第20話 お姉さんとイザーちゃん
イザーは零楼館高校の中で起こっている問題について簡単に説明した。
栗宮院うまなが幼児化しているという事で野生のサキュバス達を自分たちの支配下に置く決定が出来ない。それを聞いた野生のサキュバス達は無理を言っても仕方ないことなのでと納得し、自分たちが今できることをやるだけだと心に固く誓ったのであった。
「幼児化しているうまなちゃんが元に戻れば私たちの事を受け入れてもらえるって事ですよね?」
「確定ではないけれど、限りなくそれに近いという事だと受け取ってくれて大丈夫だと思うよ。私もうまなちゃんも他のサキュバスも君たちの事を高く評価しているからね。あれだけやられているのにもかかわらず、諦めずに毎回参加しているのは君たちだけだからね。ところで、ここにいる君たち以外のサキュバスは今のまま変わるつもりはないって事なのかな?」
「そういう事だと思います。私たちも何度となく提案をしてみたのですが、私たち以外は誰一人として新興勢力である零楼館の軍門に下るという事に納得はしてくれなかったんです。イザーちゃんとこうして話すことが出来て分かったこともありますし、今なら以前よりうまく説明して一緒に参加することも出来ると思うのですが」
「いや、それをする必要はないかな。君たちが私たちの仲間になるという事実が伝わるだけで十分だと思うよ。私たちが君たちを拒むことなく受け入れるという事実を目の当たりにしたサキュバス達は、きっと自分たちから君らと同じように要請してくると思う。そもそも、私たちは君たちと戦ったところで何かを得ようとは思っていないからね。レジスタンスとの戦いだけではマンネリになってしまうから違う勢力と戦うことが出来るのはありがたいことではあるんだけど、ハッキリ言ってしまうと君たちとの戦いは得るものがほとんどない状態なんだよ。だって、君たち以外の人達はほとんど戦う意志なんて持ってないからね。ただ淡々と課せられたノルマを達成する感じで参加してるって状態なんだもん。君たちが抜けることでその状況はさらに深刻なものになってしまうと思うけど、それでも若い人たちだけは戦う意志を見せてくれるのかもしれないね」
「私が言うようなことではないかもしれないですけど、私たちはイザーちゃん達と戦えることで多くのモノを得ることが出来ているんです。残念なことに実績は何も無いですけれど、それでも手ごたえのようなものを感じることはあったんですよ。だけど、多くのサキュバス達はそんなモノを感じたところで絶対に勝てる相手ではないから何もしないで早く終わらせた方がいいって言ってるんです。肉体的に成長することが少ないサキュバスなのでその考えも仕方ないかとは思うんですけど、イザーちゃん達と戦う事で得られる経験から肉体以外の成長は出来ると思ってるんですよ。イザーちゃんだってうまなちゃんだって最初から今みたいに強かったわけじゃないですよね?」
「うーん、私もうまなちゃんも昔はそこまで強かったってわけでもないかな。うまなちゃんは今もそんなに強いって感じではないけど、弱い時もあったのは事実だよ。ただ、私の知っている昔のうまなちゃんとみんなが知ってる昔のうまなちゃんは違う存在だったりするんだけどね」
昔の栗宮院うまなが弱かったという事を知ったサキュバス達は自分たちも成長することが出来るのではないかという事がわかり喜んでいた。
ただ、サキュバスのお姉さんだけは皆と同じように喜んではいなかった。イザーの言った、自分の知っている栗宮院うまなと他の人が知っている栗宮院うまなは別人だというようなことを言ってたのが気になってしまった。何かの比喩的表現なのかもしれないけれど、今の栗宮院うまなと弱い時の栗宮院うまなが完全に別人なのではないかと思えてならないのだ。
「イザーちゃんの言葉で少し引っかかることがあるんですけど、私たちの知ってるうまなちゃんとイザーちゃんの知っているうまなちゃんが違う存在ってどういうことですか?」
「そのまんまの意味だよ。君たちは知らないことかもしれないけど、私は自分の意志で自由に世界線を超えることが出来るんだ。この世界では零楼館と他のサキュバスは敵対関係にあったりするけれど、別の世界では零楼館とサキュバスが手を組んで悪の組織と戦っていたりもするし、また別の世界では零楼館が人間を奴隷のように扱っている事だってあったりするんだよ。関係が似たような世界もあれば、立場が逆になってる世界だってあるんだよ。私が見てきた中で一番楽しかったのは、零楼館と人間が協力して宇宙人と未来人と異次元の魔法使いや能力者と戦っていた世界かな。その世界では人類もサキュバスも絶滅しかけていたんだけど、私がちょっと手を貸したことで何とか窮地を脱したみたいなんだ。別の世界の人が手を貸すのって本当は良くないことなんだけど、誰も私を裁くことなんて出来ないから問題ないんだってさ」
「なんだか凄い話ですね。いつか気が向いたらその話を聞かせてください」
「いいよ。凄く長くなってしまうと思うけど、私たちの仲間になったらいつでも聞かせてあげるよ」




