ダンジョン プロジェクト2
マリーはアメリヤともっと話しをしていたかったが、彼女も仕事があるので女子会の続きは後日計画する事にした。
それに、ダンジョン プロジェクトを放っておくわけにはいかない。例え見た目に変化がなく面白味がなくても、これは、魔王国の国家事業である。そもそも魔王様に提案したのは他でもなく公爵自信だからだ。
アメリヤとの推し談話で元気を取り戻した公爵は、仕事に復帰する。
「国務部長を呼べ」
「承知しました」
執事のセバスが退室して、暫くするとまた国務部長のゴンザレスが来た。
「呼ばれて参りました」
「何度も呼びつけてすまぬ」
「いいえ、領主様に呼ばれるのは光栄です。何度でもお呼び下さい」
「ふむ。要件はまたDP0の事だ。魔核に対してプログラミングについて知りたい。説明を聞いた上で、こちらの要望も組み込んでほしい。責任者を呼んでくれないか」
「承知しました。実は、今丁度その者たちが来ております。環境調査も終わったので公爵様にご説明したいとの事です」
「いいタイミングだな。それでは会議室で聞こう。主だった者を集めろ」
国務部長が退室して30分後、セバスから準備ができた知らせがあり、マリーは会議室に移動した。
会議室には魔王国魔法省と国土交通省からそれぞれ二人、ゴーラ公爵側からは各部長が席についている。マリーが席に着くと、魔法省の一人が立ち上がり説明を始めた。
「魔法省のバルトです。DP0予定地の調査が終わり、本格的なDP0作成に入る前に、大まかな方針について、決めて頂きたいことがあります。まず今回のものは地下迷宮型にするのか、塔型にするのかです。地盤がしっかりとしているので、どちらも可能です」
「勿論、塔型だ。遠くからも見えて宣伝にもなるからな」
マリーは迷いなく話す。
「承知しました。何階建てにしますか、100階までだと、低コストで作れます。時間も短縮でき3カ月で完成するでしょう」
「よく解らんが、それでいいぞ。これについて他に意見はあるか?」
マリーはこれも躊躇せずに判断したが、各部長たちの意見も聞いておくべきだと、部下たちの顔を見渡す。
「・・・」
「ないようだな。それで内装はどうなる」
「はい、10階ごとにフロアボスを設置するスタンダード型がこちらです」
会議室のスクリーンに塔の各階別の環境とモンスターが映し出される。
「なるほど、基本型があるのか。オリジナルを求めるとコストと時間が余分に必要となるわけだな」
「仰る通りです。オリジナルのモンスターを作成るには1種類につき1か月時間が必要になります」
「それは、後からでも変更が利くのか?」
「可能です」
「よし分かった。最初は基本型で行こう」
「承知しました。では次に運営上のコストについて説明します。ダンジョン内のモンスターは全て魔力によって作られます。倒されたら魔素にもどり、消えてしまいます。魔素の半分はダンジョンに吸収され、またモンスターに生まれ変わります。しかし、半分は消費されるので、他から魔力を補充する必要があります」
「それが人間の死体なのだろ。ダンジョンは人を食らうものだからな。それでどれくらい必要なのだ」
「はい、スライムだと、人間一人で100匹生産でき、ゴブリンだと人間一人で10匹、オークは一人で一匹と言う具合に、強力なモンスターを作るにはコストも掛かります。詳しくはこちらの表を見てください」
手渡された資料は詳しく書かれていた。
「もし、軍隊で攻略に来た場合の対策などはあるのか?」
「勿論ございます。トラップで火炎放射、水攻め、毒ガス等々1回で大量殺りくの手段も備えています」
「トラップに掛からなかったらどうすのだ」
「必ず仕留めます。ダンジョン内のトラップスイッチの他に制御室からの遠隔スイッチがあるので、やろうと思えばいつでも殺れます」
各部長の中に生唾を飲み込む気配がする。
「なるほど遠隔操作か、どこかの国のパチンコという遊戯とよく似ている」
「それは何でしょう。ダンジョンの他に危険な遊戯とは」
「いや、噂で聞いただけの話だ。気にしなくていい」
「あの一つ宜しいでしょうか」
国務部長が質問のため手を上げた。
「どうぞ」
「各フロアにいるモンスターを遠隔操作で強くすることはできますか。例えば10%UPとか」
「可能です。これも制御室から行う事ができます」
「分りました。ありがとうございます」
「他に質問はございますか?」
バルトは会議室内を見渡すが、誰からの声も上がらない。
「それでは、説明を終わります」
「ふむ。ご苦労さん。完成予定日が分ったら連絡してくれ」
「承知しました」
会議はもめることなく終了した。
「国務部長だけ残れ」
「はい」
「説明だと、制御室に誰か勤務させなければならないようだ。それも極秘に、国務部内にダンジョン課を作る。信頼できる者を10人程選び、DP0完成までに学習させろ」
「承知しました」
ダンジョンとはもっと神秘的で夢のあるものかと思っていたが、違っていた。少し性能の良いゴキブリホイホイのようだ。冒険者たちが気の毒に思える。マリーはため息をつきながら執務室へ帰った。
会議があって丁度3か月後、それは完成した。
突如として荒地にダンジョンが出現した。
「領主様、メシヤ国との国境付近にダンジョンが突然出現しました」
情報部から緊急の報告が入る。
「直ぐに1個大隊と調査隊を編成し現地に向かわせろ。ダンジョンの確保と外部調査だ。中には誰も入れるな」
マリーはこの事を一月前から知っていたが、今初めて聞いたように少し驚きを見せ、そして冷静に命令を下しているように演技した。
微妙な演技だと自覚している。大根だな。マリーは自分の演技を評価した。
4日を掛けてダンジョンに到着した公爵軍1個大隊はダンジョンの大きさに驚かされた。近くに行くと巨大な壁があるだけで、人目ではその大きさを測ることができない。また塔の頂上も下からは見えない。
既に、ダンジョンの周囲にはメシヤ国からの行商人と見える者が数人いる。彼らも幻想を見ているようで唖然としている。
それでも、軍の兵隊たちは、指示された作業を進めていく。このダンジョンを公爵領のものと主張するための処置だ。大きすぎて1個大隊では全てを囲むことはできない。入口と思われる場所を柵とバリケードで囲い。そこを死守する。
大隊が到着して2日後、メシヤ国軍1個大隊が到着、公爵軍と睨み合う。公爵軍をメシヤ軍が取り囲むような布陣だ。
その次の日、公爵軍3個大隊と補給部隊、建設業者が次々と到着。メシヤ国軍は一戦も交えることなく捕虜になった。
捕虜たちには食料と労働が与えられた。
思わぬ労働力の追加により、ダンジョン前の土地は整備が急ピッチで進められた。
その中には、ゴーラ&リン(株)の社員たちの姿もある。
また、最初は様子を見ていた民間の人達も集まってきた。兵隊や建設関係者を相手に商売をするためだ。難民キャンプのような集まりが、どんどん大きくなる。
頃合いを見たマリーはリン太に区画調整の入札を行うよう指示を出した。
入札の公示から1週間後、ダンジョン入り口付近には、商会の者と思われる人が集まっている。
「入札希望の方たちは、こちらに集まってください。今から区画A-1分譲の入札を開始します」
集まってきたのは10社、大半がアラジ国の大手商会の者だ。ここは国境付近と言え、ゴーラ公爵領の中だ。でも、ゴーラ公爵は人種、国別の差別は行わない事で有名だ。公正な入札の結果、ダンジョン入口から伸びるメインストリートに接する土地はメシヤ国の大手商会たちが落札した。
リン太から報告を受けたマリーは、事が予想通りに進み上機嫌だ。
だが、国務部長は心配している。
「領主様、これでは、メシヤ国にダンジョンの利権を奪われてしまいます」
「国務部長、それは逆だよ。メシヤの資本で、このダンジョンに豪華な商会が建ち、そこでの利益の半分は税金として私に入る。利益を上げるための経費もゴーラ公爵領に落とす。それにこのダンジョンでお金を使うのは大半がメシヤ国からくる冒険者たちだ」
それにもう一つ、メインストーリは危険なのだ。マリーは小さく呟いた。
「そうでした。心配いりませんね。それから、メシヤ国の冒険者ギルドから当ダンジョンに支部を置かせてもらいたいと打診があります。許可されますか。私は、主要なギルドと官庁機能は我々領内のものを据えたいと考えています」
「その通りだ。メシヤ国のギルドには我が領の冒険者ギルド内に一室、業務を限定して支部を置くことを許可しよう」
「承知しました。そのように回答しておきます」
ダンジョンが表れて2週間、まだまだ町の整備はできていないが、ダンジョンを開放する時が来た。
予想していたとは言え、初日に冒険に出た者は全て、人族中心のパーティだった。探究心が強く、自分だけは大丈夫と思う呑気な気質は他の種族にはない。
「俺たちが最初の冒険者だ。気合いを入れて行くぞ」
「「「おー」」」
どこのパーティリーダーかは分からないが大変盛り上がっている。
100人程の冒険者がダンジョンに入って行った。
半分がその日のうちに戻ってきた。次の日3人が帰ってきた。後は帰ってこなかった。
冒険者ギルド内は騒然となった。帰還した者たちから情報を聞き取り、状況を整理していく。初日に戻ってきた50人は1階だけを探索して帰ってきた者達だ。2日目に戻ってきた3人は2階も探索、3階には上らなかった者だ。残りの人達は、3階に行ったようだ。
ギルドは捜索隊を出すことに決めた。2チーム、凄腕の冒険者たちだ。
彼らは3日後に帰ってきた。そして捜索結果は次のとおりである。
3階を念入りに捜索したが、誰もいなかった。一つの通路で焼け焦げた臭いがした。
予想だが、多くの人間が一度にその通路に入り注意散漫になった。その結果、誰かが火炎系トラップにかかり、その場にいた全員が焼死したのだろう。死体はダンジョンに吸収されてなくなったと思われる。
捜索隊が出したレポートは妥当だと思われた。ギルドから冒険者たちに注意喚起がなされてこの件は終了した。
しかし、捜索隊は2階の個室で魔剣を発見して持ち帰った。この事が、大きな話題になり、大参事と言える事故にも関わらず、ダンジョンに挑む冒険者は後を絶たない。
無事、ダンジョン運営はスタートした。




