第73話 そんなに見つめて、どうしたの?
制服に着替えた工藤珠希ではあったが、寝る前に征服に着替えるという事も恥ずかしく感じてきてなかなか工藤太郎の部屋に戻ることが出来なかった。
部屋着でくつろいでいる工藤太郎としっかりと制服を着ている工藤珠希。
何となくいけないことをしているように思えて、工藤珠希はいつものように工藤太郎の部屋に入っていくことが出来ずにいた。
「なんか、緊張していたかも。別に恥ずかしい事じゃないんだけど、何となく気まずいな」
工藤太郎の部屋からは物音ひとつ聞こえない事がより工藤珠希の緊張を高めている。いつもであれば何も考えずに入っていくことが出来ていたはずなのに、夜遅い時間に制服を着ているという事と中にブルマを穿いているという事もあっていつもとは違う気持ちになっていたのかもしれない。
誰も気にしていないだろうと思いつつも、自分が一番気にしているという事に工藤珠希は気付いていなかったのだ。
意を決して扉を開けて中に入っていくと、工藤太郎は何事も無かったかのように漫画を読んでいた。
この光景は良く見ていたのでおかしいことは何一つとしてないのだけれど、ここに来るまでの緊張感があった工藤珠希は普通に過ごしている工藤太郎を見て腹が立っていた。
工藤太郎は何も悪い事はしていないのだけれど、あんなに恥ずかしい思いをしていた自分と違って平然として過ごしている工藤太郎に対して、どうしても許せないという気持ちになってしまっていたのであった。
「ちょっと、なんで漫画なんで読んでるのよ。ボクの事気にしてなかったって事?」
「気にはなってたけどさ、あまりにも遅いからどうしようかなって思って漫画を読んじゃってたんだよ。そんなに時間もかからないだろうって思ってたから待ってようって思ってたんだけど、さすがに三十分も待ったらもういいかなって思ってね。もしかしたら、珠希ちゃんが疲れて寝ちゃってるんじゃないかとも思ってたし」
「そう思ったならボクの部屋に来ればよかったじゃない」
「え、でもさ、珠希ちゃんは部屋に絶対入るなって言ってたでしょ。そんな事言われてたら部屋に入ることなんて出来ないよ」
「それは太郎に言った事じゃなくて、お父さんとお母さんに対していったことなの。田泓は別にボクの部屋に遊びに来てくれてもいいんだから」
「そうだったのか。それだったらもっと早くに様子を見に行けばよかったね。でも、そうだとしても部屋に行くのはちょっと勇気がいるかも」
「なんでよ?」
「だって、珠希ちゃんって、着替えをするために部屋に戻ったんでしょ?」
「そうだけど。それがどうしたって言うのよ」
「いや、女の子の着替えを覗くとか良くないでしょ」
「まあ、それはそうね。でも、ボクが着替えてるところなんて今まで何度も見てるでしょ。今更、気にするようなことでもないと思うんだけど」
「それを珠希ちゃんが言うのはどうなのかな。今零楼館高校ではみんな珠希ちゃんがどんなおパンツを穿いているのか気にしているっていうのにね。その言葉をうまなちゃんとイザーちゃんが聞いたらどう思うんだろう」
「なんでみんなはボクの穿いているおパンツなんかに興味あるんだろう。ごく普通のどこにでもあるようなおパンツなのに」
「良くわからないけど、何を穿いているのかじゃなくて、誰が穿いているのかが重要なんじゃないかな。みんな珠希ちゃんのことが好きなんだと思うし」
自分で言っていて恥ずかしくなることが多い工藤珠希だったのだけれど、いつもと変わらず平然としている工藤太郎を見て先ほどと同じようにイライラとしてしまった。
他の人達と同じように自分の事を好きでいて欲しいと思ってはいるものの、それを直接口に出すことが出来ないという事がイライラの原因になっているのかもしれない。そう思ってはいたものの、着替えてきたことに対して何も言ってこない工藤太郎の事が更に腹立たしく思えてしまった。
「あのさ、ボクはわざわざ着替えてきたんだけど、何か言うことないかな?」
「そうだね。珠希ちゃんはいつもと同じ制服に着替えてきたんだね。でも、いつも見ているよりも可愛いね」
「は、そういう事言って欲しいんじゃないんだけど。本当にバカなんだから」
工藤珠希は口では悪態をついているのだが、心の奥底では喜んでいるのだ。
それを悟られないように顔を伏せていたのにもかかわらず、工藤太郎は下からのぞき込むように顔を見てきた。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。おパンツ姿を見せている方が恥ずかしいと思うし、今はブルマを穿いているんだから問題無いでしょ」
「だから、そうじゃないって。もう、太郎は絶対にわかってて言ってるよね。おパンツよりもブルマの方が恥ずかしいってこともあるでしょ。普段は穿き慣れていないモノを見られるのって、すごく恥ずかしかったりするんだよ」
「それは何となくわかるけど、そんなに気にするようなことでもないでしょ。それで、穿いてみたらどんな感じになったの?」
「なんか、いつもと違ってムズムズしているというか、ゴワゴワしているというか、穿き慣れない感じが落ち着かないかも」
普段では絶対にしないことなのだが、工藤珠希は自らスカートをたくし上げていた。
その行動に工藤太郎は一瞬驚きを隠せなかったのだが、すぐに冷静になって工藤珠希の穿いているブルマを観察していた。
必要以上に見られているような気がして工藤珠希は少しずつ恥ずかしくなっていったのだが、それでも工藤太郎はじっと観察を続けていた。
「で?」
「黄色いブルマって初めて見たんだけど、気を付けた方がいいかもしれないよ」
「気を付けた方がいいって、いったい何に対して?」
「言いにくいんだけど、お尻の方から少しおパンツがはみ出しているんだよ。それだとブルマを穿いている意味が無いんじゃないかな?」
「バカ、最低。変態、死ね」
工藤珠希は右手でブルマを直しつつ左手で工藤太郎の頭を何度も叩いていた。
騒がしい二人の様子を見に来た両親がそっと扉を閉めていったのだけれど、工藤珠希はその事に気付くことはなかった。
申し訳なさそうな顔をしている工藤太郎だったが、いったい何に対して申し訳ないという思いになっていたのかはわからなかった。




