第8話 サキュバス星人と
宇宙人とこんなに自然に接することが出来るなんて高校に入るまで思いもしなかった工藤珠希であった。
世間では特に話題になっている様子も無いのでサキュバス星の神聖サキュバス帝国からやってきたこの宇宙人たちは見つかっていないのだろう。こんなに堂々と公園に住んでいるのに誰も気にしないのも変な話だと思うのだが、その点は彼らの使っている装置の影響によるところらしい。
「じゃあ、その装置があればどの星に行っても原住民に溶け込めるって事なの?」
「基本的には問題なく行動出来るようになりますね。ただ、文明が進んでいない星だった場合は我々もそれに合わせる必要があるんでちょっと大変ですけどね。この星も微妙なところだったんですけど、珠希さんがいてくれたおかげで何とかコミュニケーションをとることは出来たんですよね」
「私以外の人達は気付いていなかったみたいだけど、その装置の影響だったりするの?」
「珠希さん以外の人が認識出来ないってのはおそらくなんですけど、我々が存在するという事を認識していないってのが大きいんだと思いますよ。我々はあなたたちに比べて不安定な存在なんです。ここに存在しているという事実を認識していないと見ることは出来ないんです」
「でも、私はあなたたちがここにいるなんて思いもしなかったよ。逆立ちで移動する宇宙人がいるなんて思うはずないんだけど、なんでそんな私にあなたたちの姿が見えたの?」
「それは単純に、珠希さんが隊長の事を知っているって言うのと、隊長と触れ合っていたからですね。無意識のうちに我々の存在を認識してたからだと思います」
人間だけではなくその辺に普通に存在するカラスや鹿なんかも彼らの存在を認識していないようだった。宇宙人のすぐ隣で鹿が草を食べているのだが、死かは全く逃げずに草を食べ続けている。普通の人間が近付いただけでも鹿は逃げると思うのだが、手を伸ばせば触れそうな距離にいても鹿は全く逃げ出すことも無かった。
「気になってることがあるんだけど、質問してもいいかな?」
「私に答えることが出来ることなら何なりと」
「小さい時に見たテレビで言ってたんだけど、宇宙人って調査目的で人間や動物を攫って隅々まで調査するのって本当のなのかな?」
「少なくとも、我々はそういう事はしないですね。と言いますか、調べる目的で攫う事は無いです。そんな事をしなくてもこうしてお話をすれば大体の事はわかりますからね。身長体重だけではなく各部位の厚さなんかは話さなくてもわかるもんなんですけど、人となりってやつは話してみるまでわからないですね」
「身長とか体重って、それはわかっても言わない方がいいよ。この星の人間はそういうのを気にする人がとても多いからね」
「そうなんですね。それは心に留めておきます。それにしても、この星の人は個体差が大きくて驚いてしまいますね。一人一人身長も体重も髪の長さも違うってのは興味深いです。その発見があっただけでもこの星に来てよかったなと思いますよ」
「言われてみると、あなたたちってみんな似たような体型してるね。それって、何か厳しく管理されてるって事なのかな?」
「管理と言えばそうなのかもしれないですけど、我々のような一般兵は生まれた時から矯正されているからですね。隊長家族は特別な家系なので矯正はされていないのですが、一般兵は大体同じ能力になるようになってます。誰かが突出すると作戦に支障をきたすことも多いですし、誰かが死んでも替えがきくので作戦を立てる時には効率的だと思いますね」
同じものを同じ量だけ食べていれば似たような体重にはなると思うのだが、それにしてもここ迄個体差が無いというのは不思議な話だと思う。
生まれた時から矯正されて暮らしているというのがどれほど苛酷なものなのか工藤珠希には想像も出来ないが、楽しそうにしている彼らからはそこまで苛酷な状況だったとは感じることは出来なかった。
「クリームパイちゃんとクリーキー君が特別って事なんだけど、何が特別なのかな?」
「私もそこまで詳しいことは知らないのですが、隊長とクリーキーは強いのは当然として、何かあった時には先頭に立って行動する役目をおっているんです。前回イザーさんが助けてくれた時もなんですが、本来であれば隊長がその身を犠牲にしてでもサキュバス星を守るというのが決まりだったんです。クリーキーは死んでも生き返るのでその役目をおってもらうのに相応しいと思われたのですけれど、戦いに関して才能がほとんどなく何をしても無駄に終わってしまう可能性が高いのと、少々頭が悪いので敵の反感を買いやすいというので前線からは外されてしまいました。隊長はその点は大丈夫で、戦闘能力も歴戦の戦士たちと比べても見劣りすることもなくむしろ最強と言っていいほどのものであり、その頭脳も比類なきもので我々を勝利に導く存在だと言えるでしょう」
「クリームパイちゃんがそんなに凄い人だったとは気付かなかったけど、クリーキー君がそう思われるってのは納得だわ。申し訳ないんだけど、ボクたちもそんな風に感じてしまったからね」
「あの二人が来てまだそれほど時間も経っていないと思うんですが、すでにそう思われているという事は恥ずべき事ですね。申し訳ないです」
なぜか、お互いに謝りあうというとても不思議な行動をしていたのだが、サキュバス星人も地球人と同じような行動をするものだなと思ってしまった工藤珠希であった。