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魔法道具は今日も静かに眠る ~壊れた魔導具を直していたら、 なぜか街の人生相談所になっていました~  作者: カナ山


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赤い狼の商会



市場を抜けると、すぐに図書館の白い壁が見えた。

扉を閉めた瞬間、紙の匂いと一緒にざわめきが消える。

壁が音を吸い込み、朝の喧騒は遠い。


「目録は禁書……?!」


思わず声が大きくなるが、周りからの鋭い視線にすぐさま声を落とす。


「しーっ。ここ、図書館」


エレナが小声でたしなめる。

周りの様子を確かめた後、私たちは顔を寄せて話し込む。


「昔の資料はそれだけで価値が高いのよ。紙は貴重だったもの」


私の目論見は見事に吹き飛ばされた。

製紙技術。

完全に盲点だ。

この街にいるとついつい忘れてしまう。

期待していた結果が裏切られ、呆けたままエレナの顔を見つめる。


「現在の目録は貸し出しできないし、どうしよう」


ああでもない、こうでもない。

見習い司書として働くエレナは顎に指を当てて考える。

夜明け前の空のような瞳がぼんやりした私の気持ちをそっと照らす。

思わず見入ってしまい、息を吐いた。


「でも、ティアちゃんはどうして目録が必要なの?禁書っていっても貸し出し希望なんてほとんどない書籍なんだよ?」


少し言葉に詰まるが、事情をかいつまんで説明した。

するとエレナは頷いてさらに何事かと考え始める。

やっぱりだめなのか、諦めたその時、エレナが人差し指を天井に向けた。


「それじゃあ、その年代に出た発明作品について調べるのはどう?似たような製品が出ているかもしれないよ」


その言葉に、胸の奥で小さな光がちらつく。

もしかしたら、希望の糸口が見つかるかもしれない。


どうか、目当ての本が見つかりますように!


祈りながら目当ての書籍を探してしばらく歩く。

背表紙はすべて同じ高さに揃えられ、館内は魔導具により室温が一定に保たれていて暖かかった。

利用者はほとんどが学者か神官だ。

裾の長いローブを身につけ、一心不乱にページに向かっている。


そんな図書館の中でも隅っこにあるその棚は、光が当たらず本棚自体に薄い影を落としている。

そこだけ紙と埃が混じったような独特の匂いが漂っている気がして思わず顔を背けた。

私は手前でできるだけ大きく息を吸い込み、できるだけ息を止めながらそれらしい書籍を探す。


『古今東西 ダンジョン探索魔導具 増補版』「微妙だな」

『魔法はいかにして魔導に変化したのか』「魔法かぁ。私も使ってみたい」

『魔力事故報告書(抜粋)』「うん、絶対違う。」


小難しそうな内容が小難しそうに並んでいる。

修理屋としては興味はあるけど、いまは目当ての本だけが欲しい。

あ、これなんかいいんじゃないかな。


『解説:魔導発明の今昔』


腕が引っこ抜けそうなくらい分厚いその本はふちも削れておらず、赤い背表紙に金色の箔押しがされている。

すこし分厚い紙の手触りが心地良い。

分類札が古く、差し替えられていないままだ。


ということは、少し前に刊行された本なんだ。

今の私にぴったりな一冊な気がする。

期待を込めながら1ページ目を開く。


序章ー今日における魔導具の発展は目覚ましいものがあります。思い起こせば魔導具の人類に対する貢献は図りしれず、その功罪は歴史を紐解けば枚挙に暇がありません。本書ではそんな魔導具の主だった歴史を記し、その成果を――いやいやいや、いまはこんなところをゆっくり読んでる場合じゃないの。困ってるのこっちは。


そんなやつあたりをしながら、片っ端からページをめくる。

ランタン、ランタン、ランタン。生活系の魔導具!


「ちょっと、ティア。早くしてよ。いくら猫の体が柔らかくても、ここは狭すぎるよ」


とんがり帽子から声がした。


「喋らないで。図書館は動物禁止なんだからしょうがないでしょ。」小声でとんがり帽子に言い返す。


そう、この図書館に入る前に受付でクロエの立ち入りを禁じられた私たちは、話し合いの末、苦肉の策としてクロエをとんがり帽子の中に突っ込んだのだった。


「この辺、人が来ないようなエリアなんでしょ?今だけ外に出してよ。いっしょに探してあげるから」


帽子の中にいるクロエが居心地悪そうに、頭の上で体制を変える感触がする。

あんまり動くから、私の帽子が生き物のように蠢いていて不気味な事この上ない。


「しょうがないな。人が来たらすぐ戻ってよ」


そう返事をすると、黒い影が頭の上からサッと飛び出す。

首のスカーフがその拍子に背中に周って、もとに戻る。

床に着地したクロエの毛並みは、今はあちらこちらにぴょんぴょんと飛び跳ねている。

そうしてぶるりと体を震わせると、なんだか切なそうに目を細めた。


「ひどい目に合った」

「さ、はやく手がかりを見つけよう」


何も聞かなかったことにして、本のページをめくり直す。

中には見知った魔導具や見たことのないレトロな魔導具もあり、本の匂いも忘れて内容を読み漁る。


「随分端っこまで来たね」

「おかげでそれらしい本が見つかった」


思わず、口の端が釣り上がる。

人気のない本だったようだ。

忘れ去られてしまわれる場所も選ばれない。

でも私は見つけた。


『望みのランプ』魔法道具:月光のランプの模造品。稀代の詐欺師が発明したこのランプは、魔力を通すことで、所有者の望む光景を映し出した。しかし依存するものが後を立たず、最後には幻覚を見せる機械としてエンリィ国では社会問題にまで発展した。


「あー、これ村の学校でならったな」「へぇ、意外。ちゃんと授業聞いてたんだ」

「ちょっと、これでもテストでは上の方よ」「学校全体でも20人くらいだったじゃない」

ぐうの音も出ない。


『全自動風切り羽』「これであなたもハーピーに」をコンセプトにした装着型の羽。見た目は大変に美しいが、飛行能力に乏しく浮遊時間はおよそ3分ほど。小さな子供の間で爆発的に流行し、とある国の王太子が好んで使用したという。


「楽しそう」「3分て」


『アルバート式魔導回路』アルバート式魔導回路の登場によって、人々はより高い魔力伝達性を手に入れた。キャッチコピーは「より早く、より安全に」この発明によって人類はより豊かな暮らしを手に入れたと言える。


「こんなの作れたら、一生食いっぱぐれないよ」「うらやましい」


そうして、文字を追っていた指が止まる。ざらついた紙の上に鮮やかな赤いマークのスケッチ。毛に覆われたその横顔には妙な愛嬌があった。


『ランドルフ製魔力鉄鍋』

温度の調整が効くこの鍋は、小型ながらも耐久性に優れ、軍や冒険者の間で重宝された。赤い狼の刻印はランドルフ商会の象徴であり、野営地でこの鍋を見ると妙に安心する者も多い。ただし、調整つまみを雑に扱うと、鍋のほうが拗ねるという噂がある。派手さはないが、暮らしの現場では信頼されている。


赤い狼。

ランタンの赤い塗料と見比べる。

――繋がる、気がした





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