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魔塔都市は観光地

 杉原とリン太は、カラスとモニターの前で、報告をしている。

 ここは、庁舎内にある遠隔会議ができる通信室だ。二人は、月に1度、ゴーラ城で行われている御前会議に魔塔都市から参加している。

「ご領主様、エンタメギルドは、そのような経緯で解散しました。そのためエンタメ業界は自由競争になります」

「ふむ、それでリン太はメシヤ国の劇団や楽団を呼ぶ方法を考えているのか?」

 マリーの質問にリン太は、答える。

「10万人ほどの集客と金さえ払えば来るでしょう。ここ魔塔都市には1万人が入る劇場がありますから、10日間で10万人、興行収入にホテル、飲食等の経済効果を考えればお金も上手く回せると思います」

「札束で頬を叩く方法か、シンプルだな。それで、その10万人の集客はどうする」

「ここは誰もが驚く魔塔都市、観光地としても売りにだせます。ライブや劇場の他にカジノを含めて、是非ツアーパックを売りに出しましょう」

「面白そうだな、やってみろ。また近いうちに私も、そちらへ行くとしよう」

「「えっ」」

 杉原とリン太は、同時に声が漏れた。

「何だ。迷惑なのか」

「とんでもございません。喜んでお待ちしております」

 杉原が慌てて答えた。

「ふむ。今回は正式に視察という形にする。準備せよ」

「承知しました」

 モニターがデモ画面に切り替わった。会議が終わり、通信が切れたようだ。

「「はー」」

 また二人の口から同時に声が漏れた。遠隔会議とはいえ御前会議は緊張する。

 杉原は、気持ちを落ち着けるとリン太に向かい疑問に思ったことを聞く。

「リン太さん、ツアーパックの事はいつ考えたのですか。エンタメギルド解散の件は今話したばかりですよね」

「それは私が考えた事ではありません。私の妹が考えた事です。少し前からこの魔塔都市での商売を検討していました。今度紹介します」

「私の方も紹介したい人がいます。元エンタメギルドマスターのガルドです。一度会ってください」

「では明日にでも会いましょう。妹のヒロミも連れて来るよ」


 日が変わって午後の庁舎内応接室、リン太とその妹ヒロミがソファーに座って待つ事暫く、ドアが開き、鬼人の杉原と狐族のガルドが入ってきた。

「お待たせしました。早速ですが紹介します。こちら元エンタメギルドマスターのガルドさんです」

 リン太とヒロミはソファーから立ち上がり、ガルドに向かい合う。

「初めまして、ゴーラ&リンのリン太です。そしてこちらは同じく社員のヒロミです。よろしくお願いします」

 紹介され、挨拶を受けたガルドは、一瞬の間、混乱していた。極悪人と思っていた相手が、まだ少年の面影を残す青年だったからだ。握手のため出されたリン太の手に気が付き、慌ててその手を握る。

「あっ、失礼しました。こちらこそよろしくお願いします」

 リン太は営業スマイルを顔に張り付けたまま、特に感情はでていない。隣のヒロミは芸能業界の人を見るのが珍しいのか目を輝かせている。

「では掛けて話をしましょう」

 杉原が3人に座るよう、ソファーを勧める。

「長官から話は聞いています。その件はヒロミから説明します」

 リン太は、相変わらず営業スマイルのままヒロミに目で合図する。

「はい。では私から説明します。ガルドさんが求めているのはメシヤ国の人気のある歌手や、劇団、楽団の招へいでよろしいですね」

「あ、はい、そのとおりです」

 ガルドは今一、現実味のない返事をする。目の前にいるのは、14才程度の少女だ。どうも真剣に相手する気持ちになれない。

 しかし、長官の紹介だ。侮ればどうなるかは解っている。現実と理性が相いれない。

 ヒロミはそんなガルドの気持ちなどお構いなしに話しを続ける。

「人気のあるタレントをお呼びするには、ガルドさんもご存じのとおり、二つの条件があります。集客数と金です。いくらお金を積もうと観客のいないステージに人気タレントを立たせる事はできません」

「そうだな、それで?」

 分りきったことを言われて、ガルドの言葉が少しずつぞんざいになる。

「はい、それで集客に工夫をしました。この魔塔都市は現在3万人程の人口です。加速的に増加しているとはいえ、少数です。隣のメシヤ国の人口は5千万人、そこから客を呼ぶことでしかまとまった集客は期待できないと思います。そこで考えたのがツアーパックです。観光、劇場、カジノ、グルメ等をパックします。できれば比較的安全なダンジョン1・2階層もツアー観光に組み込めれば爆売れ間違いないと思います」

「そんな事は出来ない。エンタメギルドは他の業界に口を出せない」

 ガルドは

「あなたは、既にエンタメギルドマスターではありませんよ。ただの興行会社の社長です。ギルド間でのしきたりは関係ないのでは?それにあなたはプロデュースが得意分野ですよね」

 リン太が口を挟む。ガルドは暫く考え込む。

「そうでした。私はギルドマスターではありません。この企画できると思います。でも私がこれをやっていいのですか。この企画は将来にわたって相当な利益を生みますよ」

「勿論、コンサルティング料は頂きます。将来にわたって、売り上げの1割でどうでしょう」

 リン太の提案にガルドは即答する。

「それは暴利だ。アイデア1つで売り上げの1割は酷い、5分でどうです」

 最初から腹案を持っていたのだろう。リン太は考えることなく話しを進める。

「それでは、旅行客の運送と、そのホテルを我が社に優先してくれるのであれば、その条件でのみます」

「承知しました。リン太社長よろしくお願いします」

 将来にわたり大きな取引になる案件だが、簡単に決まってしまった。

 リン太とガルドは最初の挨拶の握手とは違い、強く握りしめた握手を交わした。


 ガルドが帰った後、杉原とリン太が長官室のソファーで話をしている。

「リン太さんあれで良かったのですか?利益が半額に」

「杉原さん、コンサルティング料など出まかせです。特に欲しいとも思っていません。所詮絵にかいた餅です。これを現実にするのが大変です。元エンタメギルドマスターのガルドさんにはできると思いますが、私どもにはできない事です」

「そういう物ですか。公務員の私には解らない事ですね」

「この件は、これで良いとして、領主様の視察をどう思いますか」

「それは、どういう意味ですか。リン太さんは領主様の腹心ですよね。私に領主様の行動の是非を問うのですか」

「違いますよ。そもそも私は彼女の腹心ではありません。ゴーラ&リンのオーナーが彼女であるだけで、私は雇われ社長です。何かとこき使われています。今回の視察、彼女の考えが解らないので、杉原さんに聞いてみただけです」

「そうなのですか」

 まだ、杉原は納得していない様子だ。

「それでは、私の考えから話します。この魔塔都市ができて、1年が過ぎ、道路は勿論、様々な建物が建築され、人口も3万人を超えています。一つの都市としての機能を保持したと言えます。この段階で領主様が視察に来るのは、何ら不思議ではありません」

「それは、私も同意見だ。リン太さんは他に心配事があるのですか?」

「先ほど、杉原さんは私が領主様の腹心だと言っていました。周りからそう思われるぐらいには、彼女の近くにいる事が多いのは事実です。そして、彼女の趣味も少しだけ理解しています」

 杉原はリン太の言葉から、口に出せない苦労があるのだと感じ取った。公爵様の人使いには定評がある。悪い意味で。

「なるほど、ご苦労が多いのですね」

「ありがとうございます。そこで私は思うのですが、この視察、絶対にただの暇つぶしの視察ではないと思います。何か企んでいると思います」

「いや、普通、視察は暇つぶしでやる事ではないと思いますが」

「彼女にとって視察は恰好の暇つぶしです。彼女の仕事は半端なく忙しい、でも面白みのないものです。彼女は刺激を求めている。その上彼女の大好物は・・・・」

 リン太はそれ以上言えない事なのだろう。途中で口を噤む。

 杉原は、それを察して少し話を進める。

「少し解ります。この前のダンジョン観光ですね。お忍びで魔塔都市に訪れているのに、この度は正式な視察、何か別の目的があると?」

「間違いありません。何をやらされるか?」

「心配しても、解らないものは仕方ありません。成るように成るでしょう」

 上司を信頼している杉原は全く心配している様子はない。

 リン太だけが、危機感を募らせている。

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