第15話 子供が苦手な女子生徒
栗宮院うまながいつもとは違う形で生き返ったのはわかったけれど、一緒に復活するはずのクリーキーがいないことが気になっていた。
この場にいたとしても面倒なことも多いクリーキーではあるが、いなくなると何処か寂しさを感じさせる存在であった。工藤太郎がまだ戻ってきていない状況において、クラス内唯一の男子生徒であるという点を除けば特筆すべき点など何もないのだが、いなければ物足りない料理のおけるパセリのような存在だとクラスメイトからも思われているのだ。
「この状態のうまなちゃんの面倒ってイザーちゃんが見てるの?」
「みんなそうだと思ってたんだけどさ、イザーちゃんは野生のサキュバスが集まって悪だくみをしている件で街中へ行っちゃってるんだよ。レジスタンスの子に頼めば子守りくらいはしてくれるんだろうけど、幼児退行しているとはいえサキュバスの女王であるうまなちゃんのことを任せるわけにはいかないってサキュバスの子たちが息巻いてるんだ。こうなったら私たちでお世話するしかないと思うんだけど、子守りの経験なんて誰も無いからみんなおっかなびっくりで大丈夫かなってかんじなんだって」
「柘榴ちゃんは子守り得意そうな感じなのに出来ないの?」
「苦手ではないと思うんだけど、私も愛華もレジスタンス側の人間だからメインでお世話をしてほしくないみたいなんだよ。出来ればサキュバス側の子に面倒を見てもらうのが一番なんだけど、サキュバスの子たちって小さい子供の扱いには慣れてないから難しいんじゃないかな。どこかにレジスタンスではない人で子供の扱いに慣れている人いないかな。サキュバスでは難しいけど普通の人間だったらある程度は気持ちもくみ取れると思うんだけど、どこかにレジスタンスじゃなくてうまなちゃんに好かれているような普通の人間の女の子っていないのかな?」
教室内にいる全ての生徒の視線が自分に注がれているという事に気付いていた工藤珠希であったが、子守りなんてした経験が無いので一人で引き受けるつもりはなかった。
誰かが手伝ってくれれば幼児退行している栗宮院うまなの世話を見るのもやぶさかではないのだけれど、全てを一人で面倒を見るという事はどだい無理な話なのである。こんな時に工藤太郎がいれば何とかなるのではないかとも思ったのだが、彼はまだ地球から確認出来る範囲に到達してさえいないのだ。
「このまま誰もうまなちゃんのお世話をしてくれないんだったら、いたずらっ子のうまなちゃんを十字架にでもはりつけておかないといけないよね。悪気はないと思うのだけど、本能的にレジスタンスの子にイタズラしちゃいかねないから仕方ないもんね。頭の中身が子供になってたとしても、体も戦闘技術も立派な女子高生だから普通のレジスタンスの子だったら殺されちゃうかもしれないんだよね。イザーちゃんだけが突出してるって思われがちだけど、うまなちゃんも一人で戦況を変えることが出来るくらいの力はあるんだもんな。そんな力を持った子が戦いに興味を持ってしまったとしたら、この学校の平和はどうなってしまうんだろうね」
「サキュバスの本能がレジスタンスを避けようとしているのは目に見えてるもんね。柘榴ちゃんはまだ平気みたいだけど、愛華ちゃんに関しては完全に敵対行動をとってるよ。愛華ちゃんもうまなちゃんのために何かしてくれようとしてるんだけど、うまなちゃんからしてみたらサキュバスの敵であるレジスタンスとしてしか認識してないみたいだもんね。柘榴ちゃんと愛華ちゃんにそんなに違いは無いと思うんだけど、うまなちゃんクラスになったら二人の違いとか分かっちゃうのかな?」
「どうだろう。私も愛華も戦闘能力という点に関しては大差ないと思うんだよね。どっちかって言うと私の方が愛華よりも子供が苦手なんだけどね。将来結婚しても子供はいなくてもいいかなって思っちゃう感じだし、出来ることなら子供と関わりあいたくないからね」
「柘榴ちゃんって子供が苦手だったんだ。思い返してみると、そんな場面を見たことがあるような気がするかも」
「愛華にそんな場面みせたことあったっけ?」
「見せたって言うか、たまたま見かけたって言うのが正確かな。買い物している時に柘榴ちゃんを見かけたことがあったんだけど、なんでかわからないけど裏路地を通って遠回りしてお店に入っていたことあったよね。その時は柘榴ちゃんを見かけて嬉しくなって後をつけてみたんだけど、最初の道を真っすぐに歩いていれば目的のお店についたのにすっごい遠回りしてたんだよ。なんでそんな風に歩いているのかなって思って最初に柘榴ちゃんがいた場所を見てみたら、子供の集団がその辺のお店に出たり入ったりしてたんだよ。その時は可愛い子供がいっぱいいるなって思ったくらいなんだけど、子供が苦手だって話を聞いた今になって考えてみたら、子供がたくさんいたからあの道を避けたんだなってわかったよ」
「さすがにそこまでではないでしょ。そんなの異常だって」
「そうだよね。私らだってそこまで子供に苦手意識とか持ってないし」
「私たちが子供を苦手なのって、力加減が出来なくて壊してしまいそうって理由だもんね」
サキュバスも鈴木愛華も栗鳥院柘榴の話をしているのだけれど、視線は工藤珠希に向けられていた。まったく隠すこともなく真っすぐに見つめられていた。
サキュバスもレジスタンスもこんな時は協力するのだなと感じた工藤珠希であった。