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百合系サキュバスのお話  作者: 釧路太郎
おパンツ戦争

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第42話 宇宙船から登場

 落下してきた物体が弾けたかのように勢いよく跳ね上がると、そのまま工藤珠希の方へと近付いてきた。

 近くにいものたちが工藤珠希を守ろうと走って入るのだが、距離的にも移動速度的にも間に合う事は無く手を伸ばすのが精一杯であった。


 まばゆい光が当たりを包み込むと同時に優しい風が全身を撫でるように通り抜けていた。

 閉じていた目をゆっくり開くと、工藤珠希の目の前に見覚えのある女性が心配そうな顔で顔を覗き込んでいた。


「こうして直接会うのは初めましてだね。太郎ちゃんから色々と話は聞いてるんで会うのが初めてって気はしないんだけど、太郎ちゃんの言ってた通り芯のしっかりした強い子なんだってわかるよ」


 工藤太郎と通話をしていた時に聞こえてきた声。

 時々ビデオ通話に映り込んでいた下着姿の女性と同じ顔。


 直接会話をしたことはほとんどないけれど、工藤太郎から簡単に聞かされていた宇宙船に同乗している天才博士。

 そんな彼女が自分の目の前に急に現れているという事に対して驚きはしたのだが、それ以上に工藤太郎が一緒じゃないという事が工藤珠希を不安にさせていた。

 一緒の宇宙船に乗っているはずの工藤太郎と一緒に降りてこずに一人だけで登場するという事の意味も分からないし、完全に下着姿としか思えない格好でおりてきたという事も理解出来なかった。


「ペタコン博士ですよね?」

「そうだよ。あたしはこの星に興味をもって太郎ちゃんと一緒にこの星にやってきたんだ。これからどうなるのかはわからないけど、楽しく過ごすことが出来たらいいなって思ってるよ」

「それは太郎から聞いてたことなんで知ってますけど、なんで太郎は一緒じゃないんですか?」


 ペタコン博士は先ほどまで乗っていた宇宙船を見上げると、少し寂しそうな顔でゆっくりと見守っている全員の顔を見ていた。

 よく観察してみると、宇宙船の一部に大きな穴が空いているのがわかるのだが、宇宙から来たという事を考えるとあの穴は地球に来てから出来たものだと言えるだろう。

 零楼館高校が対外勢力に対して迎え撃つ準備が万端に整っているとはいえ、宇宙船に穴をあけることが出来る原因はかなり限られていると思うのだが、誰がどう考えてもイザーが放り投げたあの巨大な氷の塊が原因だと言えるだろう。


「太郎ちゃんとあたしはこの地球にやってくるにあたって色々と決め事をしていたんだよ。その一つにお互いの知っている知識を交換し合うというものがあったんだけど、太郎ちゃんはあたしよりも年下だというのが信じられないくらい多くの経験を積んでいるみたいでなかなかに刺激的な時間を過ごすことが出来たよ。その多くの事にあの氷女が関係しているみたいなんだけど、お互いにソレは気付いていないみたいだね。さっき色々と調べさせてもらって分かったんだけど、太郎ちゃんと氷女には前世からの因縁みたいなものがあるみたいなんだね」

「そんな事より、太郎はどうして一緒じゃないんですか?」

「どうしてと言われると困るんだが、その理由を簡単に説明する時間を貰ってもいいかな?」


 工藤珠希を見守る周囲の空気がピンと張りつめているのを肌で感じていた。

 何か良くないことでも言われるのだろうと覚悟をしていたのだが、実際に何を聞かされるのかわからないこんな状況ではなかなか気持ちを作ることが出来ずにいるのも仕方ないだろう。

 工藤珠希だけではなく、周囲の人達も多くのサキュバス達もペタコン博士の説明を聞きたいという思いはあるのだけれど、その事を聞くことで大変なことになってしまうのではないかという恐れがあって工藤珠希を急かすことが出来ずにいたのだ。


 何度も深く深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着けようとしている工藤珠希ではあったが、深く呼吸をするたびに余計なことを考えてしまい、ペタコン博士に何があったのかという事を聞き出すことが出来ずにいたのだ。

 それでも、自分が聞かなければ何も変わらないという事は分かっていた。

 わかってはいるのだが、ハッキリとした結論を聞くことがとても怖かった。

 どんな事故に遭っても、どんな強い人と喧嘩をしても、どんなに恐ろしい敵を相手にしても無事だった工藤太郎が死ぬなんてことは考えたくなかったのだけれど、ペタコン博士の表情と仕草を見ていると最悪な状況を想像してしまうのも仕方ないことではある。


 周りを見回しても誰も工藤珠希と目を合わせようとしないのだが、工藤珠希も誰の目も見ていなかったのである。

 あと一歩を踏み出す勇気を与えてほしい工藤珠希と答えを聞く責任を共有したくない人達。どちらも自分を傷つけたくないという事なのかもしれない。


「大丈夫。太郎ちゃんの事はそんなに心配しなくても平気だよ。こうして無事に零楼館にたどり着いたんだからね」


 工藤珠希の横に立っている栗宮院うまなが手を握りながらそう力強く答えてくれた。

 工藤太郎の今の様子を聞きたいという気持ちはもちろん強いのだが、仮に何かあったとしてもこの学校であればどうにでも出来る。そう言ってもらいたかったという気持ちもあったのかもしれない。


「ペタコン博士に尋ねますけど、太郎ちゃんはどうして一緒じゃないんですか?」


 真っすぐに工藤珠希を見つめていたペタコン博士は顔を真上に向けると小さな涙をこぼしていた。


 遠くでハッキリとは見えなかった工藤珠希ではあったが、何となく状況を理解して勇気を出さなければ良かったと後悔していた。

 例え、生き返ることが出来るのだとしても、工藤太郎が死んだという現実は知りたくないという気持ちが強かったのであった。

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