、いや姉さん、姉さんは吸血鬼、俺と杉原さんは鬼人、全員魔法は使えるが盾や剣など使ったことがない。杉原さんに至っては魔法も生活支援魔法しか使えない。ダンジョンではポーターとしか役に立てないよ」
「申し訳ございません。リン太さんの言う通りです」
杉原は言葉どおりに役に立たないことを悔やんでいる。そんな必要は全くないのに。
「何、実際の実力にあった武具を装備しようとしていない。リン太お前が前にやった渡世人と同じだ。雰囲気を出すための仮装だ。好きなのを選べ」
「なるほど、ダンジョン内も観光に徹するのか、なら、俺は魔剣士だ。姉さんは何の仮装にするの?」
「勿論私は魔女っ子しかないだろ。可憐な少女である私はそれ以外にありえない。杉原は何にする?」
「私はポーターをしたいと思います」
「なるほど渋いな。ポーターと見せかけて実は凄腕の付与術師、パーティの司令塔、良い所を持っていくな」
「いや、そう言う心算では」
「凄いですね。流石は長官、エンターテインメントを知り尽くしている」
リン太は杉原の気持ちを理解しているのに煽る。彼なりの応援だ。
「そうと決まれば適当に装備を選ぼう」
店主の助言を参考にしながら「なんちゃって冒険者パーティ」が出来上がる。
「次は武器屋だな。杉原は何の武器を選ぶのだ。見かけはポーター、実は付与術師の司令塔、その設定で所持する武器とは何だ」
「いえ、私は特に武器は、お二人の予備武器を運びたいと思っています」
杉原は、どこまで行っても真面目だ。
「なるほど、どんな武器でも使いこなす、影の実力者か」
しかし、マリーは理解しない。
「・・・」
杉原は何を言っても無駄だと、ようやく諦めた。
武器屋でも好きな物を選び購入した彼らは、冒険者登録をするために冒険者ギルドを訪れた。
彼らが部屋に入り、奥へ進むにつれ、喧騒だった室内は徐々に静かになる。
最初に目に付くのは、ポーター用のリックを背負うロングコートの巨体、その身体に反して相貌はインテリな知性を感じる鬼人だ。そのすぐ隣に、均整のとれた身体に部分的な防具を付けたハーフコートの鬼人の少年、腰には双剣を装備している。そして、その彼らを従えるように前を歩く魔女の姿をした可憐な少女。見るからに普通の冒険者パーティと異質な雰囲気を醸し出している。
「あれは、名のある手練れのパーティだ。特にポーターを見ろ。あれがポーターであるわけがない。冷酷に何人も殺してきた者の目だ」
「俺も同意見だ。奴がこのパーティの影のリーダーだろう」
冒険者たちがこそこそと噂している。
冒険者たちの噂は的を得ている。そのように設定した装備なのだから、そうでなければがっかりである。
「冒険者登録をたのむ。大人3人だ」
マリーは遊園地の入場券を買うかのように、受付嬢に話しかける。
「承知しました。3人様ですね。当ギルド以外の冒険者登録証はお持ちでしょうか。それがあればランクを引き継げます」
「いや我々は今回が初めてだ」
嘘を付くな。そんな訳ないだろ。周りの冒険者たちから、ひそひそと声が聞こえてくる。
カウンターの奥から年配の女性職員がきて受付嬢に小声で何かを告げる。
「あの、ギルド長がご挨拶をしたいと申しておりまして、応接室まで御足労お願いします」
受付嬢は恐縮したように、突然ペコペコ頭を下げる。
ほら、やっぱり思ったとおりだ。また冒険者たちは、こそこそと噂する。
マリーたちが、受付嬢に案内されて応接室に入ると、ギルド長のバルコが待っていた。
「ご領主様、そして長官閣下、ようこそお出でなされました。私は、当ギルドのバルコと申します」
「ああ、気を使わせたようだな。公式な訪問ではない。私的な観光だ。楽にしてくれ」
マリーは悪びれもせず答える。どんな時も領主様なのだ。
「なるほど観光ですか。それでそのような出で立ちなのですね。それでもダンジョン内を観光とは豪儀ですな」
「なに、我が領内にできた初のダンジョンなので、比較的危険度の低い下層を見学してみようかと思ったのだ」
マリーたちとバルコがダンジョンやこの都市について意見を交換していると、先ほど案内しれくれた受付嬢が銀のトレイに冒険者カードを乗せてやってきた。
3枚のカードには、それぞれの名前と、ランクの欄にはFと記入されていた。
「ご領主様、申し訳ありません。最初の登録のランクはFと決められていまして、御不快とは思いますが、ご了承ください」
バルコは額に粒の汗をかきながら謝る。
「謝ることは無い。いい仕事をしている。これからも期待しているぞ」
バルコが規則を厳守する者だと分かり、マリーは機嫌がいい。リン太と杉原もマリーの笑顔に引きずられ気持ちよくなる。
バルコもマリーたちの表情を見て安心したようだ。
「我々はこれからダンジョンに入る、目立つことは避けたい。見送りはいらないからな」
「お忍びである事、承知しました。ではこの場でお見送りいたします」
冒険者ギルドを出たマリーたちは、早速ダンジョンに入る事にした。
入り口横にある受付で入場料を支払い、探索予定を記入する。2泊3日の予定だ。
マリーたちのパーティは、ダンジョン3階層を歩いている。
1階層から今まで、魔物に一切遭遇していない。気配はあるが姿を見せない。
「折角の体験アドベンチャーを楽しみにしてきたのに、これでは面白くない」
マリーは先ほどとは打って変わってとても不機嫌だ。
それに反して、リン太と杉原は階層頃に変わる景色を眺めながら、それなりに楽しんいるようだ。
探索自体は、迷路や樹海の様な階層も、杉原の脳内にあるダンジョンマップにより、最短で階層を登って行ける。
そして、10階層でようやく魔物たちと遭遇した。ミノタウルス、オーガ、トールである。
しかし、魔物たちは道の端に寄って土下座している。会うもの会うもの全てこのありさまである。まるで、遠い東の国の大名行列のようだ。
15階層まで登ったが状況は変わらない。
「何だこれは、杉原、思い当たることは無いか」
「マニュアルには載っていませんが、マリーさんはこのダンジョンのオーナーなので、マリーさんの魔紋に反応して絶対服従の設定になっているのかも知れません」
「あっ、思い出した。魔法省のバルトとやらが、そんな事を言っていた」
マリーは重要説明事項を思い出したようだ。
「もー姉さん、帰りましょう。こんなところを他の冒険者に見られたら、変に勘ぐられますよ」
「そうだな、帰るとするか。他では見れないミノタウルスたちの土下座も見れたから、ここはそう言うアトラクションだと思おう。予想とは違ったがそれなりに楽しめた」
帰り道も土下座する魔物たちを横目に通り過ぎて行く。
下り出して、10階層に差し掛かったとき、複数の冒険者がミノタウルスと戦っているところが見えてきた。とても激しい戦闘が繰り広げられている。
「姉さんどうする」
「ミノタウルスさんの邪魔をしてはいけないので、ここで様子を見よう」
えっそっち!冒険者たちを助けには行かないのか。
リン太と杉原はマリーの言葉に驚くが、考えてみたら、このパーティはダンジョン側の者だ。のこのこ、この戦闘に参加したらミノタウルスが土下座をしてしまい、後で説明がややこしくなる。
30分ほど物陰に隠れて様子を見ていた。
「もー!」
ミノタオルスの雄叫びが周辺に響き渡る。どうやらミノタウルスの勝利で決着が着いた様だ。冒険者たちは血を流して倒れている。立っているのはミノタウルスだけだ。
「どっこいしょ」と腰を上げたマリーはお尻の埃を払う。
「さて、再出発、帰ろう」
まるで日向ぼっこが終わって家に入るお婆ちゃんのようだ。
マリーたちは倒れている冒険者を避け、早々にこの場所を通り抜けようとした。
「・・、気を付けろ。ミノタウルスが近くにいる」
死んでいると思われた冒険者が、残り僅かな力を振り絞ってマリーたちに警告する。
リン太と杉原はマリーを見る。どう対処したらいいか迷っている。
「ちっ」マリーの口から舌打ちが聞こえた気がする。
「息のある者は救出する。ない者は諦めろ。ミノタウルスは私が対処する。急げ!」
リン太と杉原は素早く、倒れている冒険者たちの状態を確認する。総員で10名の冒険者の3名だけが辛うじて息が有った。残りの7名は死んでいた。
マリーは少し離れた場所に土下座しているミノタオルスを見つけ、何やら話しかけているようだ。
「姉さん、生きているのは、この3人だけだ。でも出血が多すぎる出口までもたないかもしれない」
「どれ見せてみろ。なんだ、この程度の怪我なら問題ない」
マリーは触りもせずに、3人を同時に止血する。血液魔法を使ったようだ。
マリーたちは、その3人の冒険者を背負いダンジョンから救出した。
マリーたちは、ダンジョン入口に常駐しているギルド職員に帰還届を提出すると直ぐに居酒屋に直行した。
本来の予定だと今頃はダンジョン内でキャンプするはずだった。BBQ、その機材も食材も杉原のリックに詰め込んでいた。全て無駄になった。怪我人を運ぶために重い荷物はダンジョンに置いて来た。大損だ。
マリーは何が悪かったのか、何処で間違えたのか考えたが、思い付かない。少なくとも今日の行動や判断については何も間違えていない。あえて言えばダンジョン観光をやろうとした事が間違いだった。
このダンジョンの目的は人族の戦意を削ぐことだ。そのために作られている。
しかし、冒険者たちが盛り上がっているのを見ると自分も楽しんでみたくなった。
立場を弁えなかった事が失敗の原因だ。
大損の原因が自分にあると分かっても、腹の虫が収まらない。今夜はやけ食いだ。
「ああ~疲れた。大将取り敢えず生三つ、それから食うものじゃんじゃん持ってきて」
「酷いありさまだな。3人とも血だらけじゃないか。酒など飲んで大丈夫なのかい」
「この血私たちのじゃないから、ダンジョン内で転がっていた冒険者を拾って帰って来るときに付いただけ」
「そう言えば、今日のダンジョンの魔物は偉い強かったらしい。ダンジョンの大ボスの視察でもあったのじゃないかと噂されている」
「「「・・・・」」」
ダンジョンのオーナーであるマリーがダンジョン内を見て回った事が、魔物たちのやる気を向上させていたのだ。10人もの冒険者を倒して勝利したミノタウルスもマリーに良い所を見せようとして張り切ったのだろう。マリーたちの所為で7人の冒険者は亡くなったと言える。
リン太と杉原はいたたまれなくなり俯いてしまった。マリーも同じ気持ちだ。
「あ、悪い。大将、ダンジョンに財布を落としてきたようだ。今日は帰って寝る」
3人は立ち上がり帰ろうとするが、大将がそれを止める。
「まてまて、先ほどの話だと、お前たちは冒険者たちを救助しのだろ。これは俺からの奢りだ飲んで行け。もう注いでしまった酒だ。戻すわけにもいかない」
マリーたちは立ち上がりかけた椅子にもどりビールを受け取る。
「では、今日亡くなった冒険者たちの冥福を祈り、この酒を飲もう」
3人は、静かに飲み干した。




