第98話 転生者、視察を終わらせる
ハナとの話が終わると、いよいよ宿場町の視察に入る。
今回は街の手前でわざと一泊入れたので時間にはかなり余裕があるからな。
街のメインとなる部分では、ペタルたちが一生懸命作業をしている。俺がさっき指摘した薬草を除去して移動させているようだ。
俺が話をした『緑精の広葉』と『赤霊草』は一株だけでも大金が動く代物だ。そんなホイホイ生えていたら、やって来た連中が目の色を変えてかっさらっていっちまう。犯罪都市にする気はないから、これでいいんだよ。
丁寧に取り除かれた薬草は、領主の館の方へと運ばれて行っていた。その姿を見送りながら、俺はハナと一緒に視察を始めていく。
基本的な街の構造は一つ目の宿場町と同じ。ただ、アルラウネが関わるとだけあってその分緑が多い。ただそのせいで、植え込みではなくてちょっとした林といった感じだ。その分涼しげでいいんだけどな。
「ここは池か」
中央から少し外れたところにある水たまり。ちょっと気になったのでハナに話し掛けてみる。
「そこはわたくしたちの水浴び場ですわよ」
「こんな往来のど真ん中でか?」
ハナから返ってきた答えに、俺は目をひん剥いて驚く。
それも無理はない。街道のから少しだけ外れた、周りに何もない場所にある池なのだから。
「いやいやいや、これはまずい。非常にまずい」
「そうですね。これはいただけません」
明らかに動揺を見せる俺に、カスミも賛同してくれた。
「そうなのですか。他の種族の相手は難しいですね」
ハナはきょとんとした顔で俺たちに言葉を返していた。
まったく、何から何まで常識がずれてやがるな、植物系の魔族は……。
というわけで、さすがに池を移すのは難しいので、周りに囲いを作って隠すことにした。
「お日様が当たりませんですわ……」
ハナはこういって残念がってはいたが、これも街として成立させるためには仕方のない事だ。アルラウネたちには我慢してもらうしかない。
それか、人目に付きにくい高い場所に同じような場所を作るかだ。
俺がそれを提案すると、囲いでいいという返答があった。なので、その方向で進めることになった。
「はあ、なんでこう植物系の連中は自由なんだ……」
視察を終えた俺は、宿場町の広場に設けられたベンチに座り込んでいた。おそらくは屋台の買い食い用に作られたベンチだろう。丸太一本が豪快に横たわる、まったく飾り気のない丸太だ。
それでもけがをしたり服を破いたりしないように、表面はきれいに削られていた。おかげで安心して座っていられるというものだ。
「お疲れ様でございます、魔王様」
「バフォメットか。これで一応視察は終わりかな」
「左様でございますね。人間の馬車で1日ほど移動すれば、王国との境界の門に到着致します。これで後は引き返すだけでございます」
俺の問い掛けに淡々とバフォメットは答えていた。
そうか、ここから人間の馬車で1日移動すれば王国の地に到達するんだな。
その話を聞いた俺は改めて宿場町の周りを見てみる。
周りの雰囲気はどう見てみても魔王領のそれである。人間たちとの生活圏とそれほど近接した地域とは思えない状態だった。やはり魔王領というのはそれだけ人間の住む領域とは違う場所ということらしい。
「とりあえず今日はこの街で一泊してから魔王城に戻るとしようか。もうちょっと様子を見てやらないと、ここのアルラウネたちが何をしでかすか分かったもんじゃないからな」
「御意にございます」
俺の命令にバフォメットは素直に応じていた。
その後の夕食の席では、俺は徹底的にアルラウネたちに釘を刺しておいた。魔族のみならず人間たちもやって来るとなると、今までの常識はまったく通じないからだ。
すると、ハナもペタルも不満げな表情をしていたが、魔王である俺の命令だからと、最終的には受け入れていた。
あれだけ自信たっぷりだったというのに、ふたを開けてみれば問題点だらけ。魔族をまとめ上げるというのは一筋縄ではいかないことを、まざまざと見せつけられた。
「これで問題点はほとんど解決かな。あとは最終的なチェックをして、ようやく街開きってとこだな」
「そうでございますね。本当にここまで長かったですな」
「まったくだ」
ここまで三つの宿場町を見てきたが、魔王城から遠ざかるほどとんでもない状態だった。魔王城から遠いからこそ、気が抜けていたのかもしれない。まあ、種族固有の自由度も高くなっていったのも原因だろうがな。
とりあえず、今回の視察は行って正解だったと結論付けておこう。
「街の整備が終われば、次は居住者だな。すぐさま募集をかけておいてくれ。人間の方の移住者は、俺が向かうとしようか」
「承知致しました。では、引き続き魔王様の事をお願いしますよ、カスミ」
「言われなくてもやりますよ」
バフォメットに命令されて、文句がありながらも従うカスミ。本当に俺にだけ当たりが強いんだよな。まあ、もう慣れたけどな。
不満げに頬を膨らませるカスミ。
「まったく、ついていくのはしょうがなくですからね。まだ私はあなたを認めていませんから」
おいおい、ここでそれを言うのかよ。思わず笑ってしまう。
「な、なによぅっ!」
肩肘を張りながら頬を膨らませる様子は、実に可愛さしかなかった。
「何があっても知りませんからね」
「ああ、いてくれるだけで十分だからな」
俺がそう言うと、カスミは照れながら顔を背けながらも、俺の方に視線を向けていた。本当に可愛い奴だな。
そんなこんなで、俺たちの宿場町の視察は最終段階を迎えたのだった。




