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序章

皆様の目に留まって幸いです。


しばしの間、お付き合いください。

俺が目を開けると、そこは見慣れた寝室だった。窓の外には夕焼けが広がり、なぜこの時間に自分が寝室にいるのかと記憶をたどる。


その時、突然、頭に激しい痛みが走った。まるで鈍器で殴られたかのような感覚だ。痛みで床に倒れ、のたうち回る。


やがて痛みが和らぎ始めた頃、俺の従者が部屋に飛び込んできた。


「ラトランド様!?」


彼は床に転がる俺を見て、ほとんど悲鳴のような声を上げた。


「あぁ、大丈夫だ」


「そんな青白い顔で言われても、信ぴょう性がないですよ。さあ、ベッドにお戻りください。すぐにお医者様と閣下をお呼びします」


彼は俺を支え、ベッドに寝かせると急いで部屋を出ていった。俺は何か大事なことを思い出しかけていたが、それが何なのかはっきりしないままだった。


しばらくすると、先ほどの従者に続いて父と母、そして外套を着たやや年配の男と、筋骨隆々の壮年の男が部屋に現れた。


「ランド!」


母が駆け寄り、俺の手を強く握る。


「よかった・・・。あなたが倒れたと聞いて、私は胸が張り裂けそうだったわ」


「ランド、目を覚ましてくれて本当によかった」


「ご心配をおかけしました、父上、母上」


俺は元気だと示すため、できるだけ力強く答えた。


「とにかく、先生に診てもらおう」


父がそう言うと、母は涙を拭いながら俺から離れた。父母と一緒に俺の私室に入ってきた医者が簡単に俺を診察し、こう言った。


「今のところ、大丈夫そうですな。薬草を煎じておきますので、これを飲んでおけばよろしいかと」


診察が終わると、医者はその場を後にした。


「ご迷惑をおかけしました」


医者が去ると、今度は筋骨隆々の男が深々と頭を下げた。


「ランドが無事だったからよかったものの、頭を叩いて気絶させるとはどういうつもりなの!?」


母が怒りを露わにし、男に詰め寄る。しかし、俺はその状況が事実でありながらも、真実ではないことを知っていた。それを言おうとする前に、父が口を挟んだ。


「無防備に頭を叩かれたならまだしも、訓練中だったのだ。隙を作ったランドが悪い。わかっているな?」


「はい、父上。わかっています」


俺は父に答えた後、男に向かって頭を下げた。


「師匠。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。これからもご指導をよろしくお願いします」


「そういうことだ。気に病む必要はない。引き続きランドを鍛えてやってくれ、トマス」


「はっ!」


トマスと呼ばれた男は手を胸に当て、部屋を出ていった。彼はかつて名を馳せた騎士で、今は俺の教育係を務めている。昔、魔物との戦闘で足を痛めてからは一線を退いていたが、未だに頼りになる存在だ。


「さて、ランド。お前にはしっかり反省してもらうぞ。しばらくは安静にして、今日のことをよく考えておけ」


「何かあったらすぐに言いなさいね」


両親はそう言って、部屋を出ていった。母は少し不満そうだったが、俺と父が納得しているので口をつぐむ。


「ラトランド様。ご無事で何よりです。お水をどうぞ」


従者が最後まで残り、水の入った木杯を俺に差し出す。礼を言って一気に飲み干すと、水の冷たさが全身に行き渡り、頭も少しすっきりした。


「今日はもう疲れたから、休むことにするよ」


「かしこまりました」


従者は恭しく頭を下げ、静かに部屋を出た。


1人になった俺は、ベッドに横たわりながら頭を抱えた。


ここはどこなんだ?


頭の中ではっきりしているのは、この場所がウェンブリー王国の北端に位置するバルサバ領だということ。バルサバ辺境伯は俺の父であり、その妻が俺の母だ。俺自身はバルサバ辺境伯家の長男、ラトランド=バルサバ、12歳。3歳離れた弟が1人いる。


剣の稽古中に、教育係であるトマスに一撃を食らって気を失ったのだろう。


だが、自分が「自分」である感覚がどこかおかしい。それは夢のようでありながら、夢とは違う。


しばらく思い悩んでいたが、12歳の俺にはこの状況を理解するのは難しいらしい。気づけば眠りに落ちていた。


翌日、朝食を終えた俺は蔵書室へ向かった。ここは辺境のため、遠方から運ばれた写本や記録が蔵書室に保管されている。俺はこの世界について、そしてバルサバ領について調べることにした。


ウェンブリー王国は東西と北に山々がそびえる自然の要塞だ。東の鉱山をめぐって侵略を受けたこともあったが、いずれも撃退してきた歴史がある。その中で、バルサバ領は北方に位置し、軍事力は国一と称される。現在は現王の手腕により国際関係は比較的安定しており、バルサバ領が戦う機会は少なくなっている。だが、魔物や隣国エライセモ帝国の脅威は常に存在している。


日が傾くまで蔵書室にこもったが、情報は予想より少なかった。それでも、俺が一番知りたかった「確信」を手に入れた。


「俺は、この世界を知っている」


この世界は「王子が見つけた真実の愛」というネット小説の世界。平凡な名前に、ありきたりのストーリー。だが、文章は面白く、ランキングは上位に入っていた。


物語は、第一王子が婚約者を捨て、ヒロインとの「真実の愛」を見つけるという内容だ。


俺もランキングが高かったので読んだが、恋人に二股をかけられた挙句に捨てられ、その結果やけ酒で命を落とした今となっては、二股かける話など笑えない。


第二の人生で俺に与えられた役割は「不細工な辺境伯」。作中で名前が出るのは物語後半。王子に捨てられた悪役令嬢との婚約を命じられるだけだ。しかもその名前は王子の口から出ただけで、登場シーンはほとんどなかったはずだ。


姿見を見ると、確かにそこには冴えない少年が映っている。目元は美しい母に、骨格はたくましい父に似ており、確かに二人の子だ。ただ、どこかバランスが取れていない。


俺は今10歳。この世界の登場人物たちが俺にどう関わるのかはわからないが、その時まで、自分のやるべきことをするしかない。そう決意して、俺はこれからの日々を歩み始めた。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


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