ダンジョン観光2
「ねえ、ダンジョンの中どうなっているのか教えてよ」
朝、家族みんなで紅茶を飲んでいると、カナコがリン太に話しかけてくる。昨日までの剣呑さはない。御馳走をたらふく食べ、お腹と心が豊かになったのだろう。他の妻たちも耳を傾けている興味があるようだ。
「この前、マリー様と一緒にダンジョンを探索した話が聞きたいのか?」
「それそれ、少しはヒロミから聞いているけど、詳しく本人の口から聞きたくて」
「期待しているようだけど、面白い話はあまりない。マリー様が強すぎるせいで魔物が怯えて出てこなかった。だから、何もない洞窟や、沼地、森など階層によって景色が変わる場所を歩いただけだった」
「なら、マリー様じゃなく、リン太と一緒に行けば、どうなのよ」
「俺はマリー様ほど強くないから、魔物どもがわんさか出てくるだろうよ」
「それは危ないの?」
「1・2階層だけならスライム、ゴブリン、コボルトが出てくる程度だから、大丈夫だと思うよ。たぶん」
リン太が答えると、カナコは身を乗り出してねだる。
「よし、明日行こう。ねっ、連れて行ってよ」
「私も行きたい」
カナコに加えて、ミサコも乗ってきた。
「直ぐには行けないよ。ダンジョンに入るには冒険者登録や、装備品の準備もあるから。明日は準備して、明後日行こう」
「「やったー」」
カナコとミサコはぴょんぴょん跳ねている。彼女たちはネコ族だが、バニーガールの服も似合うかもしれない。リン太は邪な考えを抱いている。
ニナと里美はあまり乗り気ではないが、ついて来るみたいだ。
リン太は妻たちを連れて、魔塔都市メイン通りにある武具屋を訪れた。
「これは、これはリン太様、早速のご来店、感謝します」
「やあロイドさん。今日は妻たちの武具を求めて来ました。よろしくお願いします」
「お任せください。それではご希望をお聞きします」
彼女たちはロイドの店で装備を整えた。全て一流の品である。
そして魔術師、僧侶、拳闘士、魔剣士が出来上がった。
魔術師の恰好をしているのはミサコだ。リン太の指導により少しだけ火の魔法が使える。こん炉に火を付ける程度だ。
僧侶はニナ。彼女に特別な能力は無い。本当に祈るだけ、誰かが亡くなったときに冥福を祈ってくれるだろう。
拳闘士はカナコ。彼女も以前リン太の魔法指導を受けたことがある。魔力を取り入れ、手の爪を伸ばし、鉄でも切り裂く能力を得ている。
しかし、その爪は料理にしか使ったことがない。
最後の里美は魔剣士の恰好をしている。彼女はリン太同様、鬼人である。基本的に戦闘力が高い種族だが、彼女がそうであるとは限らない。彼女は生まれて初めて剣を握ったのだから期待はできない。
よって、全てが見せかけである。一流の装備を付けたマネキンである。
武器防具類を買ったその足で、冒険者ギルドに向かった。
「彼女らの冒険者登録をしたい」
リン太は受付のカウンターで妻たちの冒険者登録をしている。
その後方では、冒険者たちがガヤガヤと騒いでいる。
久しぶりに双剣のリンが冒険者ギルドを訪れたのだ。その上、目の覚めるような美女を4人も伴っている。リン太たちは注目の的だ。
「流石一流の冒険者は違うな」
「凄い美女だ。俺もあやかりてー」
「今回は何層まで行くのだろう?前回は帰り道の10階層で、ギルドマスターの息子たちを救出したのだろ。もしかしたら20階層を攻略するのか」
リン太たちの今回の予定階層は、2階層までだ。彼らの想像の遥か下だ。だが彼らが勘違いを起こすのも無理はない。彼女たちが装備している。武器防具は一流品だ。
どこから見ても初めて冒険でかける者とは思わないだろう。
「今からダンジョンに行かれるのですか、お時間があるようならギルドマスターがご挨拶をしたいと申しております。応接室へご案内してもよろしいでしょうか」
リン太たちは受付の女性からの申し出を受ける。
階段を上り、応接室に入るとギルドマスターのバルコが待っていた。
「下が騒がしいと感じて、覗いたらリン太さんじゃないですか。是非お茶でも差し上げたいと思いお誘いしました。それでそちらの女性たちは」
「ああ、彼女たちは私の妻です。昨日のパーティーではドレスを纏っていたから分からないですよね」
「これは失礼しました。今回はご家族でダンジョン探索ですか」
「いいえ、今回もダンジョン観光です。1階層2階層だけを見て回るつもりです」
「それにしては凄い装備ですね。その装備ならオークの群れに襲われても無傷ですね」
「過剰装備なのは解っています。でも妻たちの安全が第一なので」
「なるほど。目的は観光ですから、当然ですね。では気を付けて、いや楽しんできてください」
「ありがとう。ご馳走様」
ギルドを出て道すがらカナコがリン太に寄り添いながら話しかける。
「ねえ、私たちの装備って無茶苦茶凄いの?」
「俺のも含めて、防御力は凄いらしい。ダンジョンの低階層なら昼寝をしていても大丈夫らしいよ」
「試したことあるの?」
「ないよ。明日カナコが試せば」
「いやよ。リン太がやってよ」
「うーん、明日機会があれば、やってみようか」
「まさか、ダンジョンで昼寝する気」
「それこそ、まさかだよ。ゴブリンが出てきたら戦ってみようかなと思っている」
「それなら私も戦う。楽しみだね」
「えー戦うの!怖いよ。それに魔物の血がどばーと出て気持ち悪いよ」
ニナとミサコが嫌な顔をする。
「ダンジョンの魔物は切っても血は出ないよ。魔素で出来ているから、死んだら霧状の魔素に帰り霧散するだけ」
「じゃ、冒険者がダンジョン内で死ぬとどうなるの?」
「動かなくなった冒険者は1日くらいでダンジョンに吸収されるらしい。装備品も遺体も残らないのでそう考えられている」
「死して屍拾う者なし、隠密同心」
里美が独り言を言っている。また大好きな時代劇でも思い出したのだろう。リン太たちは里美を無視して話し続ける。
「それなら、クリーンね。清掃の行き届いたアトラクションだね」
「それって良いね。ダンジョン探索中に冒険者の腐乱死体なんか見つけたら気持ち悪いから。もしかしてゴミやうんこもダンジョンが吸収するの?」
「ダンジョンは原状回復機能があって時間が経つと元に戻るから多分そうなのだと思う」
「「「へー」」」
女どもはリン太の話に興味津々、目を輝かせる。
日が変わって昼過ぎ、リン太たちは、ダンジョン入り口受付でダンジョン探索の申請をする。
「探索の範囲と日程の予定を教えてください」
「1・2階層で日帰りの予定だよ」
受付の問いにリン太が答えた。
「えっ、1・2階層で日帰りですか」
受付の職員はリン太たちの装備を見て不思議に思う。彼らの装備なら10階層以上だろうと思っていたのだから。
「そうだよ。夕方には帰ってくるつもりだよ」
「承知しました。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「よし、それじゃ出発だ」
「「「おー」」」
リン太の掛け声に妻たちがそろって声を上げる。それを不思議そうに受付の職員は見ていた。
入口から少しだけ進むと、石で作られた通路からごつごつとした岩肌の洞窟に変わっていく。やがて鍾乳洞の様な開けた場所に出た。
「いかにもダンジョンと言う感じだね。ここに居る魔物は何?」
里美の問いにリン太は簡単に答える。
「スライムだな。そらそこにいる」
前回マリーと来たときは現れなかった魔物だが、今回は普通に遭遇した。
「やっつけていい?」
「いいよ」
里美は剣を腰から抜き、スライムに切りつけた。何の抵抗もなくスライムは魔素となって霧散した。何も残らない。
「なむなむ」
僧侶のニナが死んだスライムの冥福を祈る。
「ニナは魔物の死にも祈りを捧げるの?」
「だって、これしか私がする事はないから」
里美とニナが話している時にまた別のスライムが現れ、ニナに飛び掛かった。
バッチ、スライムが僧侶の服に触れた瞬間、何かがスライムを弾いた音がし、スライムは魔素に帰った。僧侶の服に備えられた自動防御システムが働いたようだ。
「なむなむ」
ニナはまた死んだスライムのために祈りを捧げる。
慈悲深い僧侶の様に見えたが、よく見るとニナの口角が少しだけ上がっていた。
それからは、スライムがでるとニナがスルスルと近づき、攻撃してくるスライムを僧侶の服で葬って行く。
「なむなむ。なむなむ。なむなむ」
僧侶ニナは全く慈悲の心を持ち合わせていなかった。
1階層におけるスライムを粗方倒してしまったので2階層に上がる事にした。
2階層に続く階段を登ると、そこには鬱蒼と茂る森があった。
「ねえリン太、ここは何がいるの?」
「ここはスライムに加えゴブリンがいる」
「ふーん。もしかして、あれかな?」
カナコが指さす方向にゴブリンが2匹いた。手には棍棒を持っている。
「「ギャギャー」」
リン太たちを認めたゴブリン2匹は棍棒を振りかざして突進してきた。
リン太は慌てて双剣を構えた。上段から振り落とされた棍棒を、双剣を十字にして受け止める。いいえ受け止めようとしたが、棍棒が双剣の刃に触れた瞬間切り落とされてしまった。ゴブリンは勢いを殺しきれずにリン太の前で転がる。
リン太は転がっているゴブリンを剣で突き刺す。一瞬でゴブリンは霧散した。
その時、後方からニナの悲鳴が上がる。
「キャー、ミサコ後ろ」
一番後方にいたミサコの後ろからゴブリン3匹が棍棒で殴っている。
しかし、当のミサコはボコボコに殴られているのに気が付かない。ニナの声でやっと振り向いた。目の前には3匹のゴブリン。棍棒を振り上げている。今にも殴られそうだ。実際は何度も殴られているのだが、魔女のローブによる自動防御システムにより気付いていなかった。ミサコにとっては今が襲われる瞬間に見えた。
彼女は慌てて魔女の杖を前にかざし、吠えた。
「ファイヤ」
ゴーーー、幅5メートルの火柱が水平に噴き出した。
火柱が通った後は、50メートル程焼き尽くされ、土がむき出しになった大地がそこにあった。
「「「・・・・・」」」
「ねえ、もう帰った方がよくない?」
カナコの提案でリン太たちは帰宅についた。後ろを振りかえらず逃げるようにダンジョンを後にした。
掻き溜めていたストックが無くなりました。次からは週一の頻度でアップしていきます。誰に言っているの?ごめんなさい独り言です。




