第26話 全裸と体毛
イザーが世界を救った伝説は数多くあるのだけれど、そのほとんどが真実なのであろう。イザーの力をその目で見た者は皆その伝説を信じることになるのだ。
「太郎ちゃんについていったら伝説のイザーちゃんに会えるって事でいいんだよね?」
「そういう事にはなると思うんだけど、そんな簡単に決めちゃっていいの?」
「いいよいいよ。あたしはココの人間じゃないし、あたしがいなくなったとしても熊たちが自由にのびのびと暮らすだけで問題無いと思うし」
「あんなに大きな熊さんに自由にされたら困りますよ。俺たちの世界が壊れちゃいます」
「大丈夫大丈夫。あの熊たちには人を襲わないようにちゃんと教育しておくから問題無いって。で、太郎ちゃんはどうやってイザーちゃんのいるところまで帰るの?」
「それなんだけどさ、ちょっと訳ありですぐには帰れないんだよね」
工藤太郎は自分が使う予定の転送ゲートが故障しているのですぐに帰ることが出来ないという事を説明していた。
転送ゲートに興味を持ったのは全裸の女性だけではなく若者たちもだったのだが、今は故障していてどこに出るのかもわからないという事を聞いてからは誰も転送ゲートに近付くことはなかった。
近付いたからといってどこかへ強制的に転送されるという事もないのだが、今まで生きてきた中でこのような不思議な装置を見たことが無いという事もあって警戒心は強く持っているのだ。楽観的に行動するという事は自らを危険にさらすという事だけは理解していたのであった。
「さすがのあたしでもこれを直すのは無理かな。どんなに考えてもこんな普通の扉で生きている人を転送させるって理屈が理解出来ないんだよ。壊れてもいいモノだったらまだ可能性はあると思うんだけど、生きているモノを生きているまま送るってのは不可能だと思うんだよね。転送することでどんな作用が起きるのか全く想像もつかないよ」
「イザーちゃんは魔法に似た力で何かをおさえてるって言ってたと思うんだけど、それが何なのか俺にもわからないんだよ。魔法に似た力って言うか、魔法自体もどういう原理で成立しているのかわからないから修理も出来ないし、向こうから直してもらえる時まで使うことは出来ないんだ。でも、使えないからって放置したとしても、いつの間にか俺の近くに戻ってきてるんだよな。そろそろ開放してもらいたいって気持ちもあるけれど、戻れるのなら地球に帰りたいとは思っているよ」
「地球ってのがどの辺にあるのかわからないんでどれくらいかかるかはわからないけど、太郎ちゃんさえよければあたしの宇宙船で一緒に行ってみるかい?」
「宇宙船なんてあるの?」
「そりゃね。あたしがこの星にいるのが宇宙船がある何よりの証拠でしょ。どこからどう見てもこの世界の住人じゃないってのがわかるはずだよね?」
森に棲んでいる全裸の女性と殴り合いでしかコミュニケーションをとることが出来なかった部族の女性を比べると、森に棲んでいる全裸の女性の方が体毛が充実しているのではないかと思われる。
殴り合いの部族の女性は服を着ているので確認することは出来ないのだけれど、あそこまでしっかりと蓄えているという可能性はなさそうだと思う。一緒に森に行った若者も全体的に体毛は薄かったと思うので人種的な違いという事になるのかもしれない。だが、工藤太郎はそんな事を確認してみようという気持ちは微塵も持ち合わせていないのである。
「それ以前に、服を着ているかどうかの違いがあるよね。それって、凄い大きな違いだと思うんだけど」
「逆にあたしから言わせてもらうとさ、なんでそんなもんを着ているんだろうって感じだよ。そんなの着て動きづらくないのかい?」
「俺は全然そんな事を思ったことないよ」
「俺も感じた事は無いな。むしろ、なにも着ていない時の方が無防備感が凄くて何も出来なくなってしまいそう」
「私も人前で裸になって暮らすってのは無理かも。好きな人の前でも恥ずかしいって思うのに、みんなに見られるって言うのは耐えられる気がしないよ」
「でも、でも、でも、森ではみんな裸だったよ。あたしだけじゃなく熊も猿も猪も狼もみんなみんな服なんて着てないんだけど」
それはそうだろうという言葉を全員が飲み込んでいたのだが、みんなの表情を見て全てを察した全裸の女性は急に恥ずかしくなってしまったのか、その場でしゃがんで膝を抱えていた。
「そういう風に言われると、ちょっと恥ずかしくなってきたかも。でも、あたしたちは服を着るのはちょっと抵抗あるんだよ。なんだから服を着ると縛られているような感じになっちゃって、強制的に自分をおさえちゃうんだよね。だから、出来ることならこのままがいいんだけど」
「全裸だったとしても、それがこの星だったらセーフかもしれないけど、俺の住んでる地球では完全にアウトだよ」
「いや、この星でもアウトだよ。みんな服着てるんだからこの世界でも全裸はダメだって気付こうよ。森の中でひっそりと暮らしているんだったら何も言わないけど、さすがにこっちに出てくるんだったらそれなりの格好はしてもらいたいもんだね」
「でも、服を着ると本当に締め付けがきつくてヤバいんだよ」
締め付けのない服を探そうと思ったのは工藤太郎一人だけではなかった。
若者たちも工藤太郎と同じことを考えていて、この場にいるみんなもこの場にいない仲間たちに向かって号令をかけていたのであった。
せめて、せめて下着だけでも身につけてほしいと説得を試みる工藤太郎と難色を示す全裸の女性であった。




