猟奇的なキスを私にして
午前3時のルート33を、2ストロークエンジンの叫び声だけが支配する。俺の愛車ボンネビルT120が「もっともっと」と俺にせっついてくる。
真っ黒なペンキをぶち撒けたようなどろっとした暗闇を、ヘッドライトの灯りがそこだけ切り裂いたような放射状の裂け目を作っている。
監視用ドローンの姿もこの暗闇じゃ分からないが、今のところ俺と相棒を止めるものは現れていない。
全裸で二輪車に跨りしっかりと両股でタンクをホールドしているせいか、玉にダイレクトなヴァイブレーションを感じることができる。
空想4次では味わうことの出来ない生の感覚に俺は興奮し、性器は激しく勃起していた。琥珀海岸で燻っているあのクソッタレ上級拷問官もここに来てコイツを決めれば、間違いなくあの仮面みたいな無表情を綻ばせるに違いない。
しかしよく考えてみれば俺はバイクなんてものを運転したことがないし、ここはルート33なんてハイウェイではなく東武池袋百貨店の屋上で、俺は100円を投入すると間抜けな音楽を流しながら2分間ほどガタガタ振動してくれる幼児用の児童玩具に全裸でまたがっているに過ぎなかった。
途端に光が満ちる。辺りを覆っていた暗闇が吹き飛び、池袋東武百貨店の屋上に俺はいる。8月の日差しが全裸の俺の肌を焼いている。
奇異の目で俺を見る瞳。ベビーカーを押す若い母親は、恐怖の色を浮かべて俺を見ている。
「後ろに乗りませんか! 気持ちいいですよ」
目があったので誘ってみるが彼女は凄い勢いで俺から顔を逸らすとそそくさとその場を去ろうとする。もちろん俺は逃すつもりもない。
「あの夏の鎌倉の海岸で、2人裸で語り合った仲じゃないですか。僕たちはもう大人になってしまったけれど、星空はこんなにも美しいままだ」
彼女の手を掴みそう耳元で囁く。ほのかに香水の香り。
「やめてください! 助けて! 誰か助けて!!」
体を捩り、全身全霊で俺の手を振り払おうとしてくる。
「考えて見てください。この3次空間における俺たちの役割を。ただの恋人だった俺たちを引き裂いたあの憎らしい空想4次の年寄りなんかの思い通りにさせていいのでしょうか? 愛し合いましょうあの頃のように。ここは鎌倉。白亜のビーチに2人星空だけが知っているあの日の秘め事の続きを」
力一杯彼女を引き寄せそのまま唇を奪う。声にならない声を上げながら彼女が俺の胸を激しく拳で突いたが俺はますます彼女を抱く腕に力を込める。固く閉じられた薄い唇を強引に舌でこじ開け、彼女の口腔内を蹂躙する。柔らかい粘膜の触れ合う感触。
「!!!!」
彼女に思い切り舌を噛まれてしまった。
「助けて!! 助けてください!!」
俺を突き飛ばし、彼女は俺から距離を取る。俺の性器はこれまでに無いほどガチガチに勃起していた。
そういえばあの日もこうだった。あの夏の暑い美術室。俺の罪を暴いた彼女ーー。
封じ込めた遠い記憶。チカチカと場面が切り替わり、襲ってきた恐ろしい程の射精の欲求に俺は抗うことができずそのまま激しく射精した。
迸った俺の性液をいくらか顔で受け止めた彼女はいよいよ怪鳥じみた絶叫をあげた。
暗闇を走るボンネビルT120の叫び声にも似たそれを聞きながら、俺は静かに世界が崩壊していくのを認識した。