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吸血鬼ドラキュラ伯爵

 昨日マラソンの練習を終えて、PCの電源を入れたが、HPが1/10だったため、コタツに入り配信アニメを見る事にしました。気が付くと夜だったので、風呂に入って寝ました。ごめんなさい。今はHP10/10なので頑張ります。でもMAXでも10しかないので、どこまでがんばれるのか解りません。

「そろそろ時間だ。ロビーに降りよう」

 杉原の声で全員が部屋を出る。緩いカーブを描いた広めの階段を降りてロビーに着くと、午前中一緒にダンジョン観光を楽しんだ人族のツアー客が手を振っている。カナコとミサコも手を振ってそれに応える。随分と親しくなったようだ。

「ねえ、そちらの方、双剣のリン様でしょ。領主パーティと聞いてピンと来たの」

 カナコと親しく話しているのは、午前同じツアーにいた人族の少女だ。

「双剣のリン?何それ、うちの旦那にそれはないよ。ダンジョンに入るときの恰好を言っているのだと思うけど、腰に吊っている剣は飾りだから」

「ウソ、領主パーティ3人は15階層に行ったと聞いているよ。それも無傷で、途中10階層で全滅しかけていた冒険者を救出しているのよ」

「それは領主様、ゴーラ公爵様が飛び抜けて強いからよ。うちの旦那は露払い程度よ。まあ魔法は少し使えるけど」

 人族の少女ナーシャはリン太を擬視している。様子を見ていたリン太は、しかたがないと思い、カナコたちの輪に加わる。

「やあ、カナコの言っている事は本当だよ。私は剣の技術は持ち合わせていない。これは偽物ではないけど、あまり使った事は無いんだ。コスプレだね」

 リン太は腰の件を触りながら、はははと軽く笑っている。

「なんーだ。でもミサコさんの火魔法は凄いよね」

「あれも、ミサコの魔法が凄いのではなくて、装備が良いだけ」

「そうなの?少し残念」

 ナーシャは本当に残念そうだ。最初のキラキラした目は消えていた。


 雑談を交えながら、タヌキの旗の元、15人程のツアー客たちを乗せた馬車は劇場に到着した。

 劇場のエントランスは人で溢れている。壁にはドラキュラ伯爵を演じる俳優たちの絵が大きく展示されている。

開幕前だが観客たちは期待し少しずつ興奮しつつあるようだ。

 やがて客席に通じるドアが開放され、客たちは指定された席に着く。

 リン太たちが座る席は、劇場の中央付近、所謂S席と呼ばれる場所だ。

 2,500人の観客が席に着き、暫くすると劇場の明かりが消え真っ暗になる。


 ガッシャ落雷の音、ザー、吹き荒れる雨の音が響き、舞台に2頭立ての馬車が現れる。嵐の中を黒い外套に身を包んだ御者が鞭を振るう。馬が嘶き、車輪が土を跳ねる。

 杉原一家もリン太一家も一緒にツアーに参加した人族の者たちも全員が、口と目を大きく開けている。突然の光景に客たちは飲み込まれる。

 最初は衝撃を受け、ストーリーが進むにつれ、劇の物語にじわじわとのめり込む。


 この物語は、割と有名なホラー作品で人族は勿論、魔王国の者たちにも良く知られている。

 簡単に説明すると、隣国辺境にあるドリャキュラ伯爵領から人国メシヤ国の地方都市に吸血鬼ドラキュラ伯爵が移り住み、人族の女性を次々と毒牙にかけていく。そこでその地方領主と神父がドリャキュラ伯爵を退治する物語だ。


夫人の背後から、ガブリ、「あー」夫人の口から小さな声がもれる。青白い肌に牙を突き立て静かに血を啜る。そして真っ赤に染まった吸血鬼の目。

 ナーシャは生唾を飲み込み、恐怖に耐える。すると隣の席でもゴクリ、生唾を飲み込む気配がする。そっと隣を覗くと鬼人のリン太や杉原一家と獣人であるカナコたちの目が舞台の照明を受け真っ赤に染まっていた。

「ひっ」

 ナーシャは悲鳴を上げそうになったが、自分の手で口を押える。

 しかし、ナーシャの小さな悲鳴に気が付き、カナコとミサコがナーシャに振り向く。そこには、カナコたちと同様に舞台の照明を受けた真っ赤なナーシャの目と、慌てて自分の牙を隠したようなしぐさが目に映る。

「「ひっ」」

 のけ反ったカナコとミサコは席からずり落ちる。次の瞬間、舞台の照明は赤から白色に切り替わる。当然ナーシャやカナコたちの目も普通に戻る。

「ごめん。少し驚いただけ、大丈夫」

 カナコは、小声で言いながらも、ばつが悪そうに席に座りなおす。舞台の吸血鬼よりも隣に座る少女に恐怖し、席から落ちるなど恥ずかしい。

「ごめん、私も驚いた」

 ナーシャもばつが悪そうだ。

 劇は終盤に差し掛かり、吸血鬼ドラキュラ伯爵は追い詰められていく。

 そして最後にドラキュラ伯爵は心臓に白木を撃ち込まれて灰となる。

「「はー」」

 息を止めていたのか、近くの客席から息を吐く音が聞こえる。

幕が下がり、直ぐにまた幕が上がる。そこにはドラキュラ伯爵と伯爵に止めを刺した神父様を中心に劇に参加した俳優女優たちが一列に並んで最後の挨拶している。

劇中では殺し合った伯爵と神父が仲良く手を繋いでいる。

観客からの拍手は幕が再び下りるまで続いた。


劇場からホテルへ戻る馬車の中、客たちはいまだ興奮から覚めていない。

「面白かったね。でも予想とは違ってた。ここは吸血鬼が領主をしているゴーラ公爵の領地でしょ。もしかしたら、ここでのドラキュラ伯爵劇は、吸血鬼の勝利で終わるのかと思っていた」

 ナーシャの期待は裏切られたようだ。でもリン太はその考えに面白みを感じた。

「へー、そんな事考えていたんだ。それも面白いかも、でもゴーラ公爵様は吸血鬼と言われているけど、血液魔法が得意なだけで、殆ど他の種族と変わらないよ」

「そうなの?でもこの地方には血液を納税する義務があるのでしょ」

 ナーシャは良く勉強してから、この国の観光に来たようである。

「それは、ゴーラ地方では血液を使用した製薬産業が国営であるからだよ。他の国では血液を売買したり、献血したりして製薬の材料を集めているだろ。それがここでは国営だから納税という形になっているだけだよ」

「でも公爵様は血液しか食されないのでしょ」

「それこそ劇場の中だけの話だよ。彼女は何でも食べる悪食だ。食器は銀製を好み、昼間も出歩く。夜は寝て朝起きる。何と子供も産んでいる」

「それは私の母と同じ。でも公爵様を彼女と呼ぶなんて、リン太さんは公爵様と親しいのですか」

「・・・色々とこき使われている・・・」

 リン太は最後に小さく呟くと黙った。彼らの会話に聞き耳を立てていた杉原も俯いた。

 馬車の客室に天使が舞い降りてきたその時、馬車はホテルの前で止まった。


 馬車から降りたナーシャはカナコに詰め寄る。

「カナコ、今晩部屋に遊びに行っていい?」

「ごめん、ホテルの部屋は昼間しか取っていないの。これから官邸に帰るから」

「官邸?本当にカナコたちは公爵様の関係者だったのね」

 名残惜しそうな二人を見て杉原が声を掛けた。人族の観光客の話を聞きたかったのかもしれない。

「良かったら、みなさん今晩は官邸に来ませんか。これも何かの縁です」

 ここに来て初めてナーシャの父親が前に出る。

「よろしいのでしょうか、知り合ったばかりなのに」

「ダンジョン都市の運営者としても、是非今回のツアーについて感想を聞きたいと思います」

「それでしたら、お邪魔します」

 

 官邸の応接室、室内には長官の杉原とリン太、ナーシャの父親リスクの3人がお茶を飲んでいる。その他の女性や子供たちはリン太が使っている客室、スイートルームで寛いでいるはずだ。

「それでは改めて自己紹介します。私はこの魔塔都市長官の杉原です」

「わたしは、ゴーラ&リンのリン太と申します。ゴーラ&リンとは」

「あっ、それは良く存じています。ゴーラ公爵様が直接出資して作られた会社ですね。不動産、運送業、ホテル経営等等、手広くご活躍されていますね。私は、メシヤ国で商社を営んでいるリスク・ヴァン・ヘルシングと申します」

「これは面白い。先ほど見た劇の神父様と同名ですね」

 杉原は気が付き指摘する。

「ヴァン・ヘルシングとは祖父が作った商社の屋号です。私の事はリスクとお呼びください」

「もしかしてですが、リスクさんは観光の他にビジネスも目的で来られたのですか」

「いいえ観光だけです。でもこの街に興味を持ちました。爆発的に発展する人口と街、柔軟な思考を持つ領主と行政の方々を見て、是非この地に商売の支店を置きたいと思っています。弊社の屋号がお気に召さないと思いますが、長官が先ほど仰っていた縁だと思いよろしくお願いします」

 いきなり捲し立てられた。お願いしますと言われても、何をお願いされたのか解らない。劇場の冷静な神父ヴァン・ヘルシングと違い、こちらのヴァン・ヘルシングさんは情熱的なお方の様だ。

「分りました。受けて立ちましょう。劇場では不覚をとりましたが、今回はそちらから攻めてくるのですね。返り討ちにします。いつでもかかって来なさい。ヴァン・ヘルシング」

 いつの間にかリン太の後ろには里美が立っている。リン太は驚き振り向いた。杉原とリスクも驚いたが、顔には「変なのが来たと」書いてある。

「えっ里美、何を言っている」

「やあ、ごめん、ごめん、今、上の部屋では、ナーシャとカナコたちが、その寸劇で盛り上がっているよ。カナコがリン太たちも連れて来いって。リン太芝居大好きだろ」

 里美は軽い調子で謝る。

「リスクさん、驚かしてすみません」

「リン太さんはお芝居が好きなのですか、実は私も大好きです。上で第2幕が開演されているようですね。ご一緒しますよ」

 階段を上がり、スイートルームに入ると、劇は中盤、ドラキュラ伯爵役のカナコがニナのうなじにガブリ、足元にはミサコ、良太、幸子が倒れている。みんな吸血鬼カナコにやられたようだ。それを神父ナーシャが止めようとしている。

だが詳しい状況が分らない。ヴァン・ヘルシングが吸血鬼の国に攻めて来たという設定なのに、何故、その住民がカナコに襲われているのだ?

「どうなっているのだい」

 杉原が妻の明美に小声で尋ねる。

「最初はね、吸血鬼側5人、対、神父側1人だったのだけど、神父ナーシャがやり手でね、飴やお菓子で住人たちを味方につけて、吸血鬼側カナコ1人、対、神父側5人になったの。裏切りに怒った吸血鬼カナコが住人たちを襲っているところ」

「なるほど、リスクさん。商社ヴァン・ヘルシングの魔塔都市への進出の件、もう少し考えさせてもらいたい」

 真剣な表情で杉原はリスクに話す。

「えっ、いやこれは子供の遊びです。真に受けないでください」

「いや誤解させてしまったようです。前向きに検討します。是非我が都市へ来てください」


 長官たちが大人の話をしている中、劇は終盤を迎えていた。

吸血鬼カナコと神父ナーシャの最後の対決。

 ガブリ。

神父の白木の突きをあっさり交わした吸血鬼カナコは、後ろに回り込み、ナーシャのうなじに噛みついたのだ。


中盤までは頭脳戦、最後は力技で終了。どこかの国と国の争いに似たものだった。民衆の劇とは、社会を模倣するものなのだ。


 本日は朝から書き始めて、今は夕方、自分でもよく頑張ったと思う。明日は食べるための仕事が24時間ある。これも頑張らなければならない。なので今からはビールを飲みながら配信アニメを見るつもりです。

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