第6話 サキュバスとレジスタンスの懸け橋
何事も無かったかのように午後のホームルームが開始されたのだが、教室の一部は規制線が張られて立ち入ることが出来なかった。
「クリームパイちゃんの要望もあってクリーキー君はそのままの状態で一晩様子を見ることになりました。先生としてはポンピーノちゃんの所でしっかりと蘇生させてあげてほしいと思ってるんですが、クリームパイちゃんがそのままでいいと強く希望されたという事で今回はそのまま様子を見ることになりました。職員会議でも少しだけその点で話し合いをしたのですが、神聖サキュバス帝国カムショット皇帝もクリーキー君はそのままで大丈夫だという太鼓判を頂いたこともあってそういう結論に至りました。もちろん、クリーキー君が何事も無かったかのように蘇生することが出来れば次回以降もクリームパイちゃんの要望通りになると思うので皆さんもご理解ください。さて、ここからが本題なのですが、皆さんもご存知だとは思いますが、本日もうまなちゃんがお亡くなりになってしまいました。当然、うまなちゃんはポンピーノちゃんの手で修復されてから蘇ることにはなるのですが、最近のうまなちゃんを見ていると一つ気になる点があるのでそこを修正してもらうことになりました。何が気になる点かわかる人いはいますか?」
クリーキーに関する話題では黙って聞いていた生徒たちも栗宮院うまなの話になると少しざわついていた。
蘇生する際には可能な限り生前の状態に近付けるようにするというのが鉄則なのだが、今回に限っては修復作業が行われないクリーキーと修正が入ってしまう栗宮院うまなと言う二つの例外が存在することになってしまうのだ。
完璧に修復を行って元の状態に戻すことが出来るドクターポンピーノの技術であれば修正することも可能なのかもしれない。どこを変える必要があるのか誰もが気付いているのだが、それを口に出すことが正しいことなのか判断が出来ずに誰一人として片岡瑠璃先生の質問に答えることが出来なかった。
「なかなか言い出しづらいことですよね。先生も皆さんの立場でしたら同じように黙ってしまうと思います。ですが、勇気をもって答えてもらう必要があると思うんです。誰か、勇気を出して答えてくれる方はいませんか?」
そこまで付き合いの長いわけでもない工藤珠希にもわかることが他の生徒たちにわからないはずがない。イザーは当然わかっていて笑いをかみ殺しているのだが、他の生徒たちも誰一人として答えようとはしないのだ。
そんな中、真っすぐに手を挙げたのは新世代のレジスタンスを束ねている鈴木愛華であった。
新世代のレジスタンスは従来のレジスタンスと異なり争うだけではなく時には対話をして協調出来るところはないかと模索しているのだ。
当然、レジスタンスからの反発も起こっているしサキュバスサイドからも否定的な意見も生まれている。圧倒的な強さを誇るイザーとの協力関係は誰もが認めるところなのだが、それ以外のサキュバスとレジスタンスが協調するという事は許されざる行為だと思われているのである。
レジスタンスでありながらサキュバスとの親交もあり協調関係にもある鈴木愛華が皆を代表して答えるという事に、何かとてつもなく大きな意味があるのだと生徒だけではなく片岡瑠璃先生も理解するのであった。
「はい、愛華ちゃんはうまなちゃんのどんなところを修正するべきだと思うのですか?」
全員が息をのんで鈴木愛華の発言を待っていた。
そんなみんなの様子をうかがっているのか、鈴木愛華は少しだけ間を開けてからゆっくりと口を開いたのだ。
「みんなも気になっていたことだと思うので言います。一つだけ確認しておきたいことがあるんだけど、これから私が言うことは私だけが気付いていたのではなく、みんなも気付いていたという認識でいいんだよね?」
まだ何も言っていない段階ではあるのだが、各々が鈴木愛華の言葉に対する返答をおこなっていた。ある者は小さく何度も頷いていたし、ある者は真っすぐに鈴木愛華の事を見ていた。他にもそれぞれの方法で鈴木愛華に対して答えを送っているのであった。
「良かった。私だけが気付いていたんじゃないって事で言わせてもらいます。もしも、私の言ってることが間違っているとかそういうのじゃないってのがあったら教えてください。もしかしたら、私が気付いていないことがあるかもしれないので、遠慮なく言ってちょうだいね」
全員の視線は鈴木愛華に集中している。
誰も彼女に対して異を唱える事は無いだろう。
「うまなちゃんはさ、自分の胸が小さくなった生き返る前より小さくなったって言ってるけど、そんな事はないってみんなわかってたよね。前から見ても後ろから見ても横から見てもどっちが胸でどっちが背中かわからないくらい凹凸が無かったのをみんな知ってるもんね。でも、うまなちゃんは自分が死んで生き返ったことがわかった途端、胸が小さくなった前は胸がもっと大きかったって言ってるんだよ。そんなわけないってみんな言いたかったと思うけど、何だかそんな事を言い出せる感じじゃなかったから黙ってただけなのにさ、それをみんなが同意してくれたって思ってるみたいなんだよ。そんなわけないのにね。前に撮った写真を見せて説明した時もあったんだけど、写真は平面だから平たく写ってしまうって言ってたんだよ。でも、その写真に一緒に写ってる他のみんなはちゃんと胸があるのがわかってるの。それなのに、その現実から目を背けたうまなちゃんは頑として認めようとしなかったね。だから、そんなうまなちゃんにちゃんと現実と向き合ってもらえるようにみんなからもそれを伝えてあげようよ。それが本当の優しさだと私は思うんだよ」
そこまで言うのは言い過ぎなのではないかと思っている生徒と、鈴木愛華のあまりの熱量に少し引き気味な生徒がいたのだが、レジスタンス仲間である栗鳥院柘榴が鈴木愛華に近付いてゆっくりと抱きしめてから頭をなでていた。
「そこまで考えていたんだね。でも、憎しみを籠めるのは良くないよ。愛華の理想はサキュバスとの共生だろ。そんな風に思ってると、その未来に向かうことは出来ないんじゃないかな。大丈夫、普通の人間である愛華はちゃんと成長するから。今は小さくても、ちゃんと成長するよ」
みんながそっと視線を外したのは優しさなのだろうか。
それとも……。