第7話 新しい疑問だけど気にしない方がいいだろう
工藤太郎が戻ってくるのがもう少し先になっていたので工藤珠希が一人で家まで帰るのが当たり前になってきた今日この頃、いつものように公園に差し掛かるとキャンプをしている宇宙人と目が合ってしまった。宇宙人と言ってもクリームパイの部下の人達で、今はすることも無いので一般人に見つからないように存在感を消しているのだ。
そんな彼らの魔法にも似た技術は何故か工藤珠希には効果が無く、それを知った彼らの多くは工藤珠希に向かって毎回元気に手を振ってくる。楽しそうに手を振ってくる彼らを無視するのもそろそろ心苦しくなってきた頃であったし、教室での鈴木愛華の一件を見た後では誰かに優しくしておいた方がいいのではないかと言う気持ちにもなっていたので、工藤珠希は珍しく公園へと足を踏み入れていたのであった。
「聞きましたよ、隊長の弟のクリーキーがまた死んだんでしょ。あいつって強いのか弱いのか全然わからないんですよね。ほら、あいつの能力が死んでも生き返るってやつだし、そのせいで自分よりも格上の相手に平気で挑んだりしてますからね。そんなのをこっちの言葉で無鉄砲って言うんですよね?」
「確かに無鉄砲だね。でも、なんでそんな言葉を知ってるの?」
「この星の事を色々と教えてくれる人に出会ったんですよ。普通の人は自分たちの姿を見ることが出来ないのに、自分たちの事をちゃんと見ることが出来る人がいるんです。今は家に帰ってるみたいなんでここにはいないですけど、今度会った時に紹介しますね。お姉さんとはちょっと見た目が違うけど、すごくいい人なのは変わらないですから」
「あなたたちがこの世界に適応していくのは良いことだと思うんだけど、あんまり変なことばっかり覚えちゃダメよ。一つ聞きたいんだけど、あなたたちって普段一体何を食べてるの?」
「皆さんとあまり変わらないと思いますよ。ただ、ここまでの期間こちらに滞在するとは思っていなかったので食料は限られているので少しずつでも節約していこうかとは思っているんです」
「大変そうだね。それだったら、ボクがクリームパイちゃんに何が良いか聞いてうまなちゃんに差し入れしてもらえるようにお願いしてみるよ。あなたたちなら大丈夫だと思うけど、お腹が空いて一般の人に迷惑をかけるようなことになっても困るもんね」
「いくら訓練しているとはいえ、空腹と睡眠不足は感情を乱す原因になりかねないですからね。そうでなくても、隊長とクリーキーの生体エネルギーが消失したり復活したりと忙しいので流れを追っているだけでも疲れちゃうんですけどね。あれほど強い隊長でも新しい世界に来ると安定して力を維持するのも大変なんだなと思い、それは我々も気を引き締めるきっかけとなりますからね」
隊長と言うのは神聖サキュバス帝国独立侵攻部隊隊長のクリームパイの事であるのだが、生体エネルギーが消失しているというのはどういうことなのだろう。
クリーキーが殺されている姿は確認しているのだが、クリームパイの生体エネルギーが消失するような場面は見た記憶がない。工藤珠希の知らないところでクリームパイが死んでいたとは思えないのだけれど、彼らがそんな嘘をつく理由も無いと思いどういう意味なのか確認することにした。
「クリーキーが死ぬのはいつもの事なので驚くことでもないんですが、隊長の生体エネルギーが消失したのは我々が知っている範囲でも初めてのことなんですよ。どんなに強い相手でも生き延びていた隊長の生体エネルギーが消失した事にみんな驚きを隠せなかったのですが、消失したと思った生体エネルギーがほんの数分後には戻っていたんですよね。我々の使える蘇生法は準備に時間もかかるので最低でも一時間は復活出来ないのですけど、こちらの技術はほんの数分で復活させることが出来るんですね。実際にどんなことが行われているのかこの目で確認して見たないって思ってますもん」
「重ね重ね質問をして申し訳ないんだけど、あなたたちが言ってる生体エネルギーの消失って学校からここまで離れているのに正確に測定って出来るって事なの?」
「どれだけ離れていても我々と隊長の魂が結びついているので間違いは無いと思います。病気や怪我の度合いを正確に理解するのは難しいですが、命を落としたかどうかはすぐにわかります。他の星で我々の仲間が大量に虐殺された時があったんですけど、その時は魂の結びつきが強すぎたせいで部隊の中に恐怖が伝播してしまって戦えるはずのものまで委縮して動けなくなっていたんです。そんな中でも隊長は負けずに武器を振るっていたんですよ。あんなに凛々しい姿は世界中探し回ってもそうそう見つかるものではないと思いますね」
理屈はわからないけれど、彼らの魂は強く結ばれているという事なのだろう。
それが良い方向へ作用することもあれば、悪い方向へ作用することもあるという話だ。
「そんなに強く結ばれているって凄いね。君たちの世界特有のモノなんだろうね」
「私たちの世界特有ではないと思いますが、今まっで訪れた場所で我々のように魂で結ばれている部隊と言うのは見たことが無かったかもしれないです」
「それともう一つ聞きたいんだけど、クリームパイちゃんの生体エネルギーが消失したって言ってたけど、ボクはクリームパイちゃんが死んだところを見たことが無いしそんな話も聞いたことが無いんだよね。それって、どういう事なんだろう?」
「どういう事と言われましても、我々はただ感じているだけですからね。あ、今も隊長の生体エネルギーが消失しましたよ」
放課後のこの時間に命を奪うようなことが行われているのかわからないが、工藤珠希はそれを確認しに行くよりも家に帰ってゆっくりしたいと思ってしまった。
関わってしまったとしても普通の人間である工藤珠希には何も出来ることが無い。そう思っているのであった。