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お礼

 マリーたち3人は、合同庁舎の長官室で会議中である。

「昨日の救助した件が、噂になっているようです」

「どのような噂だ?」

「凄腕のパーティがミノタウルスを土下座させていたと、助けられた冒険者の一人が話しているようです」

「見られていたか。それは不味いのか」

「分りません。あの時、姉さんは、土下座するミノタウルスに何をしていたのです?」

「ああ、あいつが冒険者にキッチリ止めを刺していないから面倒な事になった。その事を叱っていた」

 マリーは嘘をついた。本当の事は、照れくさくて言えなかった。

「魔物と話ができるのですか?」

 リン太は驚きのけ反る。

「何だ、その態度は、私が痛い者の様ではないか」

「あ、いえ、少し驚いただけです。それで本当にダンジョンの魔物と話ができるのですか」

「そんな訳ないだろう。何と無く雰囲気はお互い伝わるが、正確な意思疎通はどうだろう」

 リン太は少しだけ間を置き答えた。

「ダンジョンオーナーの姉さんの気持ちだから、魔物に伝わったと思う。たぶん」

「それならいい」

 マリーは嬉しそうな顔をする。

 マリーはあの時、叱るのではなく、逆に褒めていたのだ。10人もの冒険者を相手に勝利を収めたミノタウルスを、「良くやった。これからも励め」と。

 マリーの気持ちを察したのかは解らないが杉原が話し出す。

「今回の件は、様子を見る事にしましょう。冒険者ギルドにはお忍びであると伝えてあります。ギルド長のバルトなら余計な事はしない、また余計な事を話すこともないでしょう。噂はしばらくすれば消えると思います」

「そうですね。長官の言われるとおりと思います。ここは、様子を見ましょう」

「ふむ、あい分かった。お前たちの言うとおりにしよう。ダンジョン観光も中止だな、まあ、魔物に土下座されるだけのダンジョンなど面白くない」

 まずはこの件についての方針は見えた。


 コンコン ドアをノックする音がした。

「冒険者ギルド長、バルコ様が長官にお会いしたいと来ています」

 杉原は、マリーが頷くのを確認して答える。

「会おう。ここに通せ」


「失礼します」

 ドアを開け、入室してきたバルコは少し驚く。

 長官の執務机前のソフャの上席には少女が、そしてその右前には、このまえギルドの応接室で合った鬼人の少年が座っている。魔塔都市庁長官は少女の左前の椅子に腰を下ろしている。常識的に考えて長官の席は一番の下座だ。少女は分かる。ゴーラ公爵様だ、しかし少年の事は解らない。先日合った時は領主様の傍らに立っていた。その時は護衛だと思っていた。今の状況を見ると、長官より立場が同等か上、領主様の補佐官で間違いない。

 バルコは職業柄、状況を分析する癖がある。

 しかし、ここに来た目的は全く別の事だ。バルコは姿勢を正し、深く頭を下げる。

「ご領主様、私の息子を救出していただき、ありがとうございます」

「あの中にお前の息子がいたのか?なに、ダンジョン観光の帰りに拾っただけだ。気にするな」

 マリーは特に感情を持たずに答えた。本当は、感情を殺し、表情を出さずに答えたと言える。リン太と杉原も同様に表情に変化はない。

マリーがあそこに居た影響で、魔物が通常より強くなっていたのだから、バルコの息子が大けがをしたのは、元を正せばマリーが原因である。そんな事は絶対に話せない。

「そうは言っても、命を救われたご恩は必ずやお返しします。何なりとお申し付けください」

 バルコは知らずに、マリーの良心を痛めつける。

「感謝は受け取った。本当に気にするな」

「何とも懐の大きい方だ。本当に感謝します。できれば、私の息子が救出された経緯を教えて下さらないでしょうか。冒険者たちの参考にしたいと思います」

「よかろう。私がその現場に到着した時には戦闘は終わっていた。全員死んでいると思ったが、息のある者がいたので、拾って帰った。参考にならないな」

「いいえ参考になります。実は助けて頂いた者の一人が、ミノタウルスが領主様に土下座をしていたと言っとりまして、意識が朦朧としていた者の言う事なので信憑性にかける事ですが、お心当たりはありませんか」

「ああ、その事なら事実だ。私がミノタウルスに掛けた魔法だよ。怪我をした冒険者からミノタウルスが近くにいるから気を付けろと言われ、弱っているミノタウルスを発見して幻覚を見せていた。その冒険者のお陰で私たちも助かった。警戒せずに救助活動していたら我々も危なかったかもしれない」

「そうだったのですね。ご領主様のお力は素晴らしいです」

「バルコ、私の能力は人に知られたくない。他言無用だぞ」

「承知しました」


 ギルドマスターのバルコは、何度もお礼を言い、帰って行った。マリーの良心はそのお礼の数だけ傷ついた。


「やれやれ、やっと帰ったな。もう会いたくないな」

マリーの呟きに杉原は言いにくそうに話す。

「それは叶わないと思います」

「何だ。何かあるのか?」

「現在、魔塔都市の冒険者ギルドは、魔王国側のギルドのみです。人族のメシヤ国の冒険者ギルドは、一室だけ与えられ連絡業務をしているだけです。多くの利益を生む業務、依頼の斡旋業、魔石、アイテム等の引き取り業務、ダンジョン出入管理業務等は全て魔王国側のギルドが握っています。この現状にメシヤ国のギルドや人族の冒険者が不満を訴えています」

「でも、ここ魔塔都市は魔王国の都市なのだから当然だろう。メシヤ国内に魔王国のギルドがないのと同じだ」

「理屈はそうですが、人族は不公平だと言い、聞き入れません。人族の冒険者は数が多いので、ギルドマスターも困っているようです」

「なるほど、メシヤ国のギルドが人族の冒険者を煽っているのが透けて見えるな」

 マリーの笑顔が悪者の顔になっている。楽しそうだ。

「姉さん楽しそうだね。また悪い事を考えているのでしょう」

「何を言っている。悪い考えはお前の分野だろ。私は正当な事を考えていた」

「それは、ギルドの業務を妨害した者は、普通に逮捕してこの国の刑法に則り裁く。棒叩きの刑ですね。でもそれでは人族はほぼ死んでしまいます」

「別に良いだろう。それがこの都市の目的なのだから、ダンジョンの中で死のうが、外で死のうが大した違いはない」

「承知しました。冒険者ギルドに治安部隊を派出します」

 杉原は直ぐに行動した。


 治安部隊が冒険者ギルドに常駐して、次の日、ガラの悪い人族の冒険者たちが、大勢受付にやって来た。

「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょう」

「ああ!ここは人族の受付はいないのか。獣人なんかとは話したくないだよ。チェンジだ。早く人間の受付に交代しろ」

「「「そうだ、そうだ。獣人はひっこめ!」」」

「そう言った、ご要望にはお答えできません。ご不満であれば、お帰り下さい」

「ばかか、俺たちは客だぞ。それを追い返すのか、これだから獣人のギルドはだめだ」

 得意げにその冒険者は喋る。不満気でなく、むしろ喜んでいる。

その時、入口のドアが閉まる。

「はいそれまで、冒険者ギルドに対する業務妨害の現行犯で逮捕する。大人しくお縄に付け。抵抗すると殺す」

 1個分隊の衛兵が、出入口を塞ぎ、隊長が口上を述べる。芝居がかっていて迫力も緊張感もない。

「なんだ。お前らが、俺たちを逮捕するって?できる物ならやってみろ」

 ドサ。先ほどまで吠えていた人族の冒険者が倒れた。

「他に抵抗する者はいるか?」

 迫力に欠ける隊長が再度、冒険者たちに話す。

「てめい、何しやがった」

 ドサ。殴りかかった、その男も倒れた。

「他にいるのか?・・・・いないようだな。お前たち全員、その場にうつ伏せになれ」

 20人の冒険者がお縄になった。全員がメシヤ国から来た人族の冒険者だ。

「俺たちどうなるのですか」

 連行されていく冒険者の一人が、獣人の兵士に尋ねる。

「取り調べの後、裁判に掛けられ、有罪なら刑に処される。業務妨害だから大した刑にはならないだろう」

「そうですか。安心しました。簡単な仕事で、日当を貰えると聞いて参加しただけなんです」

 それを聞いていた連行される冒険者たちに元気が戻ってきた。

「俺たちにこんな事をしてタダで済むと思うなよ。出てきたらたっぷりお礼してやる」

「「はははー」」

「止まれ」

 隊長が突然号令を掛けた。

「お前たちの権利を読むのを忘れていた。聞け!お前たちには黙秘権がある。それだけだ。進め」

「何言ってんだ。このタコ」

「止まれ」

 また隊長から号令が掛けられた。

「その男の口を縫え」

 暴言を吐いた男は兵によって唇を縫われた。

「お前たちには黙秘する権利しかない。喋る権利はないのだ。許可なく喋る者は口を縫う」

 連行される者たちはまた静かになった。

 そして、連行されて行った者たちは、その姿を二度と見せる事はなかった。

 その2日後、メシヤ国の冒険者ギルドの連絡員が逮捕された。容疑は業務妨害の主犯である。彼が、冒険者を雇い業務妨害をさせていたようだ。彼も先に逮捕された冒険者同様その姿を見せる事はなかった。


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