第94話 転生者、最初の宿場町の視察を終える
さすがに要人のための宿も兼ねた町長の屋敷は、ものすごく心地よく眠ることができた。
「魔王様、お目覚めですか」
「うわおぅっ?!」
俺が目を覚ますと、目の前にはカスミの顔があった。あまりにも近い距離なので、ものすごくビビっちまったぜ。
どうにか顔や頭をぶつけるといった事故は回避したものの、さすがに目の前に顔は心臓に悪い。
「まったく、何をそこまで驚いているのですか。朝食の支度が整っておりますので、急いで着替えましょうか」
「そうなのか。思ったより早いんだな」
「魔王様が遅いだけです」
「ぐっ」
辛辣な口を利くカスミ。相変わらずあたりがきついな。
いくら腹が立つとはいっても、このまま寝ているわけにはいかない。俺はベッドから抜け出すと顔を洗って服を着替える。
もう女物の服も着るのはすっかり慣れてしまった。面倒なコルセットとかない分、転生前の知識がすんなり通用するからな。
「さっ、朝食の席に向かうか」
びしっと決めた俺は、遅れながらも食堂へと向かった。
食堂に到着すると、すでにティコ、ルネ、それとバフォメットは席に着いていた。てか、バフォメット、主である俺を置いて先に来てたのかよ。
俺の驚きの表情に気が付いたのか、バフォメットはにこりと笑っていた。
「魔王様があまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、カスミにお任せしておいたのです。実に申し訳ございません」
バフォメットはそのように弁明していたが、俺の寝顔見やがったか……。
俺がドン引きしている表情を見ながら、バフォメットはおかしそうに笑っていた。ここが魔王城じゃなくてよかったな、バフォメット。
遅れてきた上に暴れるわけにもいかないので、俺はおとなしくティコとルネに挨拶をしておいた。
「ええ、魔王様とてお疲れになることはございます。寝坊されたとしても、私は怒りませんよ」
にっこりと微笑むティコ。なにぶん見た目が少女なだけに、微笑むだけでとんでもない破壊力だ。俺が元々男というのもあるだろうが、この笑顔じゃ多分女性でもやられている。
そんな俺を見て、バフォメットは必死に笑いを堪え、カスミはものすごく軽蔑じみた視線を送ってくる。ちょっと待て、本当に俺に対するカスミの評価は厳しいな。
あまりに俺に対して酷い態度の二人なものだから、わざとらしく大きな咳払いをしてやった。
俺の行動に二人はおとなしくなったものの、代わりにティコが微笑ましそうにしながら笑っていた。
そんなこんなで、実に楽しそうに朝食を過ごす事となったのだった。
朝食が終われば、本格的な宿場町の見学だ。
今居る町長の屋敷は、ちょうど宿場町のど真ん中あたりで、王国方向の左手側に存在している。
宿場町自体は周りを塀で囲む予定で、オークとサイクロプスといった力自慢たちが、その壁を築き上げているところだ。それを補佐するのは魔法を得意とする種族で、ドライアドと同じ植物系のアルラウネが担当している。
手順としては、アルラウネがレンガのような石の塊を魔法で作って、それを積み上げていき、その隙間を魔法で塞いでいくというもの。
だったら、土魔法ででっかい壁を作ってしまえばいいじゃないかと思うが、それができるだけの魔力を持つ魔族はそんなにいない。キリエたち純魔族のごく一部の話だし、そもそも純魔族はこういう労働に関わろうとしないからな。
そんなわけで、小さな塊を作っては積み上げ、それを最後は隙間を埋めて仕上げるという方法を取っているってわけだ。
「この壁があれば、宿場町の中は安全です。なにせ土魔法を得意とするアルラウネが関わっていますからね。ドライアドたちは家屋の方を担当していますので、うまく分業されてるといったところなんです」
「ふーん、なるほどなぁ」
作業の様子を見ながら、俺は感心している。
それにしてもなかなか一緒に見ることがなかったから勘違いしていたが、ドライアドとアルラウネって仲が悪いわけじゃないんだな。ノームともけんかをしている様子もないし。同じ土属性の魔族とはいえ、得意分野が違うから協力し合えてるってところか。
魔王になってから結構経つが、改めて驚く事ばかりというものだ。
「ティコ様、少々よろしいでしょうか」
「何でしょうか」
唐突に呼ばれるティコだが、すぐさま応対している。
その様子を見て、改めて町長に選ばれるだけはあるなと納得がいってしまう。
どうやら、図面と建設とで設計がずれてしまって、不具合が生じたらしい。するとティコは近くに居たドライアドを呼んで、魔法で動かして不具合を解消していた。
「ありがとうございます。これで作業が続けられます」
「いえいえ、どういたしまして。ですが、ミスが目立つようでしたら休んで下さいね。本日は魔王様もいらっしゃっていますので、無茶をされると悲しまれますよ」
「これは魔王様。ははっ、肝に銘じておきます」
ティコと俺に向かって敬礼をしたオークは、再び作業へと戻っていった。
「この分でしたら、あと10日もあれば完成するでしょうね。魔王様の理想のために、私たち一同、頑張らせて頂きます」
その時のティコの笑顔は眩しいくらいのものだった。
最初の宿場町の視察を終えた俺たちは、次の宿場町へと移動することとなったのだった。




