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百合系サキュバスのお話  作者: 釧路太郎
おパンツ戦争

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第64話 会いたい気持ちと

 工藤太郎がみんなから注目されているのは嬉しい事ではあるのだが、今までのように一緒にいることが出来ないのではないかと思ってしまった。

 工藤珠希はドクターポンピーノの手を払ってこの場から立ち去ろうとしたのだけれど、ドクターポンピーノの力が予想以上に強くて離れることが出来なかった。


「もっと自分に自信を持っていいと思うよ。太郎ちゃんにとって珠希ちゃんは特別な存在なんだからさ。君だってそう思ってるんだろ?」

「別にそんな事無いですよ。太郎は一緒に暮らしてるってだけですし」

「君がそう言うんだったらそうなんだろうね」


 工藤珠希は虚勢を張っているのだと誰にもわかる事ではあったが、ドクターポンピーノはあえて何も言わずにいた。

 二人の視線の先には工藤太郎がいるのだが、彼は二人の事には気付いておらず栗宮院うまなと何かを話しているようだ。

 今なら伝えたいことを伝えられる。そんな予感を胸に抱きつつも、工藤珠希はこの場を去ることにしたのだ。


「本当に帰っちゃっていいのかな。これから久しぶりに会えるっていうのに、この機会をみすみす逃すって言うのかい?」

「教室で待ってれば会えるんで大丈夫です。今すぐに言わなきゃいけないことも無いですし」

「君がそれで良いって言うんだったらそうするのが一番なんだろうけど、私には今太郎ちゃんに会いに行くのが一番いいと思うんだけどな。珠希ちゃんが太郎ちゃんに会いたいって言ってくれたら、ここにいるみんなもそれを優先してくれると思うよ。ねえ、君たちは珠希ちゃんのために道をあけてくれるだろ?」


 二人の会話を何となく聞いていたサキュバスとレジスタンスの人達が工藤珠希に微笑みかけると同時にスッと間をあけて道を作ってくれた。

 まだ何も言っていないのにどうしようと考えていた工藤珠希ではあった。このままではとても教室に向かうことが出来ないという感じの空気も出来ていた。


「みんな太郎ちゃんの声を聞きたいし顔を見たいって思ってるんだけど、珠希ちゃんが太郎ちゃんに会いたいって言うんだったらソレを優先してくれるって事なんだよ。このまま太郎ちゃんの所まで行ってくれてかまわないさ」

「でも、ボクはいつでも太郎に会えるし、みんなが会いに行った方が太郎も喜ぶんじゃないかな」

「そんな弱気でどうするんだい。みんな協力してくれているんだよ。珠希ちゃんが今すぐ太郎ちゃんに会いたいって言ってくれればみんなだって満足してくれるんだ。だって、みんな珠希ちゃんが幸せになってくれるのを望んでいるんだからね」

「何で、そんなにボクの事を考えてくれているの?」

「みんな、珠希ちゃんのことが好きだからだよ」


 とても断りにくい雰囲気になってはいたが、工藤珠希は今すぐに工藤太郎に会いに行けないと思っていた。

 色々と言いたいことはあったのだけれど、今このタイミングで何を話せばいいのかわからない。

 言いたいことは山ほどあるのにもかかわらず、何から伝えればいいのかさっぱりわからない。


 それなのに、ここにいるみんなは自分の背中を押してくれる。

 ありがたいという気持ちと、それに答えられないという申し訳ない思いが重なり、工藤珠希はその一歩を踏み出すことが出来ないでいたのだ。


「太郎ちゃんもきっと珠希ちゃんに早く会いたいって思ってるんじゃないかな。あのまま太郎ちゃんが死んでくれていたとしたら、もっと簡単に会えたのかもしれないけど」

「太郎は死んだりしないです。ポンピーノ先生のお世話になるようなことにはならないと思います」

「そうかもしれないけれど、さっきまで太郎ちゃんは死にそうになってたんだけどね。あの状態から復活するとは誰も思っていなかったんじゃないかな。それだからこそ、今のように多くの人が集まり、太郎ちゃんの復活を祝福しているという事なんじゃないかな」


「でも、太郎は簡単に死んだりなんてしないです。どんな時でも太郎は死んだりなんてしなかったし。遠い宇宙に行っても生きて帰ってきたんですよ」

「珠希ちゃんの言いたいことはわかるよ。でもね、この学校では人の命はとても軽いんだよ。サキュバスの命はそれ以上に軽いものなんだ。なぜなら、この学校では他と違って生き返ることが出来るからね。ここでは死ぬことは恐ろしい事ではないんだよ」

「それはわかってます。正直に言うと、今でも人が死ぬところは見たくないんです。明日になれば生き返っているってわかってはいるけれど、ボクはそれでも死ぬことが怖いなって思ってるんです。学校以外で死にそうになった時もあったし、怖い思いもたくさんしてきました。それでも、ボクは太郎だけは死なないって思ってるんです。太郎が死んだら全て終わってしまうんじゃないか。そんな事を思ってるんです」


「珠希ちゃんにとってソレだけ太郎ちゃんが特別な存在だってことだね。それはわかったけれど、そこまで特別な存在だとしたら、今すぐに会いに行っても問題無いんじゃないかな?」

「でも、今すぐに会いに行っても、何て言ったらいいのかわからなくて」

「そんな事は気にしなくても大丈夫だよ。自然と言葉なんて出てくるものさ」


 いつの間にか工藤太郎まで続く道が開けていた。

 

 その道の先で、自分の事を見ている工藤太郎と目が合った。


 工藤珠希は思わず後ずさりしてしまったが、工藤太郎が笑顔を浮かべて走ってきたのを見ると、そのまま立ち止まっていた。

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