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融和

「ところで、この場に住んでいた人たちはどうしたのですか?」


ユーリが新たに訊ねる。


「もともと、一番広い預かり場を改築しました。元の住民には他の預かり場跡地や辺境伯名義で使われていなかった土地にアパートを建てて引っ越しをしてもらっています。もちろん、領主持ちです」


「そこまでする必要が、本当にあったのか?」


「多少の不満、特に預かり場を管理していた住民からはありましたが、結果的に貴族たちからは安心して預けられると言われますし、以前より商人も来ていただいています」


「これが出納帳になりますが、空きはあるものの、徐々に売り上げは伸びております」


リクシアがいいタイミングで資料を出す。


「リクシア嬢、ここの管理は貴女がされているのですか?」


「いえ、全てレイバンがおこなっております」


その言葉でケビンの目が丸くなる。


「こんな大事な事業を平民に任せているのか」


「お言葉ですが、殿下。レイバンはもともと商人であり、数字の扱いに長けております。それに全ての事業を貴族が賄うことは不可能です。必要な人物を評価し、適切な地位につけることが大事かと」


「う、うむ。そうだな。少し驚いただけだ」


俺が興奮気味に話すと、ケビンはたじろんだ。


俺が出自で軽んじられた経験があり、ケビンに棘のある言葉を感情的に発してしまったことを反省する。俺の考えが正しいとも、王宮内での考え方と合致しているとも限らない。上からの目線は自重しなければなるまい。


「何か質問はございますか?」


説明を終えたリクシアがケビンとユーリに聞く。2人は首を横に振った。


俺たちはレイバンに礼を言い、預かり場を後にする。


その後、街中を歩いて領都を簡単に案内する。反応を見る限りは悪くないようだ。王族のケビンは街中を歩いた経験がほとんどなく、一方のユーリはマクフェイル領や王都との違いを楽しんでいるようだった。


「少し早いですが、昼食にしましょう」


一通り領都を案内すると、俺は一同に提案した。


「確かに小腹が空いた。屋敷に戻るのか?」


「いいえ、今日はここで昼食を摂ります」


俺は目の前の屋敷を指差す。その先には何の変哲もない、ただの屋敷にしか見えない建物がある。


「ここは・・・ただの屋敷ではないか。別荘で食事をするということか?」


もちろん、そんなところに案内はしない。そもそも、領都内の別荘は売り払っている。ここはリクシアとも食事をしたレストランだ。


「ここは・・・?」


「さ、どうぞ中へ」


不審がるケビンとユーリの背中を押すように俺とリクシアはレストランの中に案内する。


「ようこそいらっしゃいました。ケビン殿下、ユーリ様。私はこのレストランを任されているウォトキンと申します。殿下たちの来訪を心から感謝し、歓待いたします」


「ウォトキン、ということは貴方も・・・?」


ユーリの言葉に何かを察したらしいウォトキンは、笑顔で応える。


「お察しの通り、私は平民でございます」


「平民とは言っても、下野した者なので、礼儀はしっかりしています。失礼はないかと」


「私もここを利用したことがありますが、言われるまでどこかの高位貴族の方かと思っておりました」


俺とリクシアがフォローする。平民出身のユーリは平然としているが、ケビンは少し不満のようだ。


「どうぞこちらへ。本日は貸切にしておりますので、どうぞゆっくりとお食事をお楽しみください」


案内を終えたウォトキンは深々と頭を下げ、部屋を出る。案内された部屋は手入れのなされた庭を一望できる、このレストランで一番いい部屋だ。


「で、ここはなんだ?」


「ここは上級レストランです」


ケビンのもっともな疑問に応えるべく、俺は口を開いた。


「辺境の地はそれなりに広いです。領都(ここ)に来たついでに、他の貴族や商人と会食する機会を得るものが多いのだとか。その度に屋敷に人を呼ぶよりも、こういった場所があったほうがいいのではないかと思って作りました」


「そういえば、王都にも似たような店があり、商人から好評だという話を聞きました」


「その店はラトランドの話を聞いた父が構えた店ですね」


俺の話にユーリが乗り、リクシアが補足する。


「そうだったのですね。話を聞いて興味があったのですが、こういう形でこれてよかったです」


「相手に出す料理次第で相手への対応を暗に伝える。これが貴族の外交だと思うが、平民の作る料理でそれが伝わるのか?」


やはりケビンは疑問を持っているようだ。基本的には貴族の肩書きを重要視するケビンと俺の意見は相容れないが、ケビンが王族であること、何より新たな経験値の差であろう。


ちなみに、配膳を担当するウォトキンは、以前、俺たちが来た時と違って口を挟むことはない。


「まず、王宮内での外交とは内容が違います。さすがに王族を含めた会合を想定していません。何度も顔を合わせ、お互いの性格を知るもの同士が会談に使う場所を想定しています。毎回、お屋敷で会合というのも飽きますし、こちらも好評をいただいております」


「王都でも同様の評価です。約5組ほどの完全予約制です。人数は応相談という形ですが、10名程度までなら対応は可能です」


「確かに、王宮の料理は美味しいですが、肩肘張らなくて良さそうです」


俺とリクシアの説明に、ユーリが同意する。その直後、失言だったと慌てる。


「なるほど、ユーリは王宮での食事をそう思っていたのか」


「え、あ、あの、そういうわけでは・・・」


「殿下。この場は我々だけの場。心のうちに留めておくほうがよろしいかと」


「いや、責めてるわけではない」


そう言うと、ケビンは思案顔になる。


とにかく、これ以上ユーリが追求されることはなさそうだ。


その後、女性陣を中心に近況を報告し合い、俺とケビンが相槌を打って食事を終えた。


夜は翌日に王都へ向かうケビンとユーリのためにささやかな晩餐会が開かれた。


1週間ほどの視察であったが、大きな問題が起こることなく無事に終わりそうなことに胸を撫で下ろす。あとは翌朝に一行を見送り、3日後、領地の境界でエリッオットたちが王都の警備隊に護衛を引き継げば全て終わりである。


自室でリラックスしていると、ダニエルが部屋に入ってきた。


「ケビン殿下がラトランド様と2人で話がしたいと」


思わず眉を顰めそうになるが、ダニエルの側にはケビンの従者と思しき男性がいる。緩んだ気を一気に引き締める。


「わかりました。少し身なりを整えたら向かいます、とお伝えください」


男性は頭を下げ、俺の言葉をケビンに伝えにいく。


俺は部屋の扉を閉めて、ダニエルと話をする。


「なんの話だと思う?」


「それがさっぱり。彼にも聞いたが、わからないと」


「まぁ、第一王子殿下のお誘いを断るわけにもいくまいて」


「旧友と語らいたいんじゃない?」


「まさか。俺を目の敵にしてたんだぜ?」


ダニエルの冗談に、俺は苦笑で返す。語らうことなんてほとんどない。むしろ、今更友人面されても対応に困る。


身支度を整えた俺はケビンのいる客室の扉をノックする。


「ラトランドです。殿下の召喚に応じ、馳せ参じました」


俺が名乗りをあげると扉が開き、その向こうには苦笑いしたケビンが待っていた。


「入ってくれ」


俺は軽く一礼すると、客室の中に入る。


その直後にケビンがチラリとダニエルの方に視線を向ける。


「何かありましたら遠慮なくお呼びください」


ケビンの視線の意図を汲み取ったダニエルは、恭しく頭を下げて部屋の扉を閉める。


明日の出発を前に荷物が整理され、必要最低限のものしか置かれていない客室は、いつもの姿に戻りかけているというのになぜか寂しく感じた。


「座って」


「失礼します」


俺はケビンの言葉通りに窓際の椅子に座る。テーブルには赤ワインのボトルと2脚のグラス、それにチーズなどの簡単につまめる食べ物が置いてある。


「すまんな。無理を言って持ってきてもらった」


「いえ。殿下の要望には応えられる範囲で応えるように言っておりますので」


俺はそう言ってケビンのグラスにワインを注ごうと手を伸ばす。


この部屋には俺とケビンの2人しかいない。俺の従者であるダニエルは先ほど退室し、ケビンの従者もいない。メイドや、当然ながらギャルソンもいない。


だから身分が低い俺がワインを注ごうと思ったのだが、ケビンに制されてしまった。


「俺が注がせてくれ。謝罪の意味もある」


そんな言葉がケビンから出てきたので、俺は驚いた。


「俺がお前にしたことは許されるものではないが、せめてもの償いだ」


注がれるワインを見ながら、俺はケビンの言葉の意味を考える。


「あぁ、この場は公式の場ではない。あくまで私的な場であって、ここで発言したことを他の場所で使わないと誓おう」


俺の目が驚きで開く。 視察にきたその日に発した言葉と同じだが、今日はその言葉の意味をわかっているようだ。


「そんなに驚くことか?まぁ、そうか」


ケビンは自虐的な笑みを浮かべると、自分のグラスにワインを注ぎ、脚を持って顔の前に掲げる。俺もケビンに合わせてグラスを持ち上げる。


お互いに一口ずつグラスに口をつける。甘味が強いがわずかな酸味と苦味が後から口の中に広がる。暗くてラベルがよく見えないが、この味は・・・。


「ま、当然わかるよな。バルサバ領のワインだよ。割と気に入ったから飲みたくてね」


ケビンは再びグラスを傾ける。


「お気に召していただけたようで何よりです」


ワインの製造は父の代から始めたことだ。元々は地元で売るだけのものだったが、味も悪くないのでせっかくなら、と事業を拡大したのだ。


甘味が強いのが特徴で、貴族向けというよりは庶民向けのものだが、第一王子に気に入ってもらえたのは行幸だ。


俺は心の底から感謝を述べ、頭を下げる。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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