エンターテインメント
後日、ギルドマスターのバルコが庁舎にやって来た。
「この度は大変お世話になりました。長官には助けられてばかりです」
「いいえ私は、領主様の指示に従い動いただけです。またその領主さまも法律に基づき指示されただけです。特にお礼を言われる事ではありません」
「我々は素晴らしい領主を頂き幸せです。それで、逮捕された者たちはどの様になったのですか」
「彼らは裁判に掛けられ有罪になり、この国の一番刑の軽い棒叩きに処せられました。そして全員、一回の棒叩きで絶命したので共同墓地に葬りました」
「やはり、人族は脆弱ですな」
バルコは、彼らの冥福を祈るように、少しの間、目を閉じた。
「それで、その後の様子はどうですか。メシヤ国の冒険者たちは大人しくなりましたか?」
「お蔭さまで、組織だった妨害はなくなりました。冒険者ギルドは大丈夫です」
バルコの少し変な言い回しに気が付いた杉原は質問する。
「と言うと、それ以外のギルドに問題があるのですか」
「はい。エンタメギルドがメシヤ国の嫌がらせを受けているようです」
「なるほど、エンターティメントはメシヤ国が先進国ですから、我が国は劣勢です。それでどのような嫌がらせですか。領主様はエンタメが大好きですから心配です」
「ゴーラ公爵様が、エンタメを大好きとは、それではエンタメギルドは安泰ですね。直ぐにでも保護されるでしょう」
「いいえその反対です。面白くない娯楽など保護する必要はない。いいえ存在する必要などないと考えるかもしれません。それでどのような嫌がらせを受けているのですか」
「聞くところによると、人族の人気スターや、劇団、楽団等の派出を拒否しています。興行できる劇場は、我が国のエンタメギルドが優遇処置により抑えているのですが、肝心の中身がお粗末なので、集客できないようです」
杉原は難しい顔をする。
「それは詰んでいるな。場所の使用権は我が国のギルドを優先的に与えているが、維持できる能力のない者にいつまでも使用させる領主様ではない。この都市の発展の妨げになると判断した場合は、その利権は取り上げられる」
「となると、エンタメギルドは解散ですね」
ギルドとは業界の独占企業だ。国からその業種の発展のため、商売を認められた唯一の企業だ。その権利を取り上げられたら、その業界は自由競争になる。そして、今までとは反対に、国は自由競争を阻害する者を取り締まる。
「そうなりますね。エンタメギルドは一つの興行企業になる。独占ができなくなるだけです。今まで我が国のエンタメがメシヤ国に劣っているは、独占が発展を阻害していた可能性もあります」
バルコは緊張した口調で長官に話す。
「それは良い事を教えて頂きました。我が冒険者ギルドは、その独占する権利の上に胡坐をかくことなく、この国を発展させるべく努力します」
「私も同じです。領主様から権利と義務を与えられた者の一人です。お互い頑張りましょう」
冒険者ギルドマスターのバルコは帰った。
そして、数日後、噂していたエンタメギルドのマスターであるガルドが、長官に面会を求めて来た。杉原長官はこれに応じた。
「初めまして、エンタメギルドマスターのガルドと申します。ご相談があり参りました」
狐族特有の胡散臭さをにじませ、派手なジャケットを羽織った中年の男は、軽く頭を下げると長官の前まで進み出た。
「杉原です。どうぞお掛けください」
二人は応接室のソファーに腰を下ろす。
「ご相談とは、何でしょう」
「はい、当ギルドは、この都市の発展のため、娯楽を商売として努力しております。人気のある、劇団や楽団などを招いて市民にひと時の愉しみを提供しています」
「そうですね。それで何か問題でも?」
「それが、メシヤ国のギルドから嫌がらせを受けておりまして、かの国のメジャーなタレントや、人気のある劇団、楽団を招こうとしているのですが、応じてくれないのです。この都市の多くが、メシヤ国から来た冒険者とその関係者です。彼らは娯楽に対する目が肥えていて、魔王国の娯楽では満足しないのです」
「なるほど、それで」
「ここのところ、劇場に来る客足が途絶え、経営に影響がでています。どうかメシヤ国のエンタメギルドの嫌がらせを何とかできないかと、ご相談に上がりました」
「なるほど、それで」
「ですから、長官の御威光で、彼らを何とかしてもらいたいと」
「具体的には、私に何をさせたいのです?」
「外交上の交渉をもって、強制的に人気劇団や楽団を招へいしてください。そうしないとエンタメギルドは潰れてしまいます。」
ガルドは、真剣に話しているが、杉原は呆れた。そして直ぐに見限った。
「そんな事できる訳がないだろ。ガルドさん、ギルドは民間ではあるが、国の機関でもあります。その業界を独占するという権利をもちながら、経営ができない。それはあなたが無能なのか、この地域に必要とされない業種であるか、または、独占する事が不適切であるのでしょう」
ガルドは、杉原の言葉に直ぐに反応した。相手が長官である事を忘れたのか、元々長官を舐めていたのか、いずれにせよ思った事を口にした。
「私を無能と仰いましたね。これでもギルドマスターです。謝罪を要求します」
杉原は少し口角を上げたように見えたが直ぐに真剣な顔になり、謝罪した。
「そうでした。あなたはギルドマスターです。無能なはずはないですね。前言を撤回して、謝罪します」
「分ればいいのです。それでは招へいの件よろしくお願いします」
「いいえ、それはできません。先ほど言ったように、あなたが無能でなければ、不要な業種か、独占するのが不適切だと言う事です。いずれにせよ、エンタメギルドは不要だと判断しました。後日エンタメギルドの解散を通知します。それではお帰り下さい」
杉原は立ち上がり、手で出口を指す。
「何を言っている。そんな事ができるはずないだろう。撤回しろ」
ガルドはいきり立つが、出て行こうとしない。
「帰らないのなら、投獄しますよ」
「おぼえていろ。必ず後悔させてやる」
ガルドは捨て台詞を吐きながら、帰って行った。
彼の退室を確認した長官は、秘書に生活課の課長を呼ぶように指示した。エンタメギルドの解散を指示するためだ。
長官室を出たガルドは、興奮しながらも、先ほどの経緯を思い出す。
あの野郎、俺を無能呼ばわりしやがって。
・・・でもそれは取消して謝罪された?それで、ギルドは解散することに?もしかして、俺はやっちゃた?俺が無能を認め、助力を求めたら良かったのか?
あいつの目、本気だった。俺は取り返しの出来ない事をしたのかも。
少しづつ冷静さを取り戻していくにつれて、ガルドは自分が言った事を後悔し始めた。
ガルドはエンタメギルドに戻らずに、友人がギルドマスターを務める商業ギルドを訪ねる事にした。
「ハンス助けてくれ、エンタメギルドが解散させられそうだ」
突然駆け込んできたエンタメギルドマスターのガルドに、商業ギルドマスターのハンスは戸惑いながら話を聞くことにした。
「何があった。落ち着いて話してくれ」
ガルドは今日あったことを正確に話した。まだ自分に非があるとは思っていないので、何も隠さず誇張せずに話した。
「お前は長官にハメられたのだよ。長官はエンタメギルドがメシヤ国からの嫌がらせを知っていた。それで、エンタメ業界をどうするかも検討したのだろう。その結果ギルドは不要と考えた。そこに、のこのこ訪れたお前は、長官の口車に乗ってエンタメギルドを潰すことに協力した。最後に長官を強迫する捨て台詞までプレゼントしている」
「俺はどうなる」
「長官がその気なら、お前は逮捕されて、棒叩きに刑だ。今なら1回だろう。お前なら1回程度なら死なないだろ。いや長官と言えば本来貴族職だ。貴族様に謝罪させてタダで済むわけない。ガルド、お前は終わっている」
「俺はどうすればいい」
「逃げる。これが一番いいと思うが、お前にも家族や従業員がいるから、今すぐ謝りに行く。もしかしたら生きて帰れるかもしれない。生きて帰れれば、直ぐにエンタメギルドを解散し、利権を返上する。後は一興業企業として、一からやり直す」
その言葉に愕然としたが、自分の置かれている状況を理解したようだ。
「助言ありがとう。直ぐに長官に謝りに行ってくる」
ガルドはまた長官に面会を求めた。
「長官、エンタメギルドマスターのガルド様が謝罪したいと来ています。お通しして宜しいですか」
杉原は長い溜息をついた。
「通してやれ」
室内に入るなりガルドは額を床に擦り付け土下座した。
「長官先ほどは申し訳ありませんでした。無能で愚かな私をお許しください」
「謝罪を受け入れるよ。まあ掛けなさい」
杉原は執務机から移動し、ソファーに腰を沈め、ガルドにも座るように指示した。
遠慮して、床に正座していたガルドも、再三の勧めでソファーに移動した。
「謝罪は受け入れたが、エンタメギルドは解散させるからな」
「承知しました。これからは、一興行会社として社会に貢献していきます」
「それでいい。メシヤ国のアーティストを呼ぶ件だが、ゴーラ&リンのリン太社長に話してみれば良い知恵を借りれるかもしれないな」
「えっ、先ほどは、できないと言われたと思いますが」
「それは、政治的にはできないと言ったのだ。こう言うのは民間でやるのがいいだろう。あちらも本当のところエンタメを輸出したいと考えているはずだ」
「ありがとうございます。リン太社長はいつ紹介して下さるのでしょう」
「近いうちに紹介できるだろ。連絡をいれるから待っていなさい」
ガルドが帰った後、杉原はまた長い溜息をついた。
俺は、甘いな。彼がエンタメ業界を発展させることができると思えない。だが、彼をここに謝罪に来させたのはだれだろう。
ホッとしたガルドはまた商業ギルドに来ている。ギルドマスターのハンスにお礼を言うためだ。
「早いな。まさか許されたのか?」
ハンスは本当に驚いている。
「まさかは無いだろ。この通り生きている。お前のお陰で命は助かった。感謝している」
「思っていた以上に長官は懐が深いな。俺なら棒叩き10回は絶対しただろう」
ガルドはハンスの言葉に一瞬青い顔になるが、気を取り直して話しを続ける。
「それと、長官からゴーラ&リンのリン太社長を頼れと言われた。ハンスは何か知っているか?」
「それなら知っている。ゴーラ市では割と有名な社長だ。良い噂も悪い噂もある」
「また嫌な予感がしてきた。教えてくれ。良いのも悪いのも」
「彼は、気にくわぬ衛兵を棒叩きの刑にして殺した。彼は、意に沿わぬ土建会社の幹部を皆殺しにした。彼は、銀行の頭取を脅して男爵屋敷を自分の物にした。彼は、4人もの少女を嫁にして、その全てを副社長にしている。彼の会社の社員の大部分が前科者だ。これらは噂だが、俺は全て事実だと思う」
「極悪人だな。それで良いところは」
「悪知恵が働くそうだ」
「良いとこないじゃないか」
ガルドは優つになってきた。命は救われたが、極悪人を紹介されるようだ。本当は許されていないではないかと思う。




