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魔塔都市観光パックツアー

 最初の目的は、好戦的な人族のガス抜きと、その戦力を削るために、ダンジョンを構築し運営するはずだった。

 しかし、今やそのダンジョンを中心とした大都市が出来上りつつある。まるでゴールドラッシュ。様々な人種や、職種の者がこの都市に移住しくる。またその天をも突く圧倒的な巨大建造物を一目見ようと訪れる観光客も増加の一途をたどる。


「ガルドさんおめでとうございます。いよいよ第一回パックツアーの始まりですね」

 杉原とリン太、それにガルドはメインストリートに建つ豪華ホテルの最上階から大通りを眺めている。

 そこには列を成して進む馬車群が見える。その馬車の列はダンジョンの正面門を出て、遥か地平線まで伸びている。

「長官、リン太社長、ありがとうございます。お陰様で1万人の枠に10万人の応募があり、1年間の予約が埋まりました。成功間違いなしです」

「何よりです。これで魔塔都市は放っておいても発展しますね。長官」

「そうですね。人が増えると治安が悪くなるので、これからは、そちらの対策に力を入れるつもりです」

「それは怖いですね。特に脆弱な人族にとってゴーラ公爵領の刑法は有罪イコール死刑ですから」

 リン太は今まで、何人も人族の者が、この国の一番軽い刑罰、棒叩きによって死んでいる事を思い出す。

「それを考えると、人族がメシヤ国から我が国へ観光に来ようとするのか理解できませんね」

 ガルドはメシヤ国からの観光客のそれで、商売しているのに、それに反することを言っている。

しかし、合理的に考えれば理解できない事が実際に起きているのは事実だ。対して杉原は思ったことを口にする。

「彼らは、呑気です。自分だけは大丈夫と思っているようです。目に映る物が全てなのでしょう」

「それは我々も同じでしょう」

「確かにその通りですね。ただ我々には裏側も少しだけ見えているに過ぎない」

「それは、どういう事?」

 ガルドは杉原の思わせぶりな言葉に疑問を感じる。

「それはそうですね。何事にも舞台裏あり、私たちもその全てを知っているわけではないから、足元をすくわれないよう気を付けましょう」

 杉原に代わりリン太が答えた。

「なるほど、その通りです。私はこれから劇場の準備がありますから失礼します」


 ガルドが席を外して、リン太と杉原だけになった。

「リン太さん、先ほどの話だが、治安維持に憲兵を使うと軽犯罪者も裁判に掛けられ棒叩きになる。結局死んでしまう。どうにかならないかな」

「お目こぼしと言うやり方もありますが、それをやると憲兵が腐敗します。警察権の無い一般人に警備をやらすのはどうでしょう」

「それは何ですか」

「逮捕も捜査も尋問もする権利を持たない一般の者に憲兵に似た服装をさせ、街の警備をさせるのです。法律上の根拠は一般の人が当然持っている正当防衛、緊急避難に現行犯逮捕です。警備員には軽犯罪の抑止になると思います」

「その警備員がやり過ぎたり、間違って逮捕、尋問、捜査をやったらどうする」

「警備員はオークやオーガの叩かれ強い亜人から募集したらいいと思います。彼らが犯罪を犯した場合は、憲兵に逮捕させ刑罰をあたえればいい。オークやオーガなら棒叩きの10回や20回では死にませんよ」

「わかった。リン太さん、その仕事引き受けてくれないか」

「いいですよ。でもその話はまたにしましょう。今日は魔塔都市観光パックツアー初日です。我々も一通り見て回りましょう」


 リン太と杉原はホテルのロビーに降りてくると、そこは人族の観光客でごった返していた。イモ洗い状態だ。

「私たちが申し込んでいたツアーガイドはどこだろう」

「タヌキの旗が目印です。ああ見つけました。出口右側にいます。参りましょう」

 タヌキの旗を持ったガイドさんの許には、人族の観光客の他に杉原の家族とリン太の妻たちが待っていた。杉原の子供たちを含め全員冒険者のコスプレ済みだ。

「あなた大丈夫なの?子供たちまで連れてきて」

「母さん大丈夫だよ。いざと言うときは僕が守る」

 魔剣士のコスプレをした杉原の息子、良太6才は胸を張る。その横で幸子4才は魔法少女のコスプレ衣装。とても可愛い。

「幸子ちゃん可愛い。お姉さんとお揃いね。幸子ちゃんはお姉さんが守ってあげるね」

 ミサコも魔法少女の衣装を着ている。

「幸子は大丈夫。悪いスライムちゃんは、幸子がやっつける。ゴブリンちゃんは任せる」

「了解。ゴブリンちゃんは私がやっつけるね」

 ミサコと幸子は手を繋いで「えいえいおー」と気勢をあげている。


「それでは、出発します。二列になって就いて来てください」

 タヌキの旗を持ったガイド兼護衛が、先頭と後尾に着いて出発した。

 ダンジョン入り口から洞窟を通り抜け鍾乳洞の広間に出る。

 前回来たときはなかったものがある。それは観光客とお土産売り場に屋台だ。

 ダンジョン1階層はテーマパークになっていた。スライムやゴブリン、コボルトのぬいぐるみ、食べ物ではタコ焼き、イカ焼き、焼きそば等がある。奥の方には金魚すくいに射的も見える。

 杉原家の子供たちは、驚きと喜びで口と目を丸くしている。今にも駆け出しそうだ。

「みなさん、ここには帰りに時間をとりますので、今はこのままダンジョン探索を進めます。立ち止まらずに歩きましょう」

 ガイドの注意に促され、立ち止まりかけた足を前に進ませる。良太と幸子は後ろを何度も振り返りながらも駄々をこねることはなかった。カナコだけがタコ焼きだけでも買いたかったとブツブツ言っている。


 鍾乳洞の広間を暫く奥に進んで行くと、他の観光客の姿も見かけなくなってきた。

 先ほどまでは多くの屋台が洞窟内を照らしていた。また多くの人により賑わっていたが、今は本来のダンジョンの姿である、ヒカリゴケだけが周囲を照らす薄暗い世界に変わっている。

「このあたりから、スライムが出始めるので気を付けてください」

 先頭の旗を持ったガイドが注意を促す。

 進行方向ではないが、少し離れた場所で、スライムが岩肌を這っているのが見える。

「あっ、スライムちゃんだ。やっつけていい?」

「だめよ。襲ってこないスライムは、悪いスライムではないから、やっつけてはダメ」

 ミサコは手を繋いだまま幸子に説明する。手を離すと飛び出して行きそうだ。

「わかった。早く悪いスライム出てこないかな」

 幸子は見かけに拠らず、好戦的な魔法少女だ。


 1階層ではスライムを見かけはするが、戦闘になることは無かった。

「今から2階層に上がります。次の階層はスライムの他にゴブリンとコボルトがいます。特に強い魔物ではありません。慌てて小石に躓くと転んで怪我をするので気を付けて下さい」

 またガイドさんからの注意だ。魔物よりも小石に躓く方が危険らしい。

まあガイドさんからすれば、その通りだろう。ゴブリンやコボルトの攻撃は軽く撃退することができるが、慌てて転ぶことについてはガイドさんには防げない。次もこの仕事を貰うにはお客さんに怪我をさせてはいけない。

 2階層に続く階段を登り終えると、そこは樹木が生い茂る森が広がっている。辛うじて道と言えなくもない道を進んで行く。いよいよ本格的なダンジョン探索の雰囲気である。

 ガサガサ、列真横左の枝が揺れる。

「きゃ、ゴブリン」

 最初に気が付いたのは列中頃ツアー客の女性。

「きもい、ミサコ先生、出番です。お願いします」

 幸子はゴブリンを見て気持ち悪そうに顔を顰めると、まるで用心棒に仕事をさせる悪役商人のようなセリフを言う。

「えっ、分かったわ。スモールプチファイア」

 幸子の物言いに一瞬戸惑ったミサコだが、冷静に火炎魔法を出す。

 ジュ、過熱したフライパンに水滴を落とした時のような小さな音を残し、ゴブリンは蒸発した。

 ミサコから観光客とガイドたちが一歩退く。

 えっ、何?私また不味い事しでかしたの?ミサコは不安になり左右を見る。

「今のゴブリンは既に死にかけていたのだろう。ミサコが止めを刺しただけだ。それで魔素に帰った」

 リン太が解説したので周りの者たちも納得した様子。

 すると今度は列真横反対方向からゴブリンが2匹飛び出してきた。

 今度もミサコは冷静に魔法を放つ。

「スモールプチファイア、スモールプチファイヤ」

ジュ、ジュ、2匹のゴブリンが蒸発する。

「「「・・・・」」」

 その場にいた全員が言葉を失う。

 少し間をおいて、「あっ」と後方から声がする。

「もしかして、領主パーティの方々ですね。今日はお子様をつれてお忍びのダンジョン観光でしたか。失礼しました。お強いはずです」

 一人のガイドがリン太たちの正体に気が付き頭を下げる。他のツアー客たちはその様子を見てなるほどと肯いている。

「君の言う通り、お忍びなんだ。そのように扱ってくれ」

 リン太は人差し指を自分の唇に当て、ガイドを黙らせる。


 その後の他のツアー客たちはリン太たち凄腕の冒険者の存在にすっかり安心し、観光気分一色になった。正面から来る魔物は、先頭のガイドさんが切り伏せ、後方から襲ってくる魔物は最後尾のガイドさんがこれを撃退していく。

 その間近で見る戦闘風景に、ツアー客は興奮し満足した。


「それでは、ダンジョン内のツアーを終了します。いったんホテルで着替えを済ませてから、また午後1時にロビーに集合してください」

 杉原とリン太の家族も出発したホテルに帰り一休みする。

「ダンジョン面白かった。ゴブリンをバッサバッサと倒すガイドさん強かったね」

「それより強いのはミサコ先生よ。ゴブリンをジュよ。ジュ。」

 良太と幸子はまだ興奮から覚めていない。ミサコは微妙な表情だ。まだ魔法の威力をコントロールできないのがその原因だろう。


「昼からは演劇だね。私はこれが一番の楽しみだ。リン太も同じだろ」

 里美は相変わらず芝居が好きだ。勿論リン太も大好きだ。

「ああ、今日行く劇場は2,500人収容できる大劇場だ。演目は吸血鬼ドラキュラだ。楽しみでしかたがない」

「演目はドラキュラなの!それって不味くない。ここは国境付近とはいえ、吸血鬼ゴーラ公爵が治める地よ。いくら何でも吸血鬼が討伐される物語をするなんて」

 ニナは心配するが、リン太は平気な様子。

「それなら大丈夫。事前にゴーラ公爵様から許可を取っている。公爵様も見に行かれるそうだ」

「そうなの、ゴーラ公爵様は懐が深いね。でもやっぱり心配。吸血鬼を討伐する芝居を見て、変な気を起こす人族がいるかもしれない。私たちの国に対する敵意を起こし、襲ってこないかしら」

「多分大丈夫だろ。その気になった人族は、魔族や魔物を倒そうと思うかもしれないが、すぐそこに、合法的に魔族や魔物を倒せるダンジョンがあるから、そこに行くだろ」

「なるほど、もしかしてこの演目、人族を煽っているの?」

「気が付いた?ニナは鋭いな」

「ゴーラ様もそれが狙い?・・・何か恐ろしいものを感じる・・・」

 ニナはどこまで気が付いたのか、途中で考えを口にする事を止めたようだ。



何とか、目標の1週間以内に、また一話書くことができました。かがわマラソンまで後8日、今から練習に行ってきます。練習が終わってまだ元気が残っていたら続きを書こうと思っています。でも多分、元気は残っていいないと思います。いつもの事です。

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