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叙任

話がひと段落すると、俺は、完全に蚊帳の外に置かれていたミステリア兄妹に声をかけようとした。


そのとき、またしても聞きなれない声がかけられた。


「ウィリアムにディアナ。どうしたんだい?」


声をかけてきたのは恰幅のいい男性だった。


「ミステリア侯爵。お久しぶりでございます。リクシアでございます」


真っ先に彼に挨拶をしたのは、意外にもリクシアであった。


「これはこれは、リクシア嬢。ご丁寧にありがとうございます」


「ご紹介いたします。私の婚約者であるラトランドです」


「ラトランド・バルサバと申します」


「ラトランド()()()。丁寧なご挨拶、痛み入ります。ウィリアムとディアナの父、ミステリア侯爵家当主のオットーと申します」


恰幅のいい彼の第一印象は良い。むしろ、先ほどまでのアーネストが悪すぎるだけか。


ただ、俺のことを辺境伯と言ったのはいただけない。


「ディアナはいいお方たちとお知り合いになったようで。是非ともこれから公爵家、辺境伯家にはぜひともご厚意を賜りたく存じます。絵画等もご購入いただければ、と思っております。ウィリアム、ディアナ。しっかりご案内するように。では、これにて失礼致します」


隙のない所作で頭を下げ、彼はこの場を去った。


「ごめんなさい。私たちのせいで気分を害してしまって」


ディアナが頭を下げる。


「ディアナ嬢のせいではないでしょう」


ダニエルが言うことに、俺は同調する。


「ダンの言うとおりだ。ディアナ嬢はわずか1年だけだったが、僕の同級生。それに、リクシアとよくしてくれたんだろう?それなら、僕にとっても友人だ」


「でも、ラトランド様やリクシア様に色々買ってくれたらな、とか思ってしまう自分もいるんです」


今にも泣きそうなディアナの肩を、再びウィリアムが支える。


「少し、休ませますので、失礼します」


俯いて離れる2人に、リクシアが声をかけた。


「私は公爵令嬢として、友人を選びます。ディアナ、貴女は間違いなくその1人です。貴女からどう思われようとも、それだけは忘れないでください」


ディアナは小さく頷くと、ウォーレスと共に会場を出る。


「ふぅ。なんか、思ってた感じと違うな。もう少し、お祝いムードかと思ってた」


「社交とはこういうものです。それにしても、今日の会話はあまりに露骨すぎますね。普通はもう少し遠廻しな表現をするものだけど」


「敢えて、そういう表現を使ってるんだ」


俺たちの前に現れたのは、ハーツ公爵夫妻。それに、マーカスとサリバンも後ろに控える。サリバンの着こなしは貴族たるものだが、肩を窄め、決して小さくない身を小さくしている。


俺とダニエルは頭を下げる。


「ごきげんよう。バスカブル前侯爵様。それとも辺境伯代理とお呼びした方が?」


リクシアがマーカスに挨拶をする。すでに何度も顔を合わせており、簡易なカーテシーで済ます。


「リクシア嬢。今日は一段と美しい。ワシの呼び名はお好きなように」


「では、お祖父様とお呼びしても?」


「もちろん、大歓迎です」


マーカスは破顔する。家族同然とはいえ、リクシアとマーカスが直接話す機会は少ない。お祖父様と呼ばれるのは初めてだ。


「ところでハーツ公爵様。先ほどおっしゃられた『そういう表現を使ってる』とは?」


俺はクリスティンが発した言葉の真意を訊ねる。


「学園を卒業して、家業を手伝うものがほとんどだ。厳しく育てられたらいいが、親が甘やかして家臣が注意できなかったりすると、いざという時に困るだろう?だから、敢えて強い言葉を使うのだよ。もっとも、あまり変わらない御仁もおられるようだが」


ハーツ公爵の目線の先にはオットーがいる。彼は身分の高い貴族やその家族に積極的に話しかけては、頭を下げて回っている。


あれもあれで、家のことを考えてやっているのだろう。


「ところで、ラトランドくんはどうかね?気分が悪くなったりとかは?」


「いえ、特にありませんね」


俺が平然と応えると、ハーツ公爵夫人はやや驚きの表情を見せる。一方、マーカスやハーツ公爵自身は、納得の表情だ。


俺は質問の意図がわからず、はてなを頭に浮かべる。


「あ、ランドは普段から年上の貴族たちを相手に領地を治めているからか」


ダニエルが納得したように手を打つ。


「確かにそうですね。私よりもよっぽど修羅場を潜っているでしょうし、教えていただくのは私の方かもしれませんね」


リクシアがダニエルに賛同する。それでも俺の理解が追いついてないと、マーカスが解説をしてくれた。


「『引きこもり辺境伯』という二つ名のあるランドに、嫌味を言いにくる者がいただろう?悪意を間に受けて、気分を害する者も一定数いる。彼らが悪いわけじゃないが、貴族の世界は好き者同士だけで付き合っていくわけではない。時には口撃や甘言を受ける。それを実感させて、鼻っ柱を折るのがこの会の目的の一つなんじゃ」


なるほど、と俺は納得する。今でこそ、ある程度安定しているが、俺が領地に戻った直後は反発した家もあった。マーカスの後ろ盾があったからこそ、成り立っていた。あの時に比べれば、ここまでのやり取りは「普通」の部類だ。


「ところで、僕はここにいていいのでしょうか?」


恐る恐るサリバンが声をかけてきた。


「いいんだよ。サリバンは俺の執事として来てるんだから」


「しかし、どの家も執事を連れて来ていません」


鋭いところに気づく。


もちろん、彼の招待状は別の理由で配布されているのだが、その理由を知っているのはごく僅かだ。


俺がどう返事をしようかと思っていたら、銅鑼の音が響く。どうやら、王族が入場するようだ。俺は助かった、と胸を撫で下ろす。


「国王陛下皇后陛下、並びに第一王子殿下、ユーリ・伯爵令嬢の入場です」


近衛兵と思しき男がそう宣言すると、袖から4人が壇上に登場した。


俺はケビンの婚約者であるユーリの肩書きに疑問を持つ。ユーリの家は男爵家だったはずだ。


「では、新成人の皆さんは前に」


疑問を解消する前に近衛兵が合図を出す。対象者がぞろぞろと前に集まった。


「サリバンも来てほしい」


「え?私もですか?」


俺は戸惑うサリバンを無理やり前に連れていく。


「国王陛下のお言葉です」


「皆の者、よく参った。この度、この国を支える者たちを新たに迎え入れたことをうれしく思う。これから君たちは様々な困難に会うだろう。その困難に立ち向かい、この国をよくしてくれることを願っている。奇しくも、愚息ケビンも君たちの一員となる。ぜひ、厳しく接し、皆とともに成長してくれるように願っている」


国王の言葉は力強く、腹の底に響き渡るものであった。国王の威厳は憧れではあるものの、産まれて20年にも満たない自分が出せるものではなかろう、とあきらめる。


「では、続いて爵位授与式に参ります。呼ばれたものは前へ」


2人の男性の名前が順に呼ばれ、それぞれが国王陛下のお言葉とともに爵位を授与される。


「続いて、ラトランド・バルサバに辺境伯の爵位を授与する」


俺の名前が呼ばれ、前に出る。会場の空気が変わり、これまで静かだった会場が少しざわつく。


「父上」


口を挟んだのはケビンだった。


「公式の場では国王と呼べ。ケビン」


「国王陛下。恐れながら申し上げます」


「ならぬ」


発言を認められると思っていたケビンは呆気にとられる。


「この場は神聖なる儀式の場。新成人がおいそれと口を出してよいものではない」


国王はケビンに叱責する。ケビンもこういわれると何も言えることがない。


「ラトランド・サリバン。そなたはアルジー・サリバンの亡き跡、辺境伯代理であるマーカス・バスカブルの後援を受け、立派に職務を果たした。よって、辺境伯を授ける」


「ありがたく承ります」


俺は膝を折り、国王が俺の頭の前に手を掲げる。


「面をあげよ」


国王の言葉で、俺は立ち上がる。


「これにて、ラトランド・バルサバはバルサバ辺境伯となった。引き続き、精進するように。これと同時に、マーカス・バスカブルの辺境伯代理とアルジー・バルサバの辺境伯の任を解く。大義であった」


俺は自分が辺境伯になった喜びもあるが、同時に父から辺境伯の肩書きが外れたことを悲しみもある。これで、貴族の間から正式に父がいなくなったことになる。


「ランドのお義父様は、皆さんの心の中におられます」


国王の前から下がった俺の隣にスッと並んだリクシアが、俺の感情を察して声をかけてくれた。


「それよりほら。次はランド様が仕掛けたサプライズですよ」


リクシアがいたずらっ子のような笑みを浮かべると、次に爵位を受ける人物の名前が呼ばれた。


「続いて、サリバン」


再び会場がざわつく。家名がないということは平民である。平民が爵位を賜ることは数年に一度のみ。極めて珍しいわけではないが、驚きはある。


もっとも、一番驚いているのは本人だろう。名前を呼ばれたにも関わらず、俺の後ろで棒立ちになっている。


「ほら、呼ばれたぞ」


俺が声をかけると、我に帰ったサリバンは転びそうになりながらも国王の前に傅く。何が起こっているのか、わかってなさそうだ。


「サリバン。そなたはバルサバ辺境伯の元で研鑽を積み、タウンハウスの運営に多大なる貢献をした。また、出自もヒックス子爵家三男と安定していることから、サリバンにウィート一代男爵の爵位を授ける」


「あ、あ、あ、ありがたく、う、承ります」


サリバンはいつもの落ち着いた雰囲気がなく、どもりながらも爵位を受け取る。


「面をあげよ」


サリバンが立ち上がる。よく見ると足が震えている。側から見ている俺からすると、なんとか最後まで立ってくれよ、と祈る気持ちだ。


「ハーツ公爵、バスカブル前侯爵、バルサバ辺境伯からの推薦だ。彼らに感謝すると共に、より一層、彼らに支えよ」


「はい。必ずや」


サリバンは胸に手を当て、国王に誓う。


サリバンが下がると、国王の威厳が和らぐ。


「さて、儀式はこれにて終了じゃ。我が国を支えてくれている皆に感謝として、晩餐会を用意している。楽しんでくれたまえ」


国王がそういうと、給仕たちがテーブルにさまざまな食事を並べ、扉からは楽器隊が入って音楽を奏でる。


「ラトランド様!」


開口一番、俺はサリバンに詰め寄られた。


「なんでこういうことを黙ってやるんですか!緊張で頭の中が真っ白になりましたよ!」


「ごめんごめん。驚かそうと思って」


俺は笑って誤魔化す。


帝国との緊張を和らげた功績に対し、褒賞を賜るはずだったが、当時の俺はそれを辞退した。


その代わり、爵位を与えたい人物がいるという話をしており、適切な人物と判断されたら爵位をさずけるという取り決めになっていた。


その約束をこの場で使ったのだ。


このことは国王陛下を含めた、ごく限られた人物しか知らなかった。


「サリバン」


怒るサリバンに声をかけてきたのは、ヒックス子爵だ。その後ろにはサリバンの兄2人が並んでいる。


「父上。お久しぶりです」


「王都で立派にやっとるようだな・・・」


「はい。ラトランド様のおかげで・・・」


お互いに声が震える。


サリバンの立場は平民だった。商人などの例外はあれど、平民が貴族に対し気軽に声をかけることはないし、逆に貴族が平民に声をかけることはない。


それが、たとえ親子、兄弟であったとしても。


「サリバン。これからは一代男爵だ。わかっていると思うが、この爵位は孫世代までだが、貢献が認められれば正式に男爵位になる」


「存じております。自分はもちろん、孫の代まできちんとバルサバ家に尽くすようにします」


「うむ。愛想を尽かされないよう、しっかりと働きなさい」


ヒックス子爵が俺の方を向いて頭を下げる。


「遅くなりましたが、ラトランド様、ありがとうございました」


「いえいえ。サリバン殿はしっかりとタウンハウスを運営してくれています。当然のことをしたまでです」


俺がそういうと、ヒックス一家は再び俺に頭を深々と下げた。

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