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百合系サキュバスのお話  作者: 釧路太郎
おパンツ戦争
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第4話 絶望的な状況での一言

 まともなことを言い出したクリーキーとそれを認めたくない多くの生徒たち。

 だが、彼の言っていることは間違っているとも言い切ることが出来ず、本当にこのままでいいのかと言う思いが生徒の中で大きなものになりつつあった。


「みんなそれぞれ珠希ちゃんに穿いてほしいおパンツがあると思うんだけど、一番重要なのは珠希ちゃんがそれを望んでいるかどうかだと思うんだよね。俺は珠希ちゃんとの付き合いはみんなよりも短くてほとんどないようなものだから正しいことなんて言えていないのかもしれないけど、うまなちゃんもイザーちゃんも自分の意見を押し付けるだけで珠希ちゃんの気持ちをもっと考えてあげる必要があると思う」

「クリーキーはいったいどうしたんだ。お前がそんなまともなことを言うようになるなんて、何者かから精神攻撃をされていて精神が汚染されてしまっているのか?」

「周りが普通の時の俺は変な風に映っていたのかもしれないけど、周りがこんなに変な状況だったら俺だってまともになっちまうさ。クリームパイも知っていると思うけど、俺は周りに合わせるのが苦手なひねくれものだからな」

「そう言われると昔からそうだった気もするけど、どうしてこの星でもそんな感じになってるんだ?」


 クリーキーは小さく息を吸った後に自分の姉であるクリームパイを見ていた。普段であればその小さな体に閉じ込めておくことが出来ないほどの自信に満ち溢れている彼女であったが、この星に来てからはあふれ出ていた自信はかけらも感じなくなっていた。

 クリームパイもクリーキーもサキュバス星においては絶対的な強者でありサキュバス星の所属する銀河においても二人の名は知られていた。そんな二人が栗宮院うまなの姿を見て戸惑い、イザーを見て自分たちは弱者であったと思い知らされていたのだ。少しでもイザーから敵意を向けられることが滅亡を意味するという事も理解してしまっていた。

 イザーに視線を移動させようとしたクリーキーではあったが、その一瞬の間にイザーの目を見ることは自分にとって良くないことの前触れになると判断して自分の拳に視線を映していた。目には映らないが、しっとりとしてしまうくらいに手汗が出ていて拳は固く握りしめられていた。


「俺が変わったと思うのは当然だと思うけど、それを言うんだったらクリームパイの方が俺よりも変わってるんじゃないかと思う。独立侵攻部隊隊長であるあんたが今ではすっかり優しいお姉さんになっちまってるよな。以前のあんただったらうまなちゃんともイザーちゃんとも違うおパンツをすすめてたんじゃないかな?」

「バカ、何言ってるんだよ。私がそんな事を言ったりするわけないだろ。ピンクの日もパンなんて珠希ちゃんにはお似合いだと思ってるよ。それはクリーキーだって理解してるだろ?」

「似合っているか似合ってないかは重要じゃないんだよ。あんたは気付いていないかもしれない。いや、あんただけじゃなくてみんな気付いていないかもしれないんだけど、誰一人として珠希ちゃんにピンクのおパンツが“一番”似合っているって言ってないんだよ」

「いや、そこはそんなに重要じゃないだろ。何か勝ち誇ったようなドヤ顔で言ってるところ悪いけど、本当にそれは重要なことではないと思うよ。ほら、うまなちゃんは当然だけどイザーちゃんもお前の言ってることがおかしいって思って呆れ顔で見てるからな」


 このおパンツ問題の核心をついたと確信していたクリーキーは確かにドヤ顔を見せていた。小鼻を膨らませて勝ち誇ったような顔をしていたのだが、その顔は少しずつ曇っていって、最終的にはうっすらと目に涙も浮かべていた。

 自分としては何も間違っていないと思っていたのに、誰一人としてクリーキーの意見を聞いて納得している者はいなかった。


「君の言いたいことは理解出来るけど、私たちはそんな言葉尻だけを捉えて競うような関係ではないんだよ。“一番”なんてわざわざ言わなくても自分たちが一番だって理解しているし相手もわかってるんだよ。何もわかっていないのは君だけって事なんだよ」


 クリーキーはイザーに肩を軽くポンと叩かれただけではあったが、それまでじんわりと感じていた汗が一瞬で引いていったのを感じていた。

 今まで何度か軽く話をしたことはあったのだが、触れることが出来るくらい近くで話をしたのは今回が初めてであり、これが最後だと無意識のうちに思い込んでいた。

 たった一言の失敗だけで全てが終了してしまうという恐怖感と絶望感。すぐ近くにイザーがいるというだけで一つのミスも許されないと思っているのだが、それと同時に何を言っても間違いにしかならないのではないかと言う不安感も拭いきれずにいた。


「ここで一つ質問なんだが、珠希ちゃんに似合うおパンツの色は水色だよね?」


 イザーの優しく諭すような問いかけにクリーキーは首を横に振っていた。

 ここでハイと言えば全てが丸く収まるとみんなが思っていた。

 水色おパンツの敵対勢力であるはずの栗宮院うまなでさえもクリーキーがこの場面でイザーの問いかけに頷くと思っていたのだ。

 だが、全員の予想を裏切ってクリーキーは首を横に振っていた。


「それでは、珠希ちゃんにはピンクのおパンツの方が似合うという事なのかな?」


 全員が祈るような気持ちでクリーキーの返答を待っていたのだが、クリーキーが出した答えは首を横に振ることであった。


「じゃあ、水色でもピンクでもなく何色だと言うんだね?」


 少しイラ立ち気味のイザーと悟りを開いたかのように穏やかな表情のクリーキー。

 誰もがクリーキーの死を確信していたのだけれど、クリーキーの顔には死への恐怖など微塵も無いように見えていた。


「ノーパン。一番良いと思うのはノーパンです。珠希ちゃんはおパンツなんかに穿かれるようなものではないと思うし、珠希ちゃんの存在感はそのようなものではかれるとは思えない。なので、珠希ちゃんにはノーパンが一番似合うと思います」


 一瞬の静寂の後、誰もが予想していた事が現実となったのであった。

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