企画会議
次の話まで一週間ほど必要だと思っていたのですが、早起きして書きました。外は雨が降っていて、屋根を叩く雨音が筆を進めてくれたようです。
人目を避けるようにダンジョンから帰宅したリン太一家は官邸内にあてがわれたスイートルームで一息いれている。
「ミサコのあれは何なの?凄すぎでしょ」
カナコが一番にダンジョンであったことを言葉にする。この場にいる誰もが思っている事だ。当の本人も同様に違いない。その問いかけにリン太が解説する。
「大部分が、ミサコの杖の能力だと思う。それに加え、ミサコの魔力が強かったのだろう」
「でも、普段のミサコは大した魔法を使えないよね」
カナコの問いにミサコは赤くなって俯く。どうやら心当たりがあるようだ。
「昨夜、ミサコに頼まれて、魔力の織り込みを3回ほど重ね掛けした。それが原因でミサコの魔力が跳ね上がったのだと思う」
俯いたミサコの代わりにリン太が言いにくそうに答えた。顔はそっぽを向いている。
「「「えー狡い」」」
女子3人の声がハモル。リン太が予想した通りの反応だ。
リン太の行った魔力の織り込みというものは、言葉通りリン太の魔力を相手の体内の魔力に織り込んでいく施術だ。効果は相手の魔力の激増の他に美容にも抜群の効果がある。カナコの一部獣化能力もこの施術あってのものだ。
またこの施術、受ける側は苦痛ではなく快感を伴うらしい。反対に実施する側のリン太は魔力を枯渇させ疲弊する。
だから一日に何度もできない。それを昨晩はミサコだけに3回も実施したのだ。周りの者が黙っていない訳だ。
「分かった。今晩から順番に3回ずつやるから、それでいいだろ」
3人の妻たちはそれで納得したようだ。
「兄貴、それでダンジョン内はどうだったの?」
リン太と4人の妻たちとの痴話げんかが一段落終えたタイミングでヒロミが問いかける。リン太は話題の変更に喜んでのる。
「それは予想通りだった。1階層にはスライム、2階層にはスライムとゴブリンが出てきた。その強さも、俺たちの予想を越えるものではなかったよ」
「それならダンジョン内の観光ツアーも一般向けに組み込めるね」
「そうだな。十分安全を確保できるだろう」
「でも万が一の場合はどうするの?スタンビードとかあるかもしれない」
「その手のリスクについてはツアーの申し込み用紙に説明書きを入れてサインさせればいい」
リン太とヒロミの話にカナコが興味ありますと顔に書いて参加する。
「ねえ、何の話をしているの。もしかしてダンジョン内を観光地にして一儲けしようとしている?」
「ああその通りだ。ツアーを売り出すのは元エンタメギルドマスターのガルドだ。我社が担う役割はツアー客の足と宿だが、その宿でダンジョン用装備のレンタルサービスをするつもりだ」
良い考えだろとリン太は少し得意げに話す。
「なるほど、それで今回私たちのダンジョン観光で検証していたのね」
「カナコもミサコもカッコいい装備でダンジョンに行くと楽しかっただろ」
「ああ楽しかったな。また行きたいけどミサコがやっちまったから当分は行けないよね」
カナコが口を尖らせミサコを睨んでいる。
「大丈夫だよ。ダンジョンは一晩で元に戻るから。明日の朝には元通りだ。焦げた臭いは少し残るかもしれないが」
リン太が説明し、フォローするが、カナコがこれに被せて言う。
「そうよね、万が一巻き添えになった冒険者がいても焼死体も残らないね」
「私、もしかして人を殺しているかもしれないの?」
ミサコは事の重大さに初めて気付き青ざめる。
「気に病むことは無いよ。もし巻き添えになった人がいたとしても、法律でいう正当防衛にも緊急避難にもあたらないけど、みんなミサコが悪いけど、運が悪かっただけだよ。僧侶の私がミサコの所為で死んだ者たちの冥福を祈っておいたから大丈夫」
カナコとエセ僧侶のニナが、ミサコの良心をえぐる。
「うー」
ミサコは涙目になってリン太を見つめる。
彼女たちはまだミサコだけがリン太の施術を独り占めした事を許していないようだ。
話が脱線してきので、リン太が修正する。
「それで中級程度の防御力を備えた装備を発注するつもりだ」
「どこに発注するつもりなの?コストが高いと元が取れないよ。レンタル商品を持ち逃げする奴も出てくるだろうし」
計算高いヒロミが心配するが、リン太は自身ありげに言う。
「その点は大丈夫だ。素材は普通の布や皮を使い、防御力の魔法付与は別の場所でする。一番コストが掛かる魔法付与に格安の所がある」
「何それ、怪しい所じゃないでしょうね。後からクレームが来るのはいやよ」
ゴーラ&リン㈱の企画、広告を担当しているヒロミはまだ心配そうである。
夕刻、長官は一日の仕事を終え、官邸に帰宅する。
「杉原さん、ご公務お疲れ様でした。少しご相談があります」
長官の帰宅を待ち構えていたリン太が笑顔で迎える。
「珍しいですね。リン太さんからご相談とは」
「先日ガルドさんを紹介して頂いた時の案件です。あれからガルドさんと話を進め、ダンジョンの1階層2階層をパックツアーに含める事を検討しています」
「なるほど、それはパックツアーの目玉商品になりますね」
「その通りです。これが実現できれば、このパックツアーは3年先まで予約が埋まるでしょう」
「それで、私に相談とはどのような事ですか」
「率直に申し上げます。このダンジョンコアの力で、ツアー客用の装備品を作ってもらいたい」
「率直過ぎて話の中身が見えません。もう少し詳しくお願いします」
「失礼しました。それでは順を経て説明します。まず、1階層2階層とは言え、ダンジョン内は危険です。100%の安全を保障することはできませんが、99%の安全が担保できなければ観光として成立しません。そこで冒険者が使用する装備品をレンタルでツアー客に提供しようと考えました」
「なるほど、それでダンジョンコアによる装備品作成なのか。しかし、一から装備品を作成するとなると、いくら万能のダンジョンコアとはいえ、時間と魔素がそれなりに必要になる」
「流石、ダンジョン課元課長造詣が深い。でも、それについては検討済みです。装備品の物自体は一般の素材を使用して予め作成します。ダンジョンコアにお願いしたいのは、それに付与する防護魔法です。攻撃力は必要ありません」
「リン太さんの考えが解りました。魔物に対する攻撃は、ツアー客を引率または護衛する冒険者に任せ、その討伐の雄姿を客に見せ、その緊張感を体験させるのですね」
「その通りです。理解が早い。ご協力お願いします」
「承知しました。この件についてガルドさんを紹介したのは私です。梯子を外すようなまねはしません。来週には魔法省のバルトさんがダンジョン定期検査に訪れます。その時に詳しく詰めましょう」
リン太は商談が上手くいったので、鼻歌交じりで、自室に戻る。
「ヒロミ、上手くまとまったよ。ツアー客用装備品の納品場所は庁舎のダンジョン課にしてくれ。そこから魔法付与の部署に回される」
「それで魔法付与の代金はいくらなの」
不意にコストを聞かれたリン太は少しの間固まる。ぶっちゃけコストはかからない。プログラミングされたダンジョンコアが自動的に働くから。
しかし、ヒロミに言えない。ダンジョンコアについては国家機密だ。
「一着金貨1枚だ」
「安い、何その値段。中級魔法を付与するなら、普通金貨10枚よ。何かあるでしょ」
「勿論あるさ。まず可能使用回数が少ない。例えばオークの攻撃なら10回しかもたない。またこの魔塔都市から離れると効果が10日ほどでなくなる」
「なるほど、でも安いわ。これならレンタル料は1日銀貨1枚で十分。でも、他社との競合を考えるとこの価格では独占してしまう。それでは業界が育たない・・・・」
ヒロミが独りぶつぶつ言いだしたので、リン太はそーとその場を離れた。ヒロミがこの状態になると長くなるからだ。
隣の部屋では、カナコたちが、明日ダンジョンに着ていく衣装を選んでいる。これは単に、コスプレを楽しんでいるだけのようにも見える。
「今回は僧侶にする。ニナ何気に楽しそうだったから」
カナコが宣言した。
「じゃ、私は魔剣士。里美、装備品を貸してね」
「いいよ。なら私は、拳闘士にする。カナコ良いかな」
「いいよ。するとミサコは魔術師のまま?」
「うーうん。私はリン太に衣装と武具を借りて魔剣士になる」
「そうなるとリン太は魔法少女だ。それうける」
「「「あははは」」」
リン太は開けかけたドアをそのままに、またその場をそーと離れた。
街はずれの居酒屋で独り、冷ややっこを肴に酒を飲んでいるゴーラ&リンの社長の姿があった。
次回こそは一週間後の予定です。かがわマラソンが近づいて来た。怠けて練習していない。昨日は5kmでばてた。やばい。




