第38話 特別な体
体を変化させて超重力に耐えうることが出来ると言っても、自由気ままに行動することは出来ないのである。
体が重力によっておしつぶされないように負担のかからない態勢をとるペタコン博士は目を開けることも出来ずにいた。
光速をはるかに超えたスピードで地球へと向かっている宇宙船内で置物のようになっているペタコン博士とそれを不思議そうに見ている工藤太郎。
ペタコン博士が超光速移動に連続で耐えることが出来るのは約二時間ほどなのだが、一時間ほど休憩を挟めばまた耐えることが出来るようになっていた。
それを繰り返し続けることで一週間もあれば地球にたどり着くことが出来るという事が計算によって導き出されていたのであった。
「色々と聞きたいことはあるんだけど、どうしてあの加速度域で普通に活動できてるの?」
「どうしてと言われても、特に理由なんて無いよ。逆に、なんでペタコン博士はそんなに気合を入れないと耐えられないのかな?」
「気合を入れて耐えないと潰されてしまうからなんだけど、あたしと違って太郎ちゃん達人間はあの速度域でも負担を感じないって事なのかい?」
「多少は息苦しいと感じたけど、それ以外は特に問題はなかったね。ペタコン博士に脅されたから警戒してたってのもあって気合を入れてみたんだけど、そんな事をしなくても大丈夫だって割とすぐに気付いたよ」
「あたしとあまり変わらない体の大きさであの熊を圧倒することが出来たんだもんね。冷静になって考えると、あたしと太郎ちゃんで体を構成する物質が違う可能性が高いってのもあり得る話なのかな」
「見た目的にはそんなに変わらないと思うけど。もちろん、男女の違いってのはあるけどさ」
「その違いで説明は出来ないと思うよ」
その後も地球へと向けて移動をしている宇宙船であった。
地球が近付くにつれて工藤太郎のスマホに届くメッセージも増えてきたのだが、今のところは受信が出来るだけで送信は出来ずにいた。
転送ゲートもその機能を半分だけ使うことが出来るようになっていたことで起きたことで、受信だけの一方通行ではあったが地球との繋がりを感じることが出来て工藤太郎は嬉しくなっていたのだ。
「地球って宇宙にほとんど興味が無いって聞いてたんだけど、通信分野においてはアタシたちよりも進んでいるのかもね。太郎ちゃんがもってるそのスマホってやつも特別な端末だと思うんだけど、特定の階級の人だけじゃなくほとんどの人が持ってるって言ってたもんね。そんな高度な情報端末をほとんどの人が所持してるなんて恐ろしいことだよ」
「そんなに恐ろしいことではないと思うけどな。調べたいことをすぐに調べられるし、とても便利なアイテムだと思うよ」
「太郎ちゃんの話を聞いてると凄い便利だと思うけど、それに頼りっきりの生活は文明の発展にはマイナスの要因が大きいような気がするな。自分で何かを考えて発見するという体験が出来なくなりそうだよね」
「それはあるかもしれないな。でも、それ以上にメリットが大きいんだと思うよ。何でも調べられるし何でもすぐに記録できるし、スマホを使って遊ぶことだって出来るしね」
「そんな物に頼ってばかりだと駄目な人間になりそうだけどな。太郎ちゃんはそんな感じもしないし、あたしの考えすぎだったりするのかもね」
工藤太郎とペタコン博士が地球に向かっている間も栗宮院うまなとイザーの戦いは終わることなく続いていた。
栗宮院うまなの攻撃を紙一重で交わして細かい反撃を繰り出すイザーではあったが、その攻撃は普段のモノとは違いダメージを与えるようなものではなかった。
ほんの少しだけ優しく触れるだけの攻撃ではあったのだが、軽く触れられるだけでそれ以上は何もしてこないという事に対して栗宮院うまなは少しずつではあるが恐怖が蓄積されていた。
イザーは特に深い意味はなく栗宮院うまなを傷つけないようにしようという配慮でしかないのだが、攻撃を受けている側の栗宮院うまなとしてはいつでも殺せるというアピールだとしか思えなかったのであった。
それでも、栗宮院うまなの心が折れることなくイザーに対する攻撃を続けているのはサキュバスの女王になるための試練と割り切っていたからなのかもしれない。
休憩をはさんでいるとはいえ、一対一の戦いが三日も続くと見ている方は段々と飽きてくるもで、派手な展開も無くギリギリの攻防が続いているのは観客の興味を少しずつ削いでしまう事になっていたようだ。
栗宮院うまなが相手だという事でイザーも遠慮をしがちになっているのだが、イザーに手を抜かれているという事を理解している栗宮院うまなもそれがわかっているのに効果的な攻撃を与えることが出来ないというもどかしさも感じていたのである。
「そんなに逃げてばっかりなのは私の攻撃が怖いからって事なのかな?」
「そういうわけではないんだけど、私がうまなちゃんに対して本気を出すのは違うかなって思ってるんだよ。だからと言って、うまなちゃんの攻撃を受けてあげるつもりもないけどさ」
「それって、私の攻撃をくらうのが怖いって事でいいんだよね?」
「全然違うよ。うまなちゃんが私を殴ったり蹴ったりしたらさ、ご飯を食べてる時とかお風呂に入ってる時とかに気にしちゃうんじゃないかなって思ってるだけだよ。だって、うまなちゃんって優しいから」
優しい人があそこまで殺気のこもった攻撃をするものなのだろうかと思った生徒は多かったと思うのだが、栗宮院うまなはイザーの言葉に対して同意するような感じであった。
それでも、栗宮院うまながイザーに対して殺気のこもった攻撃をやめる事は無かったのである。




