母からの手紙
拝啓。ケツの穴の周りのシワが寒風にピクピク痙攣しやすい季節になって参りました。庭に咲いた小学生のたわわな頭部にも随分中年男が群がってくるので、対処に追われる毎日です。
さて、先日お会いした際にもお伝えした通り、現在私は妊娠をしております。恐らくではありますが4ヶ月前の7月7日の夜、兄に激しく犯された時に出来た子なのですが、忌み子のたいていがそうであるように、この子も十月十日を過ぎても私のお腹の中で熟成を続けることでしょう。
あなたは覚えているでしょうか? 10年前のあの美術室での出来事を。あの時私はまだ16で、あなたは17でしたね。
お互いの肉体を貪り合う事を妄想していながら、私たちは結局一度も口をきくことさえありませんでした。私があなたの事を思って毎夜自慰に耽っていた事をあなたは知らなかったでしょう? 私はあなたが放課後の教室で私の机に射精していた事を知っていました。何も知らない私が毎朝その机に突っ伏して眠る姿を見ながらあなたは心の中でほくそ笑んでいましたね。今あなたはどうしてそれを、とあなたは思った事でしょう。私にはそう言うことが手に取るようにわかるのです。
話を戻します。私とあなたが触れ合った最初で最後の瞬間。あの夏の暑い美術室でのおぞましくも艶かしい出来事をこうやって手紙に書くことで、私たちの罪が許されるとは思っていません。それどころかあなたは不快な気持ちになるかもしれない。でも書かなければならないのです。
あなたは私を犯しました。
もちろん、それは肉体的な行為ではありません。私たちは一度だって触れ合っていないのですから。しかしあなたは私を、それは濃密に、細部まで余すことなく犯しました。絵筆で毛穴という毛穴を優しく撫でるように、肛門から膣のヒダの隅々まで。
こう書くとまるで私たちは愛し合う恋人同士のようですが、実際には私たちは全くの他人同士で、結局のところそれは誰かに決められた許嫁のように無責任なものでした。
もうお分かりでしょう。この子はあなたの子です。あの夏の美術室であなたが私の中に放った性液が、10年の時を経て今命の形をなしたのです。
こんな事を書くとあなたは笑うでしょうか? 私はあなたを愛していません。心の底から憎んでいる。この子の名前は地獄と付ける予定です。犬吠埼地獄。悪くない名前だと思いませんか?
あなたは今激しく勃起しているでしょう。嘘を吐いてもダメです。私にはそういうことがわかると言ったでしょう。
今兄が部屋に入ってきました。私の腰を掴んで引き寄せようとしています。今私は机に突っ伏すような形でこれを書いています。兄の方に無様に尻を突き出すようにして、です。
あ、窓から誰かが覗いている様です。そろそろ事象改変が起こり、私は私を失って恐らくあなたを殺すでしょう。何度か夢で見たパターンなので間違えることはありません。今あなたの家の前に私はいるのです。
もう少ししたら、地獄があなたを訪ねるはずです。
しらを切ったりせずに、自分が父親である事を地獄に教えてやってください。もう空が半分ほどになってきました。私の紅茶で作ったホームベースは随分と踏みやすく、あなたは易々と乗り越えていく事でしょう。でもそれを咎めるつもりはありません。五千円で地獄はあなたにフェラチオをするはずです。実の父なんだから、それくらいの事は許してあげてください。最初で最後のわがままです。
最後に、あなたの奥様の事です。
先日お渡ししたあの箱はもう開けてくださいましたか? 開けていないのであれば今すぐ開ける事をお勧めします。
……開けてみましたか? ささやかですがあなたにプレゼントです。
お分かりかと思いますが、それはあなたの奥様の両乳首を切り落とし、レジンで固めたハンドメイドのアクセサリーです。瞋が溜まっているでしょうが、どうか肌身離さず身につけてください。
死が2人を分つまで。かしこ。