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戦後処理の続き

 戦後処理の一つ論功行賞時に、ブレーメン伯爵が、退位を申し出てきた。反乱の鎮圧に失敗したのが、その理由である。

伯爵は高齢であり、跡継ぎの息子もいるため、その申し出を許可した。

 しかし、その息子が叙爵(じょしゃく)を拒否し出奔(しゅっぽん)した。理由は「伯爵などまっぴらごめんだ」だそうだ。

 でもそれが理由でブレーメン伯爵家は敢え無く取り潰しになった。

 ブレーメン伯爵の爵位だけは廃止せずにゴーラ公爵が兼務し、領地運営は現地の家令に任せる事になった。

 そこで不要になったのが、ゴーラ市内にあるブレーメン伯爵の別邸である。大変大きなお屋敷だったので、50人程が働いていた。その全てが解雇となった。

 突然の伯爵家御取り潰しの報は市内でもっぱらの噂になった。そして噂には尾ひれが付くものだ。決して良い話にはならない。屋敷内で惨殺事件があったとか、呪いを受けて次々と人が死んでいった等の根も葉もない噂だ。

 しかし、その影響で買い手が付かず、元伯爵邸は処分できずにいる。その上、周りの不動産にも悪影響を及ぼしている。

 財務が検討しているが芳しくない。彼らは今回の戦争の影響を受け、増え続ける業務に疲弊している。

 それでマリーが目を付けたのが、リン太だ。

 その後の(くだり)は知っての通り、彼に元ブレーメン伯爵屋敷の再利用について丸投げした。


 リン太に丸投げしてから数日が経ち、マリーは通常の業務をこなしている。

「旦那様、情報部から報告があるようです」

「急ぎのようだな。通せ」

 ドアを開け、勢いよく入ってきたのはイヌ獣人の女性だ。

「情報部アメリヤ、2件報告します」

「ふむ」

「一件目は元ブレーメン伯爵の息子ロランの逃亡先が判明しました。ラーベ市です。一軒家を買ってメイド4人と暮らしています。例のニナの母親も一緒です」

「そうか良く調べたな。それで2件目が緊急なのだな。何があった」

「はっ、かねてから調査しておりました違法魔性丹の製造元が判明しました。メシヤ国です。メシヤ国から我が国のミリタム市に輸送し、そこで行商人が各地へ販売しています。直ぐに暗部を派遣して処理します」

 ゴーラ公爵領の主な産物は血液魔法を駆使して作成された医療薬品である。その代表的薬品が万病に効果がある魔性丹である。

 最近この魔性丹に似せた偽物が市場に出回っている。

「待て、アメリヤ。今、メシヤ国では国王と王太子が突然死して、混乱中だ。知っての通り、この機に我が国と友好的な人物が国王に就任するよう工作中だ。その件は、できればメシヤ国自身で犯罪組織を処理させたい。今は証拠集めに止めておけ」

「承知しました」

 アメリヤは返事したが、退室する様子がない。まだ何かあるのか?

「他にないのであれば下がってよい」

「私、財務部のランス様と結婚することになりました。結婚式にぜひ主賓として参加してくださいますようお願いします」

「えー」

 公爵は驚いた。アメリヤは20歳、ランスは100歳、こんなにも歳が離れて結婚なんて良いのか?いやいや本人たちが良いのであれば良いのだろう。でもランスは枯れ果てていたのではないのか。それに今は、仕事で憔悴しきっていた。まさかアメリヤとの交際のせいで憔悴していたのか?

「セバス、ランスを呼んで来い。大至急だ」

「はっ」

 セバスが廊下を走る音が聞こえる。

 そして、直ぐに二人の足音が近づきドアの前で止まった。

「失礼します」

 ドアを開け、入室してきたランスは、公爵の前にいるアメリヤを見て、次の言葉が出ない様だ。

「ランス、アメリヤと結婚するのか」

 ランスは頬を赤く染めている。ランスがこんなの顔を見せるのは初めてだ。だが、どっちが男か疑問である。普通この質問で頬を染めるのは女性の方だろう。

「はい。お許しを頂けるのなら、アメリヤを妻に迎えたいと思っています」

 結婚するのに私の許可などいらないと思うが、この機会にランスの仕事量を改善しよう。

 思いついた公爵は早速行動する。

「許そう。そして祝福する。ランスの今の仕事量は多すぎる。財務部での仕事は他の者に変更する。取敢えずは財務部長に引き継げ。ゴーラ&リン㈱の執行役の仕事に専念しろ」

 アメリヤは喜んでいる。その彼女を見ているランスも嬉しそうだ。

「財務部長を呼べ。急ぎではない、手が空いたら来いと伝えろ」


 暫くの間、公爵を含め3人はソファーにゆったりと腰を下ろし、二人のなれそめを聞いていた。

「失礼します。領主様に呼ばれて参りました」

「忙しいところすまぬ。まあ掛けてくれ」

 財務部長をソファーに座らせ、話の本題に入る。

「財務部長、ランスとアメリヤが結婚するのを知っていたか」

「はい。存じています」

「ふむ、それでランスの仕事量を見直すことにした。ランスはゴーラ&リン㈱に専念させ、財務部の仕事は他の者に移す。誰にやらすのかは、お前に任せる。取敢えずはお前がランスから業務の引継ぎを受けろ」

「承知しました」

 財務部長は喜んでいた。マリーの「兼務しろ」と言ったあの命令がランスの業務量を減らすことができない原因だったらしい。「私が悪いのです」マリーは反省した。

 出されたお茶を飲み終えて、3人は自分たちの仕事に戻って行った。

 残されたマリーは、新しく入れられたお茶を飲みながらセバスに問う。

「セバス、ランスとアメリヤの結婚、どう思う」

「大変喜ばしい事だと思います」

「そうだな。もしアメリヤが吸血鬼を生んでくれたら、100年ぶりに一族が増える」

 子供が生まれにくい事が、吸血鬼の唯一の弱点だ。人族は食べ物さえあれば、ボコボコ生まれて来るのに、それに比べて吸血鬼種は極端に少ない。

 短命種は子沢山で長寿種は少子の傾向があるようだ。

「今、考えてもどうにもならない事は置いておくべきだ」

 マリーは優先すべきことを考える。

 ニナの母親の件だ。特にひっ迫した状況ではないので、急ぐこともあるまいが、娘のニナは心配しているだろう。リン太は別件で、今日の午後に呼んである。その時に伝えるとしよう。


 リン太は約束の時間に登城してきた。

 彼については、式神が監視している。つい最近も黒豚組という土建業者と揉めていた。それで死人も出ている。私生活面でも、この短期間のうちに妻を3人娶り、その全てを自分の会社の副社長に就任させている。それだけを見ると、滅茶苦茶のやりたい放題だ。

 しかし、実情はやむを得ず、なし崩しに今の状況へはまり込んだのだ。

 勿論、原因はヘタレでチキンで優柔不断なリン太に責があるのは明白だ。

 公爵は嫌味の一つでも言ってやりたいところを我慢して、ニナの母親の事を話す。


「ニナの母親の件だが、行先を突き止めた。私の孫の孫の孫の・・まあ私の血族の一人ロランというアホが全てを放棄して逃げた。その時に彼女を含め数人のメイドを連れて行っている。彼は吸血鬼ではないので情熱的なところがあるのかもしれないな」

「そのロランは、もしかして今私共が再開発中の元ブレーメン伯爵家の方ですか」

「その通りだ。ロランは伯爵家の一人息子だ」

「ブレーメン伯爵家の取り潰しの理由について聞いてもよろしいですか」

「ブレーメン伯爵家は、もう何代も前に吸血鬼の血が途絶えており、イヌ族が当主を務めていた。その伯爵の領地に反乱があった。そして鎮圧に失敗。この混乱に乗じて隣国メシヤ国は同胞民族の保護を理由に侵略してきた。私は公爵軍を投入してこの戦いに勝利、戦後処理も半場終わっている」

 マリーは、紅茶を一口飲んで、話の続きをする。

「伯爵はこの不始末の責任を取り隠居。そして一人息子のロランが当主になる予定だったが、そんな事は真平ごめんだと言って逃げた。それが理由でブレーメン伯爵家は取り潰し」

マリーの口からため息がでた。思い出してもバカらしいのだろう。

「ろくな奴ではありませんね」

「私の孫の孫の孫の・・私の血族だ」

「失礼しました」

「冗談だ。全く、ろくな奴ではない。ところで話は戻るがニナの母親はお前が迎えに行った方がいいだろう。なんせ義理の母なのだから。ついでにロランを逮捕して連れて帰れ」

 リン太は突然の話題変更に戸惑い言葉が出ない。

 ニタニタ笑うマリーの口からは、心の声が少し漏れていました。

「ざまあ見ろ。お前ばかり良い思いをさせてたまるか」


 これで、戦争の後始末については粗方めどがついた。

 しかし、マリーの悩みが解決されたわけではない。人族はまた数十年後に戦争を起こす。これでは共存共栄なんて夢のまた夢だ。ここ数百年繰り返してきた歴史を変える施策は無いのかと考える。

 彼女が戦後処理に一段落したこの時にいつも考える事だ。何度も繰り返してきた思考、今回も良い案は浮かばない。

 彼女の目の前にはリン太がいる。いいかげんで、ヘタレで、大雑把で、全く頼りにならない奴、だが、面白い考えをする。ダメ元で聞いてみる。

「ニナの母親の件にも関係したが、人族は数十年に一度、我が国へ攻めてくる。人族の本能には、争わなければならない因子があるようだ。どうにか抑制する手段はないものか」

 リン太は少しだけ考えていたが、直ぐに話し出す。

「人族は好戦的ですね。私の故郷であるゴブリン村にもドラゴンを倒しに何度も来ていました。時には一国の主が軍隊を従えて来たこともありました。ドラゴンが彼らに危害を及ぼした事はないのに。進んで争い、そして死んでいく。アホとしか言えないが、それが彼らの本能であれば、憐れと思います。種としての育ちが悪いのでしょう」

「そうだろう。私も同じ思いだ。で、何とかしてやれそうか」

「聞いた話ですが、彼らの国ではコロシアムと言う建造物があるそうです。闘技場です。民衆の内なる不満を、それを見る事で解消させているようです」

「それがどうした」

「コロシアムは小規模の施設です。これを大きくしたものを運営できれは、戦争に向かうエネルギーを削ることができるのかなと思います」

「それはダンジョンか」

「ご明察」

 こいつ思い付きだけは良い。いいかげんな奴だから根拠なぞ無いのだろうが、試してみる価値はありそうだ。マリーは改めてリン太を評価する。

「良いアイデアだ。帰っていいぞ」

リン太は不満気だが無視する。 彼女は、リン太を追い出し、セバスを呼ぶ。

「私は、魔王様に会いに行く。先ぶれを出せ」

「承知しました」


 マリーは、魔王国首都への旅の間、リン太のアイデアであるダンジョンについて構想を練る。

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