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兆候

2人の姿が見えなくなってから、皆は肩の力を抜いた。


「ランド。あの若造はなんだい?」


「母上。ケビン殿下ですよ」


「わかってます。あんな礼儀知らずが次の国王だなんて、頭が痛くなるわね。リア、よくここに来てくれたね。あの男よりはランドの方がマシだと思うわ」


「もったいないお言葉でございますが、私も至らぬところが多々ありましたので」


テレサが暴言を吐くが、リクシアはなんとかフォローする。


2人が話していると、文官が困った顔でこちらにやってきた。


「テレサ様、ラトランド辺境伯、リクシア辺境伯夫人。この度は誠に失礼致しました」


俺たちの間近にくると、彼は頭を下げる。


「本当にそうよ。ところで、貴方は?」


テレサが呆れた様子で質問を投げかける。


「失礼しました。私はケビン殿下の側近でムーア侯爵家三男、ウィリアムと申します」


「ウィルは僕たちより2歳歳下だけど、すごい優秀なんだ。今回の視察も、ほとんどウィルがやってくれたんだ」


「それは凄いです。2歳下ってことはまだ、学生でしょう?」


「いえ、王宮内の先輩の方々がほとんどやってくれました。僕はバルサバ辺境伯との橋渡しにすぎません」


「それでも、立派だわ。2年前の私はのほほんと過ごしていただけだもの」


リクシアは素直に感心したが、2年前というと、ケビンに婚約を破棄される年だ。それを知っているウィリアムはどう返していいかわからず、モゴモゴしている。


文官としては優秀だが、貴族としてはこれから経験を積まねばなるまい。


「それくらい優秀なら殿下を諌めなさい」


「はい。肝に銘じます」


テレサはウィリアムに声をかけると、「疲れたから失礼したいします」と言ってその場を去った。


「ウィル、僕たちは一旦着替えます。ウィルもひと段落したら応接室においでください。執事にお茶を準備させます」


「お言葉に甘えさせていただきます」


そう言って執事にウィリアムを客室に案内させる。


リクシアも下がったところで、俺はアンソニーとエリオットに声をかける。


「道中、トラブルはなかったか?」


「大きなトラブルはありませんでしたが、()は少し特殊というか、良い印象は受けませんでした」


アンソニーは苦笑いを浮かべる。彼がいうことに思い当たる節はあった。


「なるほど。護衛のものは貴族出身者に偏らせたのだが」


「ランド様はご存知でしたか」


「ああ。在学中にちょっと、ね」


「貴族出身者に固めていただいたのは良かったと思います。そうでなければもっと酷かったでしょうから。これからのことを考えると頭が痛いですが」


「とにかくアンソニー、エリー。お疲れ様。アンソニーもエリーもしっかり休んで、夜に備えてくれ」


「はい。お気遣いありがとうございます」


「お言葉に甘えさせてもらうよ。兄さん」


ケビンは学園でバルサバ領を田舎と罵り、当時婚約者のリクシアに嗜められた。選民意識の強い男という印象だったが、先の晩餐会では多少オブラートに包んであったとはいえ、根底の意識は変わらずにありそうだった。


騎士団は貴族出身の者もいるが、大半は平民だ。護衛を平民出身者で固めるとケビンの態度が不遜になり、血の気が多く、貴族と相対することの少ない騎士との摩擦が生じかねない。それを避けて貴族出身者を護衛につけたし、今後もその予定だ。


だが、話を聞く限り、多少軟化しているとはいえ、ストレスのかかる仕事になりそうだ。


アンソニーやエリオットだけでなく、騎士たちにも感謝を示し、俺は部屋に戻った。


軍服から平服、と言っても比較的豪華な服に着替え、応接室に向かう。そこにはすでにダニエルとウィリアムがいた。


「ウィル。遅くなって申し訳ない」


「いえいえ。今、伺ったところです」


お互いに礼をとり、向かい合わせに座る。サッとダニエルが紅茶を注いだカップを置いてくれた。


「ラトランド様。早速ですが、殿下がご迷惑をおかけして申し訳ない」


「ウィリアム殿が謝る問題ではないでしょう。殿下に関してはもともと、バルサバ領(辺境の地)について良いイメージをお持ちではないようですね。この視察でそのイメージを変えてみせますよ」


自信なんてさらさらないし、ケビンの意識が簡単に変わるとは思わない。だが、ウィリアムには切り替えて仕事をしてほしいので、俺は努めて明るく振る舞う。


「早速ですが、今後の予定について確認させていただきます」


ここからは俺の側近でもあるダニエルも椅子につき、今夜行われる晩餐会や今後の視察日程について、変更点がないか確認をしていく。


順調に話が進んでいく中、応接室の扉が開いた。


「よぅ、ランド。昔話をしにきたぜ」


『ケビン殿下』


俺たち3人は立ち上がり、頭を下げる。こういう時は殿下付きの侍従が扉をノックして挨拶するところだが、ノックなしにケビンが入ってきたので驚いた。


「殿下。執務中の部屋に入る時はノックをしてください、と何度も申し上げてます。特にここは王宮ではないのです」


「硬いことを言うな。俺とランドの仲じゃないか」


「ウィル。()()()()()()()が、大丈夫です。殿下も一緒にどうぞ」


俺はケビンにウィリアムの隣の椅子を勧める。


突然ドアが開いたとき、控えていた騎士たちは半ば刀を抜きかけていたし、武器を持たない俺も素早く立ち上がって身構えてた。武家の出身でないダニエルも、客人であるウィリアムを守ろうと動き始めていた。


それを「驚いた」という表現をしたが、おそらく伝わってはない。これ以上の言及は不可能だが、アドレナリンの発散させる先を失った騎士たちの鬱憤を晴らせただろうか。


「では、改めて殿下とも確認させてください。今晩はバルサバ辺境伯家と晩餐。明日は午前中に騎士団の訓練風景を見学、午後からはバルサバ領の貴族たちを含めた晩餐会が開かれます」


「北の砦とやらには行かないのかい?」


ウィリアムが説明していると、ケビンが突然口を挟んできた。


「ケビン殿下。なぜそのような場所へ?」


俺はケビンに問いかける。


「バルサバ領の北の砦は、帝国から王国を守る最前線と聞く。俺が行くことで士気を高めるだろう」


ケビンは自信満々に答える。


彼がなぜ、北の砦の存在を知っているのかは不明だが、いずれにしろそれは出来ない相談だ。


「僭越ながら、殿下のご希望に沿うことはできません」


「何故だ?ここでのほほんと過ごしている連中に顔を見せるより、よっぽどいいだろう」


ケビンはそばに立っている護衛が『のほほんと過ごしてる連中』の一員だということを分かってないのだろうか。


「お言葉ですが、領都にいる騎士たちが漫然と過ごしているわけではありません。この街に限らず、バルサバ領の街の安全を守っていますし、何より殿下を護衛している騎士たちも、しっかりと自分の仕事を全うしています」


「だが・・・」


「理由はもう一つございます」


ケビンに次の言葉を言わせる前に、俺が重ねる。


「俺の話を遮るのか?」


「昔話をしたい、と発言のハードルを下げてきたのは殿下だと存じます」


俺は強気に出る。何も間違ったことは言ってないし、ウィリアムも止める様子はない。むしろ、ケビンをアイコンタクトで制する。


「こちらがメインの理由になりますが、帝国を刺激しないためです。国境は平穏に見えますが、わずかな物事でその平穏は崩れます。お聞きになってるでしょうが、父が亡くなった直後、帝国は攻め込む姿勢を見せました。こちらが応戦すれば一気に戦争に発展したでしょう。結果的に()()()()()()()()()のでことなきを得て、相手に謝罪させるまでに至りました。こちらから相手に攻め込まれるような、非を作るような行為はしないほうがいいでしょう」


俺が一気に捲し立てると、ケビンは少したじろいだ。


「そ、そうか。それは済まなかった。なかったことにしてくれ」


「ご理解いただけたようで何よりです。殿下」


俺はにこりと笑う。流石の殿下も戦争の引き金になるつもりはないらしい。


「ケビン殿下。ここでは打ち合わせを行なっておりますが、最終確認のみです。今後、別の場所に視察に行くとき、やりたいことがあれば事前にご提案ください。今回もそのように申し上げたはずですが、何もありませんでした。ちなみに、先ほどの殿下の案ですが、すでに検討済みで、防衛大臣や国王陛下から避けるように提言を受けています」


ウィリアムがケビンに告げる。


実は殿下の案はすでに検討されていた。結果的に俺たちだけでなく、さらに上層である大臣、さらには国王陛下にまで話が広がり、慎重になるべきという意見が通ったのだ。だいたい、この場で思いつくような案というのは事前に検討されて然るべきである。


俺はケビンのプライドを傷つけないように理由だけを説明したが、ウィリアムは怒りを持ったらしい。少し棘のある発言をし、ケビンはそれ以降、口を挟むことはなかった。


一通り今後の予定を確認したのち、ケビンは俺に話しかけてきた。


「なぁ、ちょっと話そうぜ」


「少しだけなら」


俺はチラッとダニエルを見て、彼が頷いたのを確認した。


ダニエルはこれから働いてもらう必要があるので、正直この場に留めておきたくはない。だが、俺が自らお茶を淹れたとして、「毒を盛られた」と言われても厄介である。


だから、同様の理由でウィリアムも残ることになるのだが、彼は少し眉を顰めた。毒の心配をまるでしていないようなケビンの言動も、彼が眉を顰めた理由の1つだろう。


「単刀直入に言うが、リクシアを王都に戻さないか?」


ダニエルが新たに淹れてくれた紅茶を、毒味を兼ねて先に口に含んだが、それを飲み込む前に噴き出すところだった。


「大丈夫か?」


ダニエルが心配そうに俺を見つめる。俺は大丈夫、と軽く合図をしてケビンに向き合う。


「一つ確認なのですが、この場は公式のものですか?非公式のものですか?」


「非公式に決まっているだろう」


公式であれば王族からの要請として断れない可能性もあったが、ケビンは非公式であることを告げた。彼なりの配慮なのか、あるいは何も考えていないだけか。いずれにしても俺は助かった。


「念のために聞くけど、なぜ?」


「リアを婚約者から外したことで、ハーツ公爵からの当たりが強いのは仕方ないとしても、他の貴族からも避けられている気がするんだ。ユーリは何かとリアと比べられてしまって俺のところにまで陰口が叩かれている。リアが戻ればそれもなくなるだろう」


「もう一つ。なんでリアとの婚約を破棄したんだ?」


「何かと口うるさかったし、何より自分の好きな人と結婚したかったからさ。父上と母上のようにね。ユーリは一目惚れだったんだよ」


部屋の空気が冷える。おそらくダニエルもウィリアムも、護衛の騎士たちも同じ気持ちだろう。


喉の奥から、呆れと怒りが入り混じった息が漏れた

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


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