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再会

領地を収めるための仕事は多い。定期的な会議はもちろん、領民や参加の貴族からの陳情を整理し、予算を組み、領地をより繁栄させるための施策を考える。そのためにも屋敷にこもっているだけでなく、各地への視察も行っている。


変わったことといえば、リクシアが仕事を手伝ってくれるようになった。一部の視察にも同行し、現状把握と社交を行ってくれている。負担が大きいはずだが、彼女から弱音の言葉は聞こえない。


彼女の中で、領民への教育に対する俺の想いにかなり感銘を受けたようで、俺に余裕を作るために頑張るのだとか。俺も彼女の期待に応えるべく、祖父や、時には母とも相談してゆっくりと進めているところだ。


あっという間に月日は流れ、リクシアがバルサバ領(ここ)にきて10ヶ月が過ぎた。彼女が断罪されてから1年が経つ。


「ランド。国王陛下から招待状が来たぞ」


「もうそんな時期か」


俺はダニエルから封筒を受け取り、中身を確認する。


俺のような特殊な例を除き、すべての貴族は学園を卒業する。その後、各々の道に進む。貴族として生きる者たちは主に親元で研鑽を積む。そして、1年後に国主催のパーティーに招待され、そこで正式に貴族の仲間入りを果たすのだ。


俺は学園を卒業していないものの、次期領主、家長として働いているため、招待される。


封筒の中にはもう一通、手紙が入っていた。その中にはパーティーで俺を辺境伯として任命する旨が書かれていた。


「どうした?」


俺の様子が少し変わったことを受け、ダニエルがすかさず聞いてくる。


「例のパーティーで俺が正式に辺境伯に任命されるらしい」


「お、やったじゃん。とはいえ、バルサバ領は実質ランドが治めてるから、遅かれ早かれと言った感じだけど」


「それでも、こうやって文字にしてみると少し震えるよ」


俺は感慨深く手紙を眺める。これで名実ともに、俺はこの地を治めることになる。改めてその責任を感じる。


「おっと。のんびりしてられないな。返事を書かねば」


俺は便箋を取り、ペンを進める。パーティーの招待の御礼、出席及び爵位を拝命すること、そしてもう一つ。俺は辺境伯として最初の仕事を手紙に書き連ねた。


返事を書き終えると、リクシアをお茶に誘う。


「お待たせしました。ランド様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


先に俺が庭のガボゼについていると、リクシアが来た。そばにはサマンサが控える。サマンサとディクシーは礼儀作法を習得し、今は親しい間柄で行われるお茶会に侍女兼護衛として参加している。


「いや、僕も今来たところだから。座って」


「失礼します」


俺が椅子を引き、リクシアが腰をかける。お互いにカジュアルな格好をしている。少なくとも最初よりはだいぶ距離が近づいたと思う。


「早速だけど、国王陛下からの招待状の返事はかいた?」


「ええ。謹んで出席させていただきますと返事させていただきました」


「よかった」


リクシアにとって最後の王都はいいイメージはないはず。それでも、一緒に行ってくれるのは嬉しい。


「何かあったら、僕が守るから」


俺は消え入りそうな声で言う。


リクシアは目を丸くしていた。


「あ、いや。リアが強い女性だってことはわかっているのだけど、まぁ、たまにはかっこつけたいというか」


俺が恥ずかしさに負けて言葉を連ねる。その姿を見て、リクシアはクスッと笑った。


「ありがとうございます。頼りにしてますよ。ランド様」


笑顔で俺に答えるリクシア。その笑顔は、もはや直視できない。


「あ、そうだ」


俺は持ってきた1枚の紙をリクシアに渡す。


「これは?」


「リアにドレスをプレゼントしようと思って、メラニーに相談してデザインを考えたんだ。でも、実際に着るのはリアだから。リアが見て、よかったらこれで作ろうかなって」


俺はデザインを見るリクシアを眺める。本当は恥ずかしいから目を離したいのだが、腹を括る。


「これはランド様が?」


「原案は僕が。後はメラニーがやってくれたよ」


俺は緊張しながらリクシアの返事を待つ。


「素敵なデザインですね。あまりこの色のドレスを着たことがないので、楽しみです」


ドレスのデザインはリクシアに受け入れられたようでホッとする。


俺が安心して紅茶を啜っていると、フェルナンドが慌てた様子で俺を呼んだ。


「歓談中、大変失礼します!」


「構わない。何かあったのか?」


フェルナンドはいつも冷静沈着だ。俺とリクシアが会合していることなどわかっているはず。その彼が俺たちに割って入ってくるくらいなので、緊急事態だ。リクシアには申し訳ないが、優先順位はフェルナンドと判断した。


「実は、エリ・・・」


「兄さん、ただいま!」


フェルナンドが要件を言い切る前に、その要件が俺の方に近づいてきた。


「エリー!!」


俺は最愛の弟、エリオットに近づいて抱きつき、再会を喜ぶ。


エリオットは騎士養成学校に通っていた。3年間のうち、帰ってこれるのはわずかに数回のみ。特にこの1年は遠征や訓練で全く帰ってこなかった。時折、手紙をくれていたので心配はしていなかったが、実際に会うとなるとやはり安心する。


「元気そうで何より。帰ってくるなら言ってくれればよかったのに。その様子じゃ、卒業できそうなんだな?」


「うん。無事に卒業できたよ。今度、卒業式があるんだ。手紙でもよかったけど、自分で来たほうが速いから」


そういうと、エリオットは俺の後ろをチラリとのぞく。エリオットがリクシアと会ったのは婚約披露宴のときの短時間のみ。翌朝にはエリオットが騎士学校には帰ってしまったため、きちんと顔を合わせて会話するのは今日が初めてになる。


「改めて紹介しよう。彼女は俺の婚約者、リクシアだよ。リア、こっちはエリオット。僕の弟で3年間、騎士養成学校に通ってるんだ」


「お久しぶりです。エリオット様。改めて、ハーツ公爵家長女、リクシアと申します」


「私はバルサバ辺境伯家次男、エリオットと申します」


リクシアはカーテシーで、エリオットは最敬礼でお互いに挨拶を交わす。


「エリオット様は騎士養成学校に行かれてたと。最短の3年で卒業するのはごく一握りと伺った記憶がありますが」


「よくご存知ですね。同期は100人ほどいるのですが、今年卒業するのは僕を入れて5人だけです。それも首席で卒業しました」


「まぁ、すごいですね」


エリオットとリクシアで話が盛り上がるところで、俺は口を挟む。数ヶ月前まで、リクシアと気が合えばエリオットと繋がってもいいと思っていたが、今の俺の心は嫉妬の炎に包まれている。


「ま、まぁ、エリオットの話はそのくらいにして。それよりもフェルナンド。何かあるんじゃないか?」


俺は2人の話に口を挟み、まだその場にいたフェルナンドに声をかける。2人の話を止めたかったのもあるが、フェルナンドが何かいいだけだと感じたのも事実だ。


「ありがとうございます。実はエリオット様はどうやら街中でも乗馬してこられたようで・・・」


フェルナンドの言葉を聞いて、エリオットはハッとし、俺は頭を抱えた。


「もしかしなくてもリオ、途中の村でも馬を飛ばしてないだろうな?」


「いやー、いち早く兄さんに会いたかったからさ」


ハハハ、と乾いた笑いを発するエリオットだが、話は笑い飛ばせない。騎士の格好をした男が馬を飛ばして領主の屋敷に突っ込んだのだ。緊急事態ではないか?と心配するだろう。


「リオ、町長のところに行くぞ」


「えー」


「えー、じゃない!ほら、早く済ませるぞ!!」


渋るエリオットの尻を叩きながら、俺はリクシアに頭を下げる。


「せっかく時間を取ってもらったのにすいません。エリオットと街に行ってきます」


「いえ、お気になさらず。気をつけていってらっしゃいませ」


リクシアとサマンサに見送られ、俺はエリオットを連れて街に出る。


馬車で向かってもいいのだが、エリオットとの久しぶりの再会なので歩いて向かうことにした。


「噂のイメージとは違うね」


エリオットが俺に聞いてきた。リクシアのことだというのは、聞かなくてもわかる。


「手紙に書いた通りだったろ?」


「そうだけど、兄さんが騙されてるか心配だったんだ。でも、彼女から悪意は感じなかった。美人だし。なんでデューク殿下は婚約破棄なんかしたんだろ?」


「わからん」


本当は殿下がユーリ男爵令嬢に恋をし、その責任を全てリクシアに押し付けただけなのだが、この場で言うべきことではない。


ただ一つだけ言えることがある。


「リアが来てくれてよかったよ」


俺の言葉を聞いて、エリオットは目を細めた。


「遠征とかで婚約者様の顔をきちんと見れなかったからさ。兄さんが気に入らなければ、僕と結婚してもらってもよかったなかって思ってた、ん、だけど・・・」


エリオットが言った内容は仮定であり、冗談である。それがわかっていたが、それでも嫉妬と怒りは漏れ出てしまったらしい。


「兄さんとお似合いだと思うよ。うんうん」


騎士のエリオットが気圧されるくらいなので、俺もバルサバ家の長男として、最低限の素質はあるようだ。


「そういうお前は、いい人はいないのか?」


「いないねぇ。わずかながら女性はいるけど、好き合う前に剣を構えるような人たちだからね」


「それもそうか」


とある姉妹を思い出し、俺は愚問だったと納得する。


その後、2人は街を束ねる長に挨拶と、弟の愚行を謝る。また、町民への過度な不安を払拭するように依頼した。


急な帰宅だったために豪華な食事とはいかなかったが、エリオットが無事に3年で、しかも主席での卒業となったことを祝った。屋敷に帰ると母からお小言をもらったらしいが、夕飯の席ではにこやかであり、やはり心配していたのだな、と思う。


「じゃあ、帰るよ」


翌朝、エリオットは学校に帰るというので、見送ることにした。


「帰りにちゃんと説明しながら帰るんだぞ」


エリオットが馬で飛ばしたのはこの街だけじゃない。街中では馬に乗ってないと言っていたが、騎士が村で休憩せずに屋敷(ここ)に向かって飛ばせば、そこに住む領民たちが考えることは一緒だ。


「大丈夫だって。兄さんからの手紙も持ったし」


エリオットだけでは不安なので、昨晩、街や村の長宛に手紙を書いてある。これで長たちも安心だろう。


「兄さんが卒業式に来れないのは残念だよ」


「僕も残念だけど、仕方ないよ」


本当はエリオットの勇姿をこの目で見たいのだが、ちょうど同じ時期にパーティの出席のため、俺も王都に行っている。代わりに母が弟の勇姿を見、俺の後見でもある祖父が俺たちに同行する予定だ。


「義姉さんによろしく」


昨日の帰り道、リクシアのことをどう呼ぼうかと思案していたが、義姉さんと呼ぶことにしたらしい。リクシアは一人っ子だったため、兄弟ができて嬉しいと喜んでいた。


「気をつけて帰れよ」


俺はエリオットに声をかけ、彼が見えなくなるまで屋敷の前で立っていた。


その後、にわかに屋敷は慌ただしくなる。新年を迎える準備や人員の入れ替えなど、この時期ならではの雑務が増える。


さらに今年は俺とリクシアのパーティー出席やエリオットの卒業式にテレサが参加するなど、屋敷に主人がいない時間がある。パーティには普段事務方を取り仕切っているダンも出席するということなので、より一層忙しい。


幸い、フェルナンドが屋敷にいてくれる上に、わざわざ叔父であるナサニエルが来てくれるらしい。


「リクシア嬢と一緒じゃなくてよかったのか?」


見送りに来たナサニエルが言う。


「仕方ないですよ。仕事がありますし、リアも旧友との再会を楽しみにしてましたから。叔父上こそ、わざわざ来ていただいてありがとうございます」


「いやいや。辺境伯の仕事よりはよっぽどやることは少ないからね。王都よりも近いし。でも、期待しないでくれよ。当然だけど、重要な決定はしないつもりだから」


「ええ。叔父上がいてくれることで、指示系統も確立します。文官も領民も安心でしょう。最短で帰ってくるつもりですが、何かあれば、それこそ王都への道中でも帰ってきますよ。じゃあ、行ってきます」


「気をつけて」


俺は馬を引き、屋敷を後にする。


俺は馬に乗れるので急げばその日のうちに着くが、リクシアやダニエルは乗れないので、少なくとも3日、荷物を考えると1週間はかかる。僕は領主として2週間も家を空けていられないと判断し、後から合流することにしたのだ。


もっとも、リクシアは実家に帰るついでに、旧友との再会の約束をしているらしく、2週間ほど早くに屋敷を出ている。無事に着いたという連絡も届いているので安心だ。


ダニエルもリクシアに同行してもらった。リクシアが男と同行するのは抵抗があったが、ダニエルへの信頼と、一つ仕事を頼んだので、あとはその結果を聞くだけである。

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