第56話 自信のある男
漆黒の騎士であり蒼炎の魔術師でもある我は黄金の流星と呼ばれ真紅の餓狼と畏怖されていた孤高の天才と自称するクリーキーは手をパンと叩くと誰も入れない結界を作り出した。
失敗すると工藤太郎の存在が消えてしまう。そんな事を聞かされた者たちが黙っているはずもなく、その結界を破ろうと各々が攻撃をしているのに何事も無かったかのように結界は微動だにしなかった。
イザーの攻撃も全て受け切ったうえで結界は変化することも無かった。どんな事をすればこの結界が解かれるのかはクリームパイもわからないのだけれど、結界の中から不敵な笑みを浮かべてクリーキーが見ているという事実に全員が腹を立ててはいたのであった。
「愚民どもよ。我の邪魔をするでない。我が今よりこの者を救ってみせよう。漆黒の騎士であり蒼炎の魔術師でもある我は黄金の流星と呼ばれ真紅の餓狼と畏怖されていた孤高の天才だが、一部では暗黒街の闇医者としても名が通っているのでな。我の技術で成功する確率は一割にも満たないであろうが、この者の体力次第では十割に近付ける事も出来る。という事だけは伝えておこう」
あれだけ自信を見せていたクリーキーが自分で成功率を一割にも満たないという事に憤りを感じてしまうのは無理もないだろう。
クリーキーを信じた栗宮院うまなは過去に戻れるのであれば、あの時決断した自分を殺しに戻りたいと心の底から願っていたのだが、当然そのような願いは叶う事もなかった。
自分の弟がとんでもないことをやってしまったという事実に目を逸らすことの出来ないクリームパイではあった。彼女はどうにかして成功するように祈っているのだが、その祈りはどこに向ければいいのかという疑問が彼女の中で大きく膨らんでしまっていた。
これから行われることがいったいどういう事になるのか観察をしているペタコン博士も、工藤太郎がこのまま消えてしまうのではないかという疑念があり、クリーキーを止めるための手段がもう無いのかと思案はしていた。だが、その答えは見つかりそうもなかった。
廊下の窓越しに見守っている野城君はそんなみんなの様子を見てため息を一つついていた。
「ちょっと、お遊びは本当にそれ暮らしにしなさいよ。野城君が言ってたけど、失敗したら大変なことになるってあんたもわかってるんでしょ。大体、暗黒街の闇医者って何よ。医者をやるんだったら正々堂々真正面から正規の医者になりなさいよ。あんたは医療系の勉強もしてたのに途中でやめちゃったでしょ。今から過去に戻ってちゃんと勉強しなおしてきなさいよ」
「心配するな。我はこの者を救い皆のもとへ送り届ける。誰一人として後悔しない結末を迎えるであろう」
「太郎ちゃんのことを忘れた事にも気付かない未来なんていらないよ」
クリーキーが再び手をパンと叩くと結界の色が変わり薄い水色になっていた。
それに何の意味があるのかわからないが、クリーキーは満足そうな顔で三度ほど頷くとゆっくり工藤太郎に近付いていった。
工藤太郎は変わらずに両手で自分の喉を押さえつつ真上を向いていた。
シャツが真っ赤に染まるほどの血が滴り落ちているのだが、いつの間にか両手には輸血用のチューブが装着され物凄い量の血液が工藤太郎の体に送り込まれていた。
もしかしたら本当にどうにかなるんじゃないかと思ったのだが、先ほどとは違って自身のなさそうに工藤太郎の事を見ているクリーキーの姿は見ている者を失望させるには十分すぎるモノであった。
それでも、クリーキーは諦めずに工藤太郎の事をじっくりと観察してどうにかしようとはしていた。
「ねえ、あの人って本当に大丈夫なの?」
「わかんない。でも、あいつが医療系の勉強をしていたのは事実だから。それがどれくらいのレベルのなのかはわからないけど」
「それって、応急処置とかその程度ではないよね?」
「多分そうだとは思うよ。他のと一緒ではあったけど、一年くらいは真面目に勉強してたからね」
「一年程度か。それは、ちょっと期待出来ないかもしれないね」
あの結界を見てもしかしたらと思っていた人もいたのだが、クリームパイの話を聞いた者たちはより深い絶望へと落とされたようなものであった。
たった一年の勉強で瀕死の工藤太郎を救うことが出来るとは思えない。誰もがそう感じてはいたのだが、栗宮院うまなだけは最後まで信じようとしていた。
いや、信じることでしか自分の今の精神を保つことが出来なかったというのが正しいのかもしれない。
奇跡を願うのは皆同じではあったが、その中でも一番強く奇跡を願っていたのは栗宮院うまなだというのは間違いないのだ。
「信じてくれるものがいるというのは良いことだ。この者の力も相まって、成功確率は二割まで上がってきたぞ。これから起こるこの奇跡、見逃さぬように刮目せよ」
成功確率がたったの二割しかないという事を聞いてしまった栗宮院うまなは膝から崩れ落ちてしまった。
だが、あれほど自信満々で声高らかに宣言していたクリーキーを見てしまっては信じようと思う気持ちも否定は出来ない。
口にこそ出さなかったが、クリーキーの自信に賭けても良いのではないかと思っていたものも少なくはなかったのだ。
ただ、成功確率が二割というのはあまりにも低すぎる。
せめて、五割以上はあって欲しいと誰もが思っていたのであった。




