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魔法道具は今日も静かに眠る ~壊れた魔導具を直していたら、 なぜか街の人生相談所になっていました~  作者: カナ山


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混じり合う記憶


考えるより先に口から出ていた。


「了解であります!上官どの!」


右手を指先まで揃えて、頭の前で斜めに構える。

敬礼だ。

視線を横に向けると、若葉と茶色と金色が私を見ていた。


…やってしまった。


自分の顔が徐々に熱くなっていく。


「ティアさん?急にどうしたのさ」


「疲れすぎておかしくなっちまったのか?」


「あ、いや、ごめん…。急にどうしたんだろうね私。はは…」


ランプが調子悪そうに点滅している

外から雨が扉を叩く音がした。

いつの間にか降り始めたようだ。


「…疲れてるんだよ。ふたりとも悪いんだけどティアを休ませてやってくれない?」


「あ、ああ。もちろんだ」


「今日は大変だったもんね」


フィンとシードは顔を見合わせながら、席を立つ。

居ても立っても居られなくなり、両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。


「クロエ、私なんて言ってた?」


「了解であります。上官どの」


「後は?」


「それだけ」


外の風の音が大きく響く。

息を吸って、止めて。

そしてしばらくしてから一気に吐き出した。

恥ずかしいという気持ちを一緒に体から出してしまいたかった。


「ティアさん、僕のベッド使ってよ。下は毛布しか無いんだ。兄さんたら何回言っても布団を買わないんだもの」


「俺はダンジョン探索で家をよく空けているから、必要ないんだ」


「まったく、これだもの」


シードはため息を漏らしながら、毛布の端と端をもって畳み始めた。

折り目正しく畳まれた毛布は、まるで売り物みたいだった。

その様子を横目に、フィンはかまどの薪を大きくかき回す。

火花がぱちりと弾けた。


「ありがとう、お借りします」


その気遣いを有り難く頂戴しながら、はしごに足をかける。

今日はシードの何かを借りてばかりだ。

そうして二段ベッドのはしごを登ったところで、はたと気がつく。


「二人は何処で寝るの?」


自分が二つあるベッドを片方使ってしまえば残りは一つ。

あたりまえのことだ。


「シードが下で寝る」「兄さんが下で寝る」


ほぼ同時に別の答えが出てきた。

兄弟はまた顔を見合わせた。

フィンが眉を潜め、シードが笑いかける。

その瞬間二人の間に小さな火花が見えた。


「下のベッドは兄さんのものだ。だから兄さんが使うべきだよ」


「いいや、シード。お前はパン屋の仕事で朝が早いだろう。疲れを取っておくべきだ」


「そんなの兄さんだって同じだろ。隠し区画が見つかりそうだって言ってたじゃないか!」


「おれは頑丈だ。冒険者保険だって入ってる」


わーわー。ぎゃーぎゃー。

二人の言い合いは止まらない。

仲のいい兄弟だな。

しかし自分のせいでこの兄弟が言い合いをしてると思うと肩身が狭い。

やっぱり泊まるのはよしておこうか。それとも


「ねぇ、二人とも。私が急に押しかけているわけだし、私は床で大丈夫だよ」


「大丈夫じゃない」「大丈夫じゃないよ」


今度は同時に同じ答えが返ってきた。


「お前は客だ。客を床で寝かせるやつがあるか」


「そうだよ、一番疲れてる人が布団を使うべきだよ」


なんだか引っかかる。


「ちょっと、二人だって疲れてるでしょ」


「はやく休みたいってティアが言ったんだろ」


もう一人加わって、さらに騒がしさが増す。

クロエは前足に顎を乗せ、リラックスモードだ。

半月の目に言い争う私たちが映り込んでいる。

こういう時はその達者な口を使って私を援護してほしいが、その気はないらしい。

こうなったら仕方がない。最終手段だ。


「…ねぇ。ホントはさ、私だってベッドがいい。でも、それで二人が言い争うくらいなら、私は床でいいって思うの」


二人は目を丸くする。


「守ってくれた恩人に、友人に、迷惑かけたくないだけ。だから…」


「ティア、俺…」


フィンが、口を開きかける。


「だから…今日わたし、床で寝るね」


そう宣言して、強引に床で丸くなる。

背中に床の冷たさを感じて、ダンジョンでの同行調査を思い出す。

私だって、これでも野宿には結構慣れてる。


「おやすみなさい!」


疲れていると認めて、布団に潜り込んでしまえば楽なのに。

それでも口に出せない。

誰かに頼ること、寄りかかることに抵抗があるからだ。


二人がなにか騒いでいるが、とんがり帽子を深く被って耳を塞ぐ。


明日はどうしようか。

追いかけてきた冒険者たちに、ギルドの更新料。

考えたいはずなのに、頭が働かない。

きっと、もっといい方法が…ある…はず。

意識が遠のいていく。



耳の奥で、誰かの叫び声がこだました。

誰かが泣いている。

深く追憶を使うと、私はいつもこうだ。


泥と血の味がする。

このまま続ければ、壊れるかもしれない。


——このランタンが、

私に思い出させようとしているのなら。



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