第3話 水色のおパンツとピンクのおパンツ
工藤珠希が穿くべきおパンツの話題で朝から議論がなされているのだが、そんな中にとんでもない持論を主張する者が現れた。
イザーと鈴木愛華の二人だけの工藤珠希に似合うのは水色のおパンツ派。栗宮院うまなと残り全員が思う工藤珠希に似合うのはピンクのおパンツ派。その二陣営で険悪なムードになっていた教室に一石を投じたのは割と空気であることが多いクリーキーであった。
「水色のおパンツもピンクのおパンツも素晴らしいと思うけど、俺としてはそれ以上に素晴らしいと思える提案がある。うまなちゃんもイザーちゃんもお互いの意見が正しいと思っているのは理解出来るんだ。でも、それとは別に相手の意見も良いのではないかと思ってるんではないだろうか?」
いつもは頓珍漢なことを言っているクリーキーの言葉は両陣営の心に深く突き刺さるものであった。
確かに、自分たちは工藤珠希にそれが一番似合っていると思ってはいるのだが、相手の主張するおパンツも似合わないとは思っていない。むしろ、言われてみれば確かに良く似合っているのではないかと思う事もあるのだ。
自分の意見だけを押し付けるのではなく相手の意見も受け入れる。そんな懐の深さを見せたくなるような気持ちになりつつある。そんな言葉のように思えていた。
「ちょっと、いつもは変なことしか言わないあんたがそんなこと言うなんてどうしたのよ。太郎ちゃんがいなくて男一人で心細いとか言ってたのに、そんなまともなことを言い出すなんて本当にどうしちゃったの?」
「そんなに驚くことじゃないだろ。俺だってみんなが揉めてるのを見たいってわけじゃないからな。お互いの主張をぶつけ合って争うってのも成長する上で大切なことだとは思うんだけど、それ以上に相手の事を理解して良さを引き出してから自分の主張を理解してもらうってのも大切なことなんじゃないかなって思っただけだよ。俺としては、どっちの主張も正しいと思うし、お互いに理解しあって認め合うのも大事なんじゃないかって思ってるだけだからな」
「絶対おかしい。クリーキーがそんな真面目なことを言うはずがない。もしかして、こいつはクリーキーの姿をした別の生物なんじゃないか?」
「その可能性はあるかもしれないね。クリームパイちゃんはこいつが本当に私たちの知ってるクリーキーだと思う?」
「どうだろう。見た目も中身もオーラも間違いなくクリーキーだとは思うんだけど、本当にクリーキーなのかって聞かれると自信はないかも。データとしてはクリーキー本人だって間違いないはずなんだけど、こんなことを言うのが私の弟だなんて思えない」
普段の行いが原因だと言えば簡単な話なのだが、クリーキーとしてはなぜ自分が疑われているのか理解出来ていなかった。彼はいつもと同じことを考えてそれを伝えているだけに過ぎないので、どうしてそんなに自分が別人だと疑われているのか理解出来ていない。
そんな様子のクリーキーを見ていた生徒だけではなく担任の片岡瑠璃先生もクリーキーが別人のように思えて対策をとろうと作戦を練っている段階に入っていた。
「あんたの言っていることは正しいと思うし、私もうまなちゃんも水色のおパンツも珠希ちゃんには似合うんじゃないかって思ってはいるよ。でも、なんでか知らないけどあんたが言うとまともなことでも間違っているんじゃないかって思っちゃうんだよね。正しいことだとしても、あんたが言うとそれは正しくないんじゃないかって思えちゃうんだよ」
「申し訳ないけど私もクリームパイちゃんと同じ考えかもしれない。確かに君の言う通りで珠希ちゃんにはピンクのおパンツも似合うとは思う。思いはするんだけど、それを君に言われるとそうではないんじゃないかと思ってしまうのだ。その言葉を言ったのが君だというだけで正しいことではないんじゃないかと言う気持ちになってしまうんだよ。本当に申し訳ないが、私も愛華ちゃんも君が言ったことでますます自分の意見が正しいと思うようになったんだよ」
「イザーちゃんの言う通りで、私も君が言っていることは正しいと思うのに信じたくないって気持ちでいっぱいだよ。本当に、その言葉を言ったのが君じゃなければこの場が丸く収まっていたんじゃないかとさえ思えるからね」
クリーキーの姉であるクリームパイとイザーと栗宮院うまながクリーキーの意見を肯定はしつつも全否定するという状態になっていた。
それを見守っている多くの生徒や教職員たちもクリーキーの意見に賛同はしつつも、クリーキーが言っている事だという理由だけで否定するという事を表明していた。
「そこまで否定されるとは思っていなかったけど、ある程度の所までは理解してもらえて嬉しいよ。俺としては珠希ちゃんが水色でもピンクでもどっちのおパンツを穿いていても可愛いと思っている」
クリーキーから工藤珠希とおパンツという言葉が出るたびに生徒たちからブーイングや悲鳴が上がっていた。
それでも、クリーキーは気にせずに自分の考えを皆に伝えていた。
「みんなが知っての通り、珠希ちゃんはとても可愛らしくお清楚である。正直に答えてほしいのだが、そんな珠希ちゃんに水色のおパンツもピンクのおパンツもとてもよく似合うと思う。制服のスカートがめくれた時に見えるおパンツはどちらの色だったとしても、君たちは変に思う事は無いのではないだろうか」
クリーキーの言葉を聞いている観衆の騒めきは少しずつおさまっていっていた。
各自がそれぞれ工藤珠希の姿を想像し、それを堪能しているのだ。
「あえて言おう。珠希ちゃんが穿いているおパンツは水色でもピンクでもどちらでも素晴らしいのだ。そんな事で君たちが争い、お互いを罵りあうのは間違っている。今日が水色で明日がピンクでダメな理由など何もないのだ。毎日同じ色を穿き続けるように縛る理由もないのだ。どちらも素晴らしい。それが答えであろう」
薄々感じてはいたことであるのだが、どちらの色が良いかと言っても毎日同じ色にしてほしいというものではないのだ。水色派とピンク派に分かれてしまったので言い争っていたのは事実なのだが、正直に言えば日替わりで色を変えてくれても問題無いとは思っていたのだ。
ただ、それを最初に言い出したのがクリーキーだというのが納得できないだけなのだが、生徒の中にはクリーキーの意見を受け入れる者も出てきたのだ。
納得は出来るのだけど、納得はしたくない。大半の生徒が考えているのはそんなものであった。